1.こんな家なんか出てってやる!
サラ・ベルクマンは晴れ晴れとした心持ちだった。
やっと、家を出られるのだ。
サラは家族に見向きもされなかった。
唯一サラのことを愛してくれていたであろう母は、サラを産んだときに遠いところへ行ってしまった。
そのせいで、母の死から立ち直れなかった父はサラのことを邪険に扱い、兄や姉もそれを真似た。
サラのことをぶったり、おもちゃや本を取り上げたり。
ありもしない用事を言いつけては食事を抜かせたり、上手にできなかったとして家から閉め出したり。
本来なら使用人にさせるような掃除を言いつけられたり。
一緒のテーブルでご飯を食べることさえ許してもらえなくなった。
唯一の救いは、乳母が、母がサラが産まれてくることをどれほど楽しみにしていたか、毎晩寝物語で語ってくれたことだ。
おかげでサラは、母の愛だけは疑わずに済んだ。
その乳母も、サラが一人で服のボタンを留められる年齢になると、父が追い出してしまった。
幼いころに別れてしまったので、もう顔も思い出せない。
旅支度を整えたサラは、ダイニングの重い扉を開け放つ。
ダイニングでは、父と兄と姉がゆったりと朝食を取っている。
何も知らずに見れば、暖かな家族団欒の一幕。
サラの居場所はないだけで。
「お父様、お兄様、お姉様。いままでありがとうございました。サラはこの家を出て行きます。」
そのときの家族のぽかんとした表情は、一生忘れない。
これまでの仕打ちを思ってもお釣りがくるくらいの爽快感。胸がすくとはこういうことか。
「なにを馬鹿なことを抜かしているの。頼んでたボタンつけとドレスの裾上げはやっておいてくれたんでしょうね?」
姉のジェニファーが言った。
「僕のレポートを手書きからタイピングに直せと言ったよな。それはやったのか?」
と兄のエドマンド。
「いいえ、やっていません。サラはこの9月から王立学院に進学することになりました。」
「なに?」
父はやっとサラに気づいたようだった。
「嘘をつけ。そんなはずはない。父親である私は学費を払っていない。なにより、お前みたいな人間が王立学院に行ける筈がない。」
気張れ、わたし。
この、父と呼ぶのも嫌気がさすこの男に、私の努力を突きつけるんだ。
「学費はいりません。」
訝しむ父に、勝ち誇って言い放つ。
「だって、特待で受かったから。」
兄や姉がなにやらぎゃーぎゃー喚いている。
「なので、私は出て行きます。いままでありがとうございました。」
最敬礼で頭を下げる。
サラは堂々と胸を張り、十四年間暮らした屋敷を後にした。
ああ、すっきりした!




