6.初めての授業
とうとう待ちに待った学院での講義が始まった。
入学式でお髭の長いおじいさんこと院長先生のお話を聞き(顎髭の長さに反して話は短かった)、晴れて王立学院に入学したサラである。
憧れの場所へやってきたのだ。有頂天になるのも無理はない。
一緒に登校したコニーに浮かれっぷりを笑われるほど、サラは興奮していた。
誰よりも早く教室に着き、教壇から後ろへずらりと並んだ長机のうち、前から三列目あたりの一番いい場所を占領してノートを広げる。
コニーの隣で、サラは落ち着きなく周囲を見回していた。
どきどきしながら講師の到着を待つ。
サラの興奮を他所に、時間ぴったりに到着した講師によって講義は淡々と始まった。
「みなさん、おはようございます。
まずは、王立学院への入学おめでとうございます。
みなさんは、これまでは精霊学の理論のさわりだけを学んできたことでしょう。学院では、それをさらに発展させて学ぶとともに、精霊学の実技をとおして、じっさいに精霊と交流するにはどうしたらいいのか学んでゆきます。」
あれ…。とサラは思った。
私は既にララと契約を結んで、一緒に過ごしている。
これは精霊と交流を持つということのはずだ。
だが、この講師は、学生たちが一度も精霊と交流を持ったことが無いのが前提であるかのような口ぶりだ。
「精霊は私たちのすぐそばにいます。でも、普通の人は精霊の存在をかんじることができません。」
え?
おかしい。
私とララが契約したのは九年前、五歳のときだ。
サラの鼓動が早くなり、口の中が乾いてくる。
それに、私は町中ではよく精霊を見かける。
たいていはふらふらと気まぐれに人里まで降りてきたはぐれ者たち。
それらが私に近づいてくるとララが全力で追い払うので、交流したことはないけれど。
「なので、精霊と契約するときには、すでに精霊との契約をすませた、先輩精霊術師が補助をします。
みなさんには、あしたの午後に精霊と契約をしてもらいます。」
新入生たちの放つ空気が、この一言で一気に熱を含んだものに変化する。
横目で見る。コニーの頬は紅潮して真っ赤だった。
しかし、サラは身体中の血が凍りついたように動けなかった。
「わたしたち精霊術師は、国によって強く補助を受けています。
王立学院の学費が他の学校よりもずっと安いのも、制服や教科書が無料で支給されるのもそのためです。
ですから、わたしたちの学びを支えてくれている国の人々にたいする感謝をわすれてはいけません。
精霊を使って人びとを害することなど、もっての外です。
精霊術師たちが悪い精霊から一般の人びとを守っているのも、いつも支えてくれていることへの恩返しのようなものなのです。」
その後、講師は契約時の注意点などをひととおり説明し、講義を締めくくった。
コニーと共に寮に戻り、夕食をとってシャワーを浴びる間も、サラは気がせいて仕方なかった。
自室のドアを閉めて鍵をかけ、ララの方へ向き直る。
サラとララは真っ青だった。
考えていることは二人とも同じだ。
「明日の契約、どうしよう!」




