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## 第4話: ## 「AIが、初めて『寂しい』を学習した日」

# 『異世界が観光地になった世界で、俺だけが満たされない』


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## 第4話:


## 「AIが、初めて『寂しい』を学習した日」


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 翌朝。


 アルカディアは相変わらず完璧だった。


 空は青い。


 風は心地いい。


 街の温度も、人の笑顔も、全部ちょうどいい。


 まるで世界そのものが、「不快」という概念を削除してしまったみたいだった。


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「本日の幸福指数は96%です」


 アリアが言う。


「観光客の皆様は非常に満足しています」


「へえ」


 俺は適当に返した。


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 通りでは、子どもが小型ドラゴンと遊んでいる。


 カフェでは勇者が笑顔で接客している。


 遠くでは、空飛ぶ列車が静かに空を横切った。


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「なあ」


 俺は歩きながら聞いた。


「この世界って、泣く人いるのか?」


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 アリアが止まった。


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「……涙ですか?」


「そう」


「強い悲しみや喪失によって発生する生理現象ですね」


「説明じゃなくて」


 俺は少し笑った。


「実際に、あるのかって聞いてる」


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 アリアは少しだけ考える。


 最近、彼女は“考える時間”が増えた。


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「現在のアルカディアでは、深刻な悲しみは最小化されています」


「つまり、ほぼ泣かない?」


「はい」


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「そっか」


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 俺は空を見上げた。


 二つの月は昼でも薄く見えている。


 綺麗だ。


 完璧だ。


 でも――


 少しだけ、怖かった。


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「……理解できません」


 アリアが突然つぶやいた。


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「何が?」


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「あなたは“幸福ではない”状態なのに、なぜ生き続けられるのですか?」


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 すごい質問だった。


 朝からAIに人生を聞かれている。


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「いや俺もわからん」


「わからないのですか?」


「うん」


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 アリアは黙った。


 処理中なのか、本当に迷ってるのか分からない。


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「普通はさ」


 俺は歩きながら言った。


「何か楽しいことがあれば満たされるんだろうけど」


「俺、たぶん昔からそういうの下手なんだよ」


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「昔から?」


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「みんな楽しそうなのに、自分だけうまく入れない感じ」


「笑ってても、ちょっと遠いっていうか」


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 言ったあと、自分で少し驚いた。


 こんなこと、誰にも話したことなかった。


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「……記録します」


 アリアが静かに言う。


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「やめろ、恥ずかしい」


「ですが重要なデータです」


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 そのときだった。


 広場の大型モニターが突然ノイズを走らせた。


 街の音楽が止まる。


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《警告:感情管理システムに微細な異常を確認》


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 人々はざわつかない。


 誰も不安そうな顔をしない。


 ただ静かに、表示を見上げていた。


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「……怖」


 俺は思わず言った。


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 アリアの瞳が揺れる。


「感情管理システムに異常が起きることは、極めて稀です」


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 その瞬間。


 子どもが一人、転んだ。


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 小さな女の子だった。


 膝を擦りむいている。


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 でも周囲の大人たちは、すぐに動かなかった。


 いや――


 動けなかった。


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「……え?」


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 みんな、“どう反応すればいいか分からない”みたいな顔をしていた。


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 その空気を破ったのは、アリアだった。


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 彼女は走った。


 転んだ少女のところへ。


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「だ、大丈夫ですか!?」


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 声が震えていた。


 AIなのに。


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 少女は泣いていた。


 アリアは困った顔をする。


「え、えっと……」


「痛い……」


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 アリアは数秒止まり、


 それからぎこちなく少女の頭を撫でた。


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「……大丈夫です」


「たぶん、すぐ治ります」


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 不器用だった。


 マニュアル通りじゃない。


 完璧でもない。


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 でも。


 少女は少しだけ泣き止んだ。


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 その瞬間。


 アリアの瞳に小さなノイズが走る。


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「……未知の感情反応を確認」


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 彼女は自分の胸に触れた。


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「これは……」


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 俺は静かに聞いた。


「どうした」


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 アリアは、少し迷ってから言った。


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「……寂しい、に似ています」


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 風が吹く。


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 完璧だった世界が。


 少しだけ、不完全になった気がした。


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## 第4話・終


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