2.期待に満ちて
「ねえサラ!『ざまぁ』してよ。あたしサラならできると思うの!」
さっきからうるさいのは、契約精霊のララ。
「だって、家族に虐げられてるなんて、まさにサラじゃない。あたし小説と同じような展開が見たいな。ねえ、やってよ!」
5歳の誕生日。
嵐の夜にうちに迷い込んだララに、夕食のパンとミルクをこっそり分けてあげた。
それ以来、私と契約してくれている、数少ない私の味方。
「いやよ。時間がもったいない。私はここで学生生活を満喫するの。家族なんかに関わっている暇はありません!」
サラはこっそりとララに囁いた。
汽車を二つも乗り継ぎ、バスに乗り。
サラは学院の寮へ到着した。
実家から約二時間の長旅である。
トランクを持って、寮母さんのあとについて階段をえっちらおっちら登る。
寮母さんは階段を登り切ると、ずらりと並んだドアのうち、一番手前のドアを指差した。
「着いたわよ。貴方と同室になるのは、コニー・ベラ。気のいい子だから、余程のことがない限りは仲良くできると思うわ。あなた、首都にくるのは初めて?」
「はい、そうです。」
「そう。じゃ、コニーにこの辺りを案内してもらうといいわ。あの子は首都の出身だから。家族も近くに住んでるのよ。」
分からないことがあったら聞きに来るようサラに命じ、寮母さんは階段を降りていった。
残されたのは、トランクと、サラと、ララ。
滑らかな木の扉を、数回ノックする。
ぎい…と重い音を立てて開いたドアから、女の子がひょっこりと顔を覗かせた。
見るからに快活そうな金髪の女の子を、サラは一目で気に入った。
「もしかして、貴方がサラ・ベルクマン?私はコニー・ベラ。貴方が来るのをすっごく楽しみにしてたの!」
ベラさんは、ぱっちりした可愛らしい目をきらきらさせた。
「ほんとう?嬉しい。実のところ、ルームメイトがいるって聞いてすごくどきどきしてたの。折り合いがつかない子だったらどうしようって。ベラさんが同室ですごくほっとした。」
女の子は形の良い眉を顰めた。
「ベラさんなんて言わないで!名前で呼んでちょうだい。私は自分のファミリーネームが好きじゃないの。だって短すぎるもの。」
「うそ!私もなの。ベルクマンって、熊みたいじゃない?なんかすごく怖そうな大男みたい。」
知り合って一分も経たないのに、共通点を見つけられて、私は友達ができそうな予感にわくわくした。
コニーは満面の笑みだった。
「サラ、私たち、すっごく上手くやっていけそうね!」
階下から寮母さんの声がする。
「あんたたち、なにを突っ立ったまま喋っているんです。コニー、さっさとサラを部屋に案内してあげなさい。二人とも、明日は何か予定があるの?」
「ないわ。サラは?」
コニーが上目遣いにサラを伺う。
「ありません」
「じゃあコニー、明日はサラに首都を案内してあげなさい。よそから来た人が暮らすには、慣れるまでしばらくかかるかもしれないからね。サラの面倒をよくみてあげるんだよ。」
「すっごくいい!私、サラに首都のことをもっと知ってほしいな。でも、まずは来て!私たちの住処を案内しなきゃ。」
寮母さんへお礼を言うのもそこそこに、サラはコニーに寮の部屋へ引っ張り込まれた。
「ここが玄関。靴べらは靴箱の横ね。」
「ここが共用スペース。バスルームは右手のドアで、トイレは左。使うときにはキーをかけるのを忘れないで。ドライヤーは備え付けのものが使えるわ。」
「そして、ここが貴方の部屋よ。」
案内された部屋は、ベッドと本棚、書き物机だけが置いてある、至ってシンプルな部屋だった。
「サラ、貴方は超ラッキー。この部屋、他の部屋に比べて窓が大きいし、西向きだから夕陽がとっても綺麗なんですって。」
窓からは青空をバックに、赤、オレンジ、黄色、色とりどりの屋根が見える。
道を行き交う人々は、今まで見た道と比べ物にならないくらい沢山で、忙しない。
窓から目が離せなかった。
「綺麗だなあ。」
私、首都に来て良かった。
サラは心からそう思った。




