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現実

 あれから採取に行っては疲れきって寝るという日を繰り返している。相変わらずこの臭いと不味い飯には慣れない。幸いにも金を使う機会もあまり無いので僅かばかりだが金も貯まった。


 テンプレ的な事や魔物に会ったり異世界的なイベントは発生していない。これでは今までの生活と何が違うのだろうか…考えないことにしよう。


 そんな日常を変えるために今日は買い物に行こう。異世界的なものに触れてこの現実感を払拭したい。異世界に酔いたい。



 ついに来た、この商店に。門兵のアイツに教えてもらった所にまずは来た。日用品をみているだけでも結構心おどるものだ。異世界だとこんな感じになるのかと感心したものだ。日用品の中に注射器があったのは衝撃だった。これだよこれこれこう言う衝撃がほしかった。店員さんには注射器を前にニヤついている不審者に思われただろうが気にしないでおこう。何も買わないのは流石にばつが悪いので小汚いあの冒険者も門兵のアイツもタバコらしきものを吸っていたのを思い出し買っていこうと店員さんに相談した。

 「あぁ?タバコ?魔力回復薬ね、それならどうする土産用って言うなら少し良いものも視野に入るだろ?それだと加工済みの葉っぱかリキッドタイプ、タブレットも良いぞ。」と怪しげに笑いながら言われた。

 危ない薬じゃないんだからと思ったがここは異世界だセーフなのだろう。よくよく見てみるとここ最近採取してきたあの草っぽい。下手に違うものを買ってもあれなので加工済みのちょっと良い葉っぱを買った。


 若干の異世界感を感じれたことに喜びを感じつつこの上がったテンションで武器屋にも来た。以前前を通った時は厳つい店主に気後れしてしまい店に入れなかっただが今なら行ける。

 

 「いらっしゃい。」

 無愛想な気だるげな声が迎えてくれた。


 そこは正にファンタジーの世界であった。色とりどりの高そうな武器や防具。叩き売りされてそうな樽に乱雑に入れられた3級品そうな剣や槍。見ているだけで楽しかった。心おどった。

 そんな様子を見て店主はめんどくさそうに「何かお求めかい?相談に乗るよ。」と言った。

 現状を伝えると店主はため息をついた後に

 「武器の所持許可証は持ってるか?その調子だと持ってないよな。ギルドカードも正式なものじゃない。それだと売れるものなんてほとんど無いぞ。なに唖然としてるんだ、当たり前じゃないか。何処の誰とも知らぬ奴に武器なんて売ってみろ犯罪に利用されたらたまったもんじゃない。そんなことを未然に防ぐため許可証か正式なギルドカードが必要なんだよ。ギルドで説明受けなかったか?はぁ…冒険者ギルドなんていつの時代もそんなもんか…」


 心がざわつく。店主は何か言っている。悪いのは俺じゃない。間違っているのは世界の方だ。俺は悪くない。店主のオッサンも呆れていたじゃないかそんなことも説明しない冒険者ギルドが悪いんだ。


 唯一買える小振りなナイフをカウンターに叩きつけ急いで店から出た。


 そしてその足で冒険者ギルドに急いだ。

 正式なギルドカードをもらえる条件は何だと聞いた。

 「正式なギルドカード?簡単ですよ魔石の納品です。ゴブリンでもなんでも良いので魔石を納品していただければ今の貴方ならすぐに正式なギルドカードを差し上げますよ。真面目に採取系の依頼もこなしているみたいですし。武器がないと魔物を倒せない?何を当たり前な。頼れる人がいない貴方には難しいと思いますが普通は知り合いの冒険者に指導してもらい常識を学びつつ討伐なども学んでいくのですよ。いきなり田舎から何の伝もなく出てきて少し都会に行けば何とかなると甘い考えの若者が路頭に迷わないようになっている最低限のセーフティとして機能しているだけありがたいと思ってください。自分のしてきたことが世間にどのように役に立っているか知らないとモチベーションも続かないでしょ…」グチグチと執拗に責められる。


 そんなときに救いの手が現れた。あの小汚い冒険者だった。

 「その辺にしといてやれよ。泣きそうじゃないか。こいつも悪気があってやっている訳じゃないんだろ。知らないことを聞きに行ける立派じゃないか。これから誰かに付いて学んでいけば良いさ若いんだから。」


 「誰かに付いてって誰に付けるんですか。季節外れのこの時期にそんなお人好し居ませんよ!簡単には言わないで下さい!…そうだ、そう言う貴方が教えてあげれば良いじゃないですか!」

 「いや、そうは言われても俺だって自分の事で手一杯というかなんと言うか…」

 


 救いの手は無かったらしい。



 うまく言葉に出来ない。

 やけに静かになったこの場所からすぐにでも逃げ出したかった。視線が突き刺さる。人でも殺せるんじゃないかというほどに。

 この間の礼を伝えお礼に買った葉っぱを乱暴に胸に押し付ける。口論を続けていた2人も、口論をやめこちらを見つめていた。

 「もうしばらく採取の依頼を続けてください。こちらでも何とか見つけてみたいと思います。」

 その哀れみのこもった言葉が余計に傷を広げる。

 限界だった。今日はもう帰ろう。色々と買ったせいで懐も心もとない、明日も働かなければ、そんな現実が突き刺さる。


 相も変わらず暗く臭い宿に戻り、汚いベッドに倒れ込む。目蓋の裏には具体的になった自己嫌悪がザクザクと突き刺してくるのであった。

 

 

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