衝撃
今日も今日とて魔力草の採取に来ている。来たくて来ているわけではないがこればかりは仕方ない。今採取しているこれが何になるかわかったからモチベも上がる…
うん、ごめん嘘だ。この間の出来事のせいで生きているのが辛い。あれ以降ギルドに行くたびに憐憫のこもった視線を感じている。そして話は何も進展していない。だから余計に憐れだ。
森は静かで良い。本当に魔物なぞいるのかと思える程に。いや、生き物がいないと言うわけではないウサギや鹿等は良く見る。猪や熊もいるのだろう肉は旨かったのだから。
そろそろ今日の分としては充分だろう。足取りが重い。又あの視線にさらされるのか...そんなことを思っていると、何やら切迫したような怒鳴り声が聞こえてくる。普段なら近づくようなバカな真似はしないが今はまだ少しばかり帰りたくない。ゆっくりと近づいていく怒鳴り声の方にゆっくりと進む。何かの詠唱だろうかそんな感じの声が鮮明に聞こえてきた。これはついに魔法がみれるのではないか口角が上がる。聞こえていた怒鳴り声はほぼ聞こえなくなり詠唱も終わったのだろうか、辺りを静寂が包む。
そして目に入った、何の変哲もない倒れた人達だった。冒険者だろうか新品同然の立派な武器達が共にあった。こんなところで寝ているのかと疑問に思うも先程の怒鳴り声等はなんだったんだと自問する。こんなところで寝ているのは流石に危ない、なにもしないのもどうかと思い肩を叩きつけ声をかける。反応はない。脇に手をいれ持ち上げようとするが肩が脱力してしまいうまく持ち上がらない。違和感を感じ呼吸を確認してみる。息をしていない。急いで次の人も確認してみるが息をしていない。ファンタジーじゃなくホラーやミステリーの世界に来てしまったのか何てバカなこととを考えて最後の一人の確認をする。良かった生きてる。強めに肩を叩き声をかける事を続けると目を覚ましハッとしたように周りを見ながら
「オ、オーガは何処に行った。仲間達が必死に時間を稼いでくれたお陰で私の最大火力の魔法を奴に叩き込むことが出来た。意識を失う前あっちの方に逃げていったのだが何か見なかったか?」と丁度今来た方向を指差した。
何も無かった、オーガどころか生き物がいたような痕跡が何一つ無かったことを伝える。
その事を伝えていると彼女の視線が後ろに行った。すると必死な表情が崩れた。
「すまない、こんな私を守ってくれて。私にもっと力があれば皆を守れたかもしれないのに。すまない。すまない。」彼女の慟哭が虚しく響いた。
かける言葉が見当たらない。
いや女の人にどう声をかければ良いのかとか俺が童貞だから声がかけられないとかの理由ではないと思う。若干の違和感を感じながら彼女が落ち着くのを待った。
落ち着いた彼女が仲間のギルドカードと武器を回収すると
「ギルドに急ごう。こんな浅いところにオーガが出るなんて変だ。この辺りは一人立ちした初心者パーティーが多い。早く対処しないと大変なことになる。あの一撃を喰らって何処かで倒れていてくれれば良いのだが。」
赤く充血した目が痛々しい彼女は言った。
街に着き彼女の姿を見た門兵は驚きながら事情を聞いていた。彼女が回収した剣などの荷物を持っていたからただの付き添いにしか見えなかったのだろう、こちらには何も聞かれず済んだ。
ギルドに着くと躊躇ってしまった。先に入った彼女と同時に入っていれば彼女の方に注目が集まってこちらに向く視線も幾分か少なくなるのではないかそんなことを思っても彼女は先に行ってしまった。
中では彼女が大声をあげて状況を説明している。中がざわついていくのがわかる。今しかないか心を決め歩を進める。
誰一人としてこちらに目を向けなかった。彼女と職員が話している。皆がそこに注目している。すると彼女と職員がこちらに来た。視線がこちらに段々と注がれていく。
耐えられなかった、又あんな目で見られると思うと恐怖心だけが膨らんでいった。ただ彼女達が倒れていたのを発見しただけ、魔物も見ていない。それだけを伝え荷物を置く。軽くなった体でギルドを飛び出した。誰かが何かを言っているような気がしたがどうせ俺の言うことより彼女の言うことの方が信頼される。余計なことを言って余計な手間が増えるそんな気がして全力で逃げ出した。
宿に戻りベッドに倒れ込む、逃げるのは悪いことではないと言われるけど明日以降が余計に憂鬱になった。逃げきれるだけの状況であれば逃げることも選択肢になるとは思うけど逃げきれないのならば再度対峙したとき余計に強大になっていくような気がした。
それにしても変な1日だった。魔物は本当に居たのだろうか?本当に何の変哲もない死体。戦っていたと言うなら傷の一つ、血の一滴でも有っても不思議ではないのに何も無かった。それに新品同然のあの武器はなんだ。狂言か何かだろうか。ミステリーやホラーは見ているだけなら良いが自分が当事者側になるのは馴れない。
もしあの女が明日以降接触を図ってきたら殺されてしまうかもしれない(笑)。ないかそんなこと、出来の悪い3流小説でもあるまいし。