元王女ですが、自称引退した英雄が付き纏って来ます
短いです。ギャグのちシリアス?です。
今日も今日とて、私に付き纏うストーカーになってしまった英雄の騎士に私は泣きそうになりながら訴える。
「聞いているのかしらオズワルド!?」
「えぇ勿論聞いていますよスカーレット殿下」
にこにこと人に好かれる笑顔を浮かべながらオズワルドは私にだけ笑いかけてくる。
因みに二つ名は『紅の最終兵器』だった。決して私の名のせいではないと信じたい。
この男の髪と目が紅いからだと本当に信じたいので、人の噂なんて信じない。
いつの間にか有名になってしまっていた自分の噂など聞いていないことにするのよ!
「かつて殿下だった者よ!私はもう王女じゃないの!分かってる?ずっと聞いてるわよね!?」
「勿論分かっていますよ、あぁ、怒る姿も愛らしい」
「話を聞いて!お願いだから!」
人の話を無視しながらめろめろするな!あの頃の冷徹な顔で『殿下は馬鹿なんですか?貴女が怪我をしたら飛ぶのは貴女以外の頭なんですよ』と罵って来た貴方は何処に行ったの!?
「聞いていますよ。次は何になりたいんですか?おすすめは元騎士の妻とかですね!凄くおすすめですよ」
「『十も年下の女なんてお呼びじゃないです』って言ってたじゃない!その貴方を何処に置いて来てしまったの!?」
「わりと出逢って早々に捨てましたよね、そのスタンス。何ですが、スカーレット殿下はああいったのがお好みで?それなら演技しなくもないですけど…でも一生演技し続ける夫婦とか辛くないです?」
何その仕方ないのは私、みたいな感じ!?私が悪いの?いや、大体悪いんだけど、それを認めて、うん、妻になる!って言う訳にはいかない理由があるのよ。割と重たい理由が!つまりこの男を何とか諦めさせないといけないの。
「貴方と夫婦になりたくないから王女辞めたんだけど!分かってるの!?」
言ってやった!言ってやったわ!胸が痛むけど、今日こそは私を諦めなさい!そして何処か私の居ない所で幸せになりなさい!!
「はい。だから騎士なんか引退して来たじゃないですか。貴女以外を守る意味も私にはありませんし」
「英雄騎士よ!意味を持って!私以外に!」
何『もう障害はありませんよね?』からの『えぇ?今更?無理言うなぁ』みたいな顔して!ちょっと嬉しかった!悔しい事に!いやいや流されては駄目よスカーレット。
「貴方が私を褒賞に望んで貰えないならこの国も落とすとかえげつない事お父様に言うからお父様が面倒な事思いついて王位継承がややこしい事に!!」
「もういっそスカーレット殿下が女王様になったら良いのでは?それならこの国に仕えますよ。まぁ結婚はしますけど」
「それならいっそ貴方が王にでもなれば良いじゃない!!」
「似合うと思います?私が国を統治するとか」
似合うと思えたらこうして逃げていないのが悲しい現実。
だからと言って女王になれと言われたらそれはそれで嫌。無理。優秀な双子のお兄様に囲まれて育った劣等感舐めないで。
と言うかあの二方に要求されたのはそんな微妙な未来ではない。もっと現実的な将来だ。
「もう私にどうしろって言うの!執着が怖い!もう愛と言うか執念じゃないのそれ!?」
「貴女が欲しいな、と言う執念ですよ」
「可愛く言っても駄目なんだから!お兄様に仕えなさいよ!」
「あの二人は私が居なくてもやっていけるでしょう?殿下は目を離したら直ぐ死んじゃうじゃないですか、ほら」
死角から飛んで来た矢をオズワルドが斬り落として、暗器を元の場所に投げ付けた。と同時に死体が落ちて来て、一瞬しか驚かない自分が悲しくなってきたわ。
「元はと言えば貴方が私の護衛をいびり倒して帰したからじゃない!ありがとう!!」
「そこでお礼を言ってしまう貴女だから好きですよスカーレット、どういたしまして」
それで、といつものようにオズワルドは笑う。
「いつ参りますか、お母様のところへは」
まるでピクニックに行きますか?とばかりに確認して来た。
「まぁ私と貴女が結婚しては正妃様は面白くないでしょうね。妾であるお母様の身が心配だと分かっているつもりですよ、私も」
「………不思議よね。殆ど可愛がってもらった記憶なんて無いのに。馬鹿みたいだと思うけど、それでも切り捨てる勇気が私には、無いの」
母は私が幼い頃に城から遠い離宮に移された。
私は女の王族として利用価値があったから城に残された。利用出来る様にする為に知識も、所作も身に着けさせて貰えた。
本来なら私は隣国の王子と結婚する筈だった。その為に育てられた。
それなのに、この男が否と言ったのだ。
自分に恋をしていると分かっていて、他の男に嫁になどやらないと。やるくらいならその国を自分が落として来ると言った。
そしてオズワルドは、私の夫になる筈だった男を、その一族を殺して来たのだ。そしてその褒賞に私を望んだ。
この男は最初から最後まで私しか欲しがらなかった。
私は、父王にこの男と子を成して、男子が産まれたらその子に王位継承一位を授けようと言われた。
そして正妃様にこの男を御して殺せ、出来なければお前も母親も殺すと言われた。
だから逃げ出した。私が居なくなれば丸く収まると思ったの。私が死ねば、少なくとも、これ以上悪い方には転がらないんじゃないかしら、と。
「子供の頃にも似たような事を言いましたけど、殿下が居なくなって死ぬのは、殿下じゃないんですよ」
私に殺されるのはね、貴女だけは有り得ないから。と歌うようにオズワルドは語る。
「もう王も正妃も殺してしまいましょうよ。そうすれば聡明な王子達は静かになります」
貴女はただ、私を望んで、良いよ、と許可をくれたら良いんです。そう笑う。
「もう私は騎士でもありませんから。もっと我儘をしようかと思います。もういっそ、皆にお前は国内随一の暗殺者に堕ちたのだと嗤われても良い」
私は、どうしたかったんだろうか?何を守りたかったんだろう。何が欲しかったのかな…?
「……私は、普通に、オズワルドと幸せになってみたかった」
そう、幼い頃から夢見たのは、王子様の花嫁じゃない。この騎士と、幸せになる事だった。
私の願い事に、オズワルドが珍しく照れたように笑う。
「壮大な夢ですね。叶えがいあります」
「夢を見ても良いのかな?貴方をそんな血に塗れさせた後に」
オズワルドはきょとんとした後、可笑しそうに笑う。私の手を取ると、跪いて、手に口づけた。幼い頃から幾度とされたその動作が、今日は何処か違う感じがした。
「貴女が気にする事はありませんよ。私達が普通に幸せになるのを邪魔したのですから、気にする必要ないんです」
私はオズワルドの手を握った。そして内緒話をするようにその耳に顔を寄せた。
「……そっか、オズ、私ね、ちょっと疲れちゃったな」
くすくすと耳障りの良い笑い声が聞こえた。
「そうですね、ずっと頑張っていらしたから」
そう言ってオズは私を抱き締めた。労わるように背中を撫でてから、そっと身体を離して、二人で顔を寄せて、キスをした。
「オズが欲しい。幸せになりたい、したい。だから貴方に私をあげるから、して。」
「やっと言ってくれた。叶えます、必ず」
結局、貴方の手を沢山染めてしまったけれど、オズは一番欲しかったものが手に入ったから全く気にしないと言って笑っている。
私の腕の中の我が子も、王位なんて気にしないで笑っている。
欲しかった夢は、現実になって、今、此処にある。
読んで下さってありがとうございました。
溺愛?偏愛物?大好物です。誰かの癖に刺さりますように。
4/20加筆修正。