行商人と田舎王女……
「きゃっ何ですか?」
「何だね一体?」
お客たちが口々に文句を言うが、無視して車内を検分してもサイモンらしき商人はいない。
「くそっどうもすいませんでした。行って下さい!」
こんな感じで俺達二人はほうぼうで駅馬車内を馬車強盗の様にあさり続けた。
ーしかしその一方、本物の古代フォクスサーラの国宝鏡を買ったサイモンは、駅馬車に乗ると言っていた癖に官能小説売りの男の真似をして、実は馬を買っていたので御座います。
パカラパカラッ
「るんるん、早くこの高そうな鏡を貴重な品に飢えている南の小国に売るぞ~~へへ」
ー結局その日には鏡を見つける事が出来なかったので御座います……
「もう夜だ、この状態で行商人を見つけるのは困難だろう」
「今日はありがとう正直にカーミラーに伝えるよ。俺明日からも鏡を探すつもりだよ」
ビスマスが厳しい顔になる。
「ゼブランド攻めまで二か月だ、そうウカウカしてられんぞ。あたしも手伝ってやろう」
「うっありがとう、凄く嬉しいよ。でも一人でやるからいいよ」
「何故だ? 猫の手も借りたいだろうが」
「猫よりも断然有能だよ! だけど……これ以上南に下ると俺の故郷に近付くから嫌なんだ」
「ナゼ故郷が嫌なんだ? 何という国だ」
「Fランク回復師の故郷に良い思い出なんて無いでしょ。パールリザードリアってとこなんだけど」
「聞いた事無いな、でも行ってみたい気もするぞ」
ドキッ
それはお嫁さんとして? 違うか~。
「じゃあ、なるべく故郷に近付かない様に手伝い頼むよ」
ー次の日
国宝の鏡は順調に超速でアルパカインゼット王国から離れつつあったが、ちょっとした変事があった。
「はぁはぁ……うっ……ぐうぅ」
昨日の夜に盗賊に襲われ、背中に剣が刺さったままのサイモンは見知らぬ南の森の中で力尽きて死んだ。
どさっばた……
ーさらにそこから数時間後。
カラカラ
別な馬車が力尽きたサイモンの側を通り過ぎる。
「お姫さま、関わり合いになってはいけません!」
「何を言っているのですか、王女として放置出来ません、てやっ」
馬車から勢いよく飛び降りた王女さんは、かなりファンシーなドレスをはためかせて走って来た。
ザクッ
そして無造作に背中に刺さった剣を抜く。
「見事に死んでいますね、でもまだ腐って無いからギリセーフです。では蘇らせて差し上げましょう! 大地の精霊達よ、この不運に見舞われし商人の魂を呼び戻したまえ!!」
ファ~~
王女の全身が光り、両手から何かが放射されるとサイモンはふぁーと起き上がった。




