偉くなったものじゃな、アルジェシュナイジェよ
いかん、話がどんどん後戻り出来なくなる。全部俺のせいなのに。
「ふぉっふぉっふぉっいつも兄上の勇者の背中に隠れておったくせに、偉くなった物じゃなアルジェシュナイジェよ。名前を譲ってもらった兄があの世で悲しんでおるぞ」
突然ジジイが出て来た。王様はお前の事忘れてるぞ……
「王になってから貴様の様な奴が山の様に寄って来るわ。誰だ貴様は……兄の話を持ち出し、事と場合によっては……」(うーむ、この顔どこかで見た気が?)
王様は再び首をかしげた。その間、疑問が先に来て怒りの炎は消えている感じがする。
「覚えておらんか? 兄上の勇者アルジェシュナイジェとPTを組んだ事もある魔導士のダルギッドじゃよ。何度も会った事があるじゃろうが。儂がおらぬ間に勇者殿がシルバー・リリー・ドラゴンに挑み、命を落とした事は痛恨事じゃった。儂がおれば倒せぬまでも、逃げる事は可能じゃったのにな。いまだに悔やんでおるよ、悪いを事をした」
ぴくっ
俺は師匠を見たが、師匠は全く他人事の様に冷めた顔をしている。師匠は俺と俺の知り合い以外にはとことん冷たいからな……しかし王様は夜の街角で出会った猫の様に、目をハッと開いた。
「……だ、ダルギッド先生?」
思い出したっ!? 助かるのか?
「どうであろう、ここはわしと兄上との縁に免じて聖女を許してやれんだろうか?」
くわっ
ハッとしていた王様の顔が、5秒後にはまた元の怒り顔に戻ってしまう。
「……全ては遠い過去の事。子供の頃には先生でもあったであろうが、今はもはや大人。か、過去の事は今は関係が無い! こ、この鏡は罰として行商人に売り払う」
シィーン
つまりドルフィンに攻め込む話は消えたのか? ジジイのお陰か……
「ふぉっふぉっ、過去を知る者はたとえ大人になっても恥ずかしい物じゃ」
「王様、その鏡はっ」
「シッ聖女さん、攻め込む事が消えただけでもジイさんに感謝しな。鏡は後でおれが追跡するよ」
俺は聖女さんを必死に止めた。嫌だがダルギッドのお陰で王様の怒りが少し収まったのは事実だ。
「今じゃ、今すぐ鏡を売り払うのじゃっ早く走れ!」
「は? ハハッ」
『聖女さまお助けをー』
王様が近習の者に命令して、家臣は国宝の鏡を持つと慌てて走って行った。
スタタッ
マジかよ、本当に伝説の鏡を行商人に売ってしまうのかよ? 皆はポカーンと走って行った家臣を見送った。
「さて、目玉の鏡は売り払ってしまったが良いかな聖女、これからの両国の関係はどうした物か?」
……この状況でアルデリーゼは求婚どうすんだよ?




