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好感度の見える私は公爵令嬢の取り巻きをやっている

作者: にふゆ

「エドウィン様のお誕生日の贈り物を何にしたらいいか迷っているの。欲しいものがわからなくて……」

「私めにお任せください!」


学校のラウンジにて。頬に手を当てながら憂い気な溜め息を吐くのは公爵令嬢のイザベラ様。たっぷりとした金髪の縦ロールがいかにもなお嬢様だ。

そしてエドウィン様というのは彼女の婚約者でこの国の王太子、つまりイザベラ様は未来の王妃というわけだ。

対して、彼女の悩み事に対して胸をどんと叩いて応じたのは平民の私ことエマ。栗色の髪と目をしたどこにでもいそうな女子である。

私もイザベラ様もエドウィン様もこの学園に通っている生徒で、同級生だ。

しかしいくら同級生といえど、私は平民。このカースト最高層どころか天辺に位置する人間の取り巻きなんてやれる立場なんかじゃない。しかし、私にはとある特技があった。

イザベラ様は私の言葉に満足そうに微笑む。


「あなたの占いはよく当たるものね。期待しているわ」

「光栄です」


そう、占い。

私の一族は占いを得意としていて、私も例に漏れずそのスキルがあった。

ただ私の占いはちょっと特殊で。未来が見えるとか失せ物を見つけるとかではなく、特定の個人から特定の人や物に対する好感度を数字として見ることが出来た。

例えばだけど、エドウィン殿下がイザベラ様を見ているときに私が好感度を見ようとすると、殿下の頭上に数字が現れる。これが殿下からイザベラ様に対する好感度で、ゼロが最低で大嫌い、百が最高で大好きにあたる数値だ。物に対しても同様である。

イザベラ様と殿下の仲は現時点でも悪くないが、私はこの力をイザベラ様と殿下の仲をより良好になるように役立てていた。

理由は簡単、イザベラ様のお父上に雇われているから。

お父上は娘が王家に嫁入り完了するまで安心ができないらしく、うちの一族にも話を持ちかけたのだ。

うちの一族『にも』というのは、イザベラ様の取り巻きには私みたいのが他に何人もいるから。見た目はお淑やかお嬢様だけど護衛が出来る子や毒に詳しい子など、どんな伝で集めてきたかわからない女の子達がゴロゴロいる。とどのつまりビジネス取り巻き。

一応言っとくと、イザベラ様のお人柄に惹かれてご友人として取り巻きをやっている方もいるし、ビジネス取り巻き一同も控えめだけどお優しいイザベラ様への好感度は高い。私が言うんだから間違いない。

さて、そんなわけでうちの一族から差し出されたのがこの私。喜んで差し出された。

だってお金もらえるし、ただで学校に通わせてもらえるし、卒業後の就職先も面倒見てもらえると聞いたらこっちがちょっと申し訳なくなるくらいの好条件。占いスキルが特殊すぎて占い師としてやっていくことに不安があった私が飛び付かないはずがなかった。

まあ、話を聞いた時は公爵はずいぶんと心配性なんだなって思ったんだけど、結果としてそれは杞憂じゃなかった。


だって、いたのだ。モンスターが。


モンスターは良いように言えば天真爛漫、率直に言えばチャランポランのとある男爵令嬢のこと。

婚約者がいてもいなくても構わない姿勢で高位貴族のイケメンに片っ端から粉をかけていき、挙げ句の果てには王太子をもターゲットにした。いくら学園が身分に関わらず平等とうたっていたとしてもそんなのは建前だって誰でもわかる。有り得ない行動だ。

しかもその上、どこから聞きつけたのか私に王太子から自分への好感度を教えてくれと頼みに来た。

あまりに不審すぎて公爵様にチクった。

そのせいかあの男爵令嬢は自主退学していなくなったけれど、あれを見ちゃったら心配性だなあ~とか笑ってられない。私達取り巻き一同に緊張感が走った。

とりあえず、あそこまでやばい奴は今のところ出現していないので、目下の目標はイザベラ様とエドウィン様の仲をより良好にすること。つまり私の輝く時というわけだ。


さて。そうなると、私のやることは観察一択である。対象物同士が視界に入れば数値化は可能なので見ているだけでいいのだが、逆に言うと見ていないといけない。 

そういうわけで、王太子の観察だ。昼休みの時間、彼は中庭にいる事が多く今日もそうだった。

観察については幸い、王妃譲りの美貌を持つエドウィン様にはファンが多く、熱烈な視線を向ける生徒は大勢いるため私もそこに紛れることができる。……できるはずだったのだ。


「やっほー、エマちゃん」

「……こんにちは。セラ様」

「固いなあ〜。セラくんって呼んでよ!」

「ご冗談を。戯れが過ぎますわ……」


王太子の側にはいつも護衛兼友人が二人ほど張り付いている。

一人はアーサーという騎士団長の息子。武道の腕前に長けた大柄な男で寡黙な男だ。

そしてもう一人は宰相の息子で、セラという。薄茶の髪と薄いグレーの瞳をしたタレ目の男で、いつもこうやって軟派な風を装って声をかけてくる。

私の王太子の観察が上手くいかないのは全部こいつのせいだ。いつも観察をしていると、途中でこいつが話しかけてくるせいで好感度チェックもままならない。悲しいかな、身分の差のせいで無視することも、そっぽを向きながら会話することも許されない。

宰相はありとあらゆる情報網に精通していると聞く。もしかしたら、私の能力のことも把握していて、王太子に近づかないよう息子に私を見張らせているのかもしれない。

いや、でも、妙に馴れ馴れしく接してくるし、自分の家の派閥にうちの一族を引き入れるのが目的なのかも。

……まあ、どちらにせよこれじゃあ今はもう『お仕事』は続行できない。

そう判断した私はセラ様に向かって頭を下げる。


「申し訳ありません。私はここで失礼いたします」

「えっ、もう行っちゃうの?お茶とかしようよ」

「用事がありますので」


今度は変装が得意なビジネス取り巻き仲間を連れてきて観察しよう。そう考えてそそくさとその場を後にした私は、背後で悲しそうな顔をしながら私の背中に手を伸ばすセラ様と『あーあ』と言わんばかりの王太子とアーサー様の顔に気が付かなかった。

 

私がいなくなってから王太子がセラ様の肩を叩く。


「可哀想に。またフラレてしまったねえ、セラ」

「……うるさいですよ、殿下」 


私の占いの能力は視界にいれたものの好感度を測る力がある。つまり、自分に対する好感度を測ることはできない。

私に対して好感度をカンストさせていたセラ様がただ私とお話したくて話しかけ、ただお茶をしたくてお茶に誘っていたことはまったく知らなくて。


後日、完璧なイケメンに扮したビジネス取り巻き仲間と現れた私を見たセラ様が盛大に取り乱し、ヤケクソ公開告白をするのも私はまったく知らなかったのである。

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