ボス戦b 急転
ギュウオオアアアオオオオ
薄暗い石作りのボス部屋中に恐ろしい銀竜の鳴き声が響き渡る。後衛の俺は良く見えないんだが……
「行くぞっ! お前は絶っ対にココを動くなっっ!!」
「後ろをお願いねっイヤーーッ!!」
「頼みますよ、うおーーっ!」
「う、うん」
え、えーー? 作戦も何も無しに皆突撃しちゃったよー!? 魔法使いのエリッカまで前衛として出ちゃっていいの??
ドドーーン! ダーン
シュバッギィーン
なんだか凄まじい重苦しい戦闘の音が響く……皆ホントに大丈夫!?
ザッシャッ!!
え?
「ギュウオオオオワアアアッ!!」
突然俺の目の前に全身銀色のウロコをした美しい巨竜が舞い降りて雄叫びを上げ、俺は全身の血の気が引いた。当然腰が抜けて逃げる事も出来ない。
「やったぜっ事前の情報通りだっ!」
「銀竜は真っ先に後衛を狙うのですっ!!」
「ごめんね~キャハハッ」
部屋奥から仲間『だった』三人の弾んだ声が響いた。
「え?」
なおも声は続く。
「よし、奴が喰われてる内にっ」
「玉座の後ろの尽きぬ銀貨を奪って」
「ダンジョン脱出魔法よ!」
だよな……この三か月、この瞬間の為だけにスカウトして仲間を装ってたのかーっ……なんて考えている俺の目の前では銀竜が綺麗に生えそろった何本もの牙を見せて叫び、巨大な爪で俺を切り裂こうとしている。
ザシュッ
ほんの次の瞬間、光る様に振り下ろされた爪の一閃で、俺は多分あっさりと死んだ……
ファーーッ
謎の光が降り注ぎ俺は眩しさを感じる。もう死んでるから認識とか出来ないハズだけどなぁ。
「……生き返った!?」
ガバッと起き上がった俺の目の前には、俺を殺したシルバー・リリー・ドラゴンが普通に立ちはだかって居る。え、銀竜が俺を生き返らせた!?
「何で?」
「だって新鮮な方が美味しいじゃろうが~」
「確かに!」
俺は手を打った。
「って喋った!?」
巨大な牙を出して銀竜は笑う。
「当たり前じゃー人間風情が喋れるのに、高等な竜族が喋れん訳無いじゃろー」
「確かに!」
俺はまた手を打った。目の前の銀竜はバカでも見る様な、哀れみの籠った表情で首を傾げた……様に見えた。
「何とも気の抜けた奴よ、命乞いするとか恐怖して泣くとかせんのか~?」
「いやもうダメでしょ。第一怖くて動けないし……」
「オヌシ諦めが早い~~!」
なんか銀竜の喋りがイメージと違う……
「はぁ」
「はぁって……そうじゃな、喰う前にオヌシの名前は何じゃ?」
「俺の名前はユリナス、友達からはナスビとかユリ男とか呼ばれているよ」
とか言いながら、俺はもう疲れたんで座り込んだ。早く新鮮な間に食べてくれよ……
ぺたんっ
「それ絶対友達じゃ無いじゃろう~? しかしユリ、なんとワシと同じ名前かえ……」
銀竜は動きを止めた。