旅立ち!
「もう離せ~暑苦しいわ!」
「あっスイマセン」
師匠が怒りだしちゃダメなので俺は手を放した。
パッ
「そんなに行きたいのじゃな?」
多分見た目と違ってお年寄りな師匠は、ずっと俺に身の回りの世話をさせようと……なんか悪い気もするけど、1年もダンジョンの中にいるとやっぱり外の世界に帰りたい訳で。
「はいー外に帰りたいです」
鬼の様に強い師匠だけど、あからさまに寂しそうな顔をしている。介護の当てが逃げる訳だしな。
ーユリナスはシルバー・リリー・ドラゴンの気持ちに全く気付いていないのでございます……
「そうかぁ寂しくなるが仕方が無いのう、ではこの銀のホウキを持って行け!」
「いや、それは重いので良いですー」
「そうか欲の無い奴め」
師匠は銀のホウキを握り絞めた。
ギュッ
「出て何をするのじゃ?」
「この国は俺の故郷から遠く、仲間に見捨てられて死ぬ様なミジメな俺の事を誰も知らないので、差し当って旨い物でも食べまくって後は静かに自由に暮らします……」
出所祝い的な?
「自分でそんな言い方するな~? しかし何とも覇気の無いヤツじゃ~よきよき。そうじゃな……」
なおも何とか話の糸口を見つけようとする師匠を、俺は笑顔で見た。
「あの、そろそろ帰りたいのですが?」
完全に年寄りが客を引き留めるパターン! 急に気が変わって食べられる前に早く脱出せねば。
「そ、そうかぁ名残り惜しいのぅ、では出口はアッチじゃ?」
師匠は女性形態の綺麗な指先を、俺が最初に殺された扉に向けた。
「あのー、扉からちょっと遠ざかると途端に強いモンスターに殺される訳ですが」
「おおそうじゃな! ではワシの部屋に出入り自由な秘密の抜け道を教えてやろう。それと適当な鎧と剣も持って行け」
ワザとだっ絶対引き留めようとしてる! もしかして師匠いじらしくて可愛いのか? いや~でも一回殺された訳だけど……それに死体の鎧や剣もらうって追い剥ぎみたいだなあ。
カチャッ
しかし俺は師匠に言われる通り、ちゃっかり一番高そうな鎧と剣を受け取った。ま、回復師だから見掛け倒しだけど。
「ありがとうございます、必ずや里帰りしますよ!」
多分一回くらいは……
「そうかぁ~~達者で暮らせよ」
何故か師匠の顔は悲しそうに見えた訳で……でも俺は一切気にせずに抜け道を出た!!
ザッザザッザ