悪のスカウトa 宿
「わ、分かったよー」
でも何となく適当に返事しとけ。
「ふぅう、じゃあこの椅子はペンキで茶色に塗って……いや土に埋めちゃおうか? このハンカチは溶鉱炉に廃棄ね……」
「はぁあもったい無いだろ、堅実過ぎだなーっ?」
ちょっとは得したーっとか思わないのか!?
「そんなのあぶく銭だわ、気持ち悪い」
「じゃあ俺の迷惑料だと思って受け取ってよ、あとぢの兄の魔法治療代ね!」
俺は意地悪く笑った。
「もう~ぢの兄なんて居ません! それは禁句よ」
「あ、そ、じゃあね」
純銀の塊を女の子に託し、かっこ良くクルリと背中を向けた。
「ちょっと待ちなさい! 貴方今日の宿はあるの?」
ドキッ
ドキッと言ってももちろんアレな意味のドキッでは無くて、ありゃ本当に今日の宿どうしようという切実なドキッだ。まさかこの一人暮らしっぽい女の子の店に泊めてくれそうなんて、淡い期待は一切してない訳で。
「今から考えるさー」
「じゃあ……一部屋貸してあげようか?」
ドサッ
俺はコケた。
「ち、ちちちち違うのよ!? かかか勘違いしないでね、へへへ変な意味に取らないでよねっ!」
すっごい動揺してる。
「じゃあ何?」
「同じ年代の男の子でアクセサリーに興味あるとか珍しいし、弟子として雇ってあげるわ!」
ごめん、1ミルも興味無い。
「さっきバカにしてた癖に」
「それに、銀のハンカチは迷惑料として有難くもらうけど、あの純銀椅子はやっぱり受け取れ無いわ。管理の為に自分の部屋に置いといてよ」
意地でも受け取らない気か!
「でもさ……俺もまだ信じたいんだっ自分の冒険者としての可能性にさっ!! Fランク回復師だけど……」
どビシィッ!
とカッコよく言ったけど、実はここに切実に泊まりたい。しかし意地になって店を出てしまった。
「あっコラッちょっと!!」
とか叫ぶ割には追い掛けて来ない訳で。その純銀の椅子は削りながら大切に使ってくれい……
とか言いつつ、俺はマリが追い掛けて来ないかなーっと向かいの料理屋に入った。すぐに主人が怖い顔でやって来る。
「またアンタか、お兄さんお金あるだろうね?」
「ゴメン、メニュー見て一時間くらい考えるから待って!」
「本当だろうね」
主人はむくれて去って行くが、もう日が暮れている……どうしよう。今からマリの所に帰るか? いやいやカッコ悪いにも程があるし、今度こそ通報されるかも。
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