蒼鉛竜、ブルー・ネモフィラー・ドラゴン
「早く降りんか、蒼鉛竜様のお気持ちが変わる前に」
冷や汗を流し続ける俺の下でビスマスがささやいた。
「うっゴメ」
俺はゆっくりとマスクから手を離すと、彼女のお腹の上から立ち上がった。彼女のおなか、硬いハズなのに柔らかかった気がする……こんな時にちょっと変態かも。
「貴様の師匠シルバー・リリー・ドラゴンに伝えておけ、いつか決着を付けるとな」
フッ
声が響いた後、突然巨大な空を覆っていた竜は消えた。
「はぁ~~~」
どさっ
その途端に俺は力が抜けて石畳の上に崩れて座ってしまう。ビスマスはそんな俺を見下げながら逃げる事無く、乱れた長い髪を猫の様に整え続けた。
シャッシャッ
「竜が消えたっ!?」
「去ったのか」 「安心出来んぞっ」
山が消し飛ぶという異様な物を目撃した兵士達は、まだ動揺が抜けなかった。
「あ、あの~~ナスビィー様、これは一体どういう結果なのでしょうか?」
ビクッ
「うっエーリュクくん!? エーリュク生きてたんかっ」
俺はようやく恐怖が抜けて立つ事が出来た。
「あ、あのそれよりビスマスが普通に横に立っているのですが? 捕まえますか」
「いや余計な事はしなくて良い。今はただ休戦状態なんだ! 刺激しなければ危険性は無いよ、ねえ?」
ちらり
俺は恐る恐る彼女を見る。
「刺激言うな。冷静に考えて今のお前には勝てない。無駄な事はしないだけだが、捕虜にはならない」
「だ、そうです!」
「ならば戦闘が終わってる最中に和議を進めたいのですが……」
「そうだ、それが我の目的であったわ! 将軍共は??」
ちらり
再びエーリュクがビスマスを見る。
「彼女の爆撃で全員死亡か重症中です……私だけ運良く、ううっどうすれば」
シィーン
一瞬の沈黙の後、俺は決断した。
「エーリュクくん、今から君がこの砦の責任者だ。という訳でアルデリーゼと和議を進めてもらおう」
「ハッ?」
彼はキョトンとしてる。
「おーーい飛竜よ戻って来いっ!」
生きてるかどうか大声で叫んでみた。
ばっさばっさ~
しばらく待つと上空から飛竜が王子を乗せたまま降りて来た。だが第二王子は極間近で蒼鉛竜の迫力に当てられた為か、ガチガチ震えて言葉も無かった。
「おい王子、王子しっかりしろ! 和議の時間だぞ」
ペシペシ
彼女が王子の頬を軽く叩いた。
「ビス……マス? 生きていたんだな、よ、良かった」
「ああ、当然だ」
どうやら王子のビスマスへの想いだけは本物の様だ。




