3.初めての首都
「サラ、起きて、起きて!」
ララが揺り動かてくる。
まだ眠い。もう少しだけ寝ていたかったサラは、ベッドの端の方へ丸まって逃げた。
「今日はコニーに街を案内してもらうんでしょ。早く起きて支度をしないと、間に合わないよ。」
昨日のうちに、ララもすっかりコニーを気に入ったようだった。
「サラ、やっぱあの家をでて正解だったよ。」
「ほんとにね。今のとこ、全てが怖いくらいに上手くいってる。」
「残るはサラが家族に『ざまあ』をすることだけだよ。」
「それはしないって言ってるでしょ。」
精霊たちは私たちとは物の考え方が違う。
ララと暮らし始めてサラが痛いほど感じたことだ。
精霊にとって重要なのは、面白いかどうか。
それでも一般常識のようなものはある。
それは人間と協力関係を結ぶこと。
その昔、大精霊とこの国の始祖たちが結んだ古い古い条約でそう定められているからだ。
そんなこんなで支度が終わり、コニーと合流して階下の食堂へ向かう。
ベーコンエッグトーストをほおばりながら今日の予定について話し合う。
「サラは地元から電車で来たんだよね?」
「うん」
「それなら駅の場所は案内しなくても大丈夫だよね。入学の手引は読んだでしょ?
まずは、本屋さんと、雑貨屋さん、仕立て屋さんへ行こう。教科書を受け取って、制服の採寸をしなきゃ。それ終わったら、バスに乗って駅の方まで出て、コーヒー豆を買いに行くの。授業で使うのよ。」
「コニーも一年生なんだよね。なんでそんなに詳しいの?」
疑問に思ったので訊いてみる。
「驚くなかれ、うちの兄さんも王立学院の出なの!母さんが兄さんのぶんの用意をしているのを見てたから、支度のことはばっちりよ。」
「そうなのね」
寮母さんがお昼に食べるように包んでくれたサンドウィッチの入った包みを抱えて、二人は首都へ繰り出した。
大通りを行き交う人々は、驚くほどに鮮やかで色とりどりだ。
故郷の田舎っぷりを思い知らされる。
「サラ!よそ見をすると引かれるよ!」
コニーが叫んでいる。
慌てて前を向くと、青い小型車がこちらへ突進してくるのが見える。
ぎりぎりのところで避けたサラは、道路を渡り切って向こう側で待っているコニーに急いで追いついた。
「ありがとう。危なかった。」
危なかった。ララがこっそりサラの背中を押してくれたから避けられたけど、ララがいなかったら車に撥ねられていたかもしれない。
「もう。気をつけなさいよ。首都ではよそ見は厳禁。今みたいに車に引かれるし、スリだって多いんだから。」
「そうね。気を付ける。」
五分も歩かないうちに、商店街に着いた。
学院の近くなので、生徒が利用しやすいように良心的な価格設定のお店が多い。
本屋で教科書を受け取り、雑貨屋でペンとノートを買い、制服を採寸する。
友達と二人で過ごす時間は、サラにとって何にも代えがたかった。
故郷の町では、学校に入りこそしたものの、みんなはなんとなくサラが家でどんな扱いをされているのか察して、腫れ物に触るような扱いをした。
こうして普通に人と話せるのがどれほど嬉しいか。
そんなことを考えていたら、自転車とぶつかりそうになったが、寸前でララが避けさせてくれたので、何とかぶつからずに済んだ。
「やっぱりサラはララがいないとダメなんだね!」
ララはなぜかちょっと嬉しそうだった。




