表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第7章 恋と終わりの異世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/104

結末① 救われようのない世界


 入口からスタートしてダンジョン攻略、かと思ったらいきなり玉座の間的なとこに飛ばされた。


「は?」

「……ああ!?」

「不意打ちでラストバトルだー!!」

「えー!? ちょっと待って心の準備が」

「お、俺様なんかたぬきなんですけどどうしましょう?」

「うるせえ剥製のフリでもしてろ!」


 かっこよく「いつでも行けるぜ」的なこと言ってた割に、いざ敵の目の前に来ると動揺しまくりのあたしたちはえらいこっちゃと年相応にドタバタ慌てふためいていた。と、


「そう焦らなくてもいい。そっちはともかく、こちらには敵対の意思なんて無いんだから」


 全員が一斉にその声の主へと視線を集め、そして絶句した──


 それも無理はない。

 魔王城の玉座に座っているのだから、その正体は推して知るべしなんだけど、それにしたってその人はその称号には似つかわしく無い、見るからに子供で。

 真っ黒な髪に真っ黒な瞳を差し引いても、その顔は、あたしたち7人全員に見覚えのありすぎるものだった。


「………………神様?」


 どうにか声を絞り出した高遠くんの呼びかけに、しかしその人はふるふると首を横に振る。


「残念ながら人違いだ」


 神様と全く同じ顔で、だけどあの独善的な神様が絶対にしないような、心から申し訳なさそうな表情で。

 玉座に腰掛ける魔王さんは、くすりと苦笑するのだった。




 * * * * * *



「…………なんで魔王が神の2Pカラー? アレか? オレ達が攻撃しづらいように姿を変えてる的な」

「まさか、それじゃあ逆効果でしょう。あの神様と同じ顔とか、むしろ率先して殴りに行きたいですもん」


 唖然としながらもどうにか推察を開始したお兄ちゃんと渋谷先輩に、魔王さんが小さく首を振る。


「いや。私はこの世界に存在し始めた時から……いや、この世界が存在するよりも前から、ずっとこの姿のままだよ」

「世界が存在するより前? そんなのおかしいわ、だってこの世界は神様が創ったものでしょう。創造より前に存在するなんて、そんなの……」


 言いかけてマヤちゃんは「いや、ていうか」と頭を振った。みんな話の見えなさと、倒すべき魔王さんとふつーに会話してることに大いに困惑しているようだった。

 だけど、


「……魔王とは、破壊の限りを尽くすよう義務づけられたものだとあの神様は言っていた。……あの神はどこか欠けていて不完全だった。それこそ、創った後の世界には干渉もできない……つまり、何かあった時に()()()()()()()()こともできないぐらい。創造の対象として、対になる存在が必要だったとすれば、お前は……」


 一人冷静に考え込んでいた高遠くんが出した結論に、魔王さんは感心したように笑って頷いた。


「そう。創造の神が存在するためには、その対となる存在──鏡の向こう側が必要だった。僕は創造の神を存在せしめるためだけに生まれた対存在、いわば破壊の神とでも言うべきものなのかな」


 爽やかに述べた魔王さんの言葉に、みんなは目をぱちくりと瞬かせてまたまた絶句した。


「……ま、魔王が神様??」

「神と言っても、君たちの知る神のように教会が崇めるわけでも、誰の信仰を得るわけでもない。ただ当初の存在定義の元に、律儀に強制的に破壊の限りを尽くすしかないつまらない存在さ……自分でも思うよ、討ち滅ぼされて然るべき悪だと。でもね、」


 玉座の上で、膝を抱えるようにしながら、魔王さんはその無邪気な瞳を細めて言う。


「私は倒されるわけにはいかないんだ。それに君たちも僕を倒すことはきっとできない」

「……どうして?」


 あたしはようやく口を開いた。それは前に会った時にも聞いていたことだ。

 魔王さんは強くはない、でも絶対にあたし達には倒せない。

 ついでに神様も言っていた、この世界の人には、心理的な要因で魔王は絶対倒せないって。


 なんだかそれらをひっくるめるとものすごーく嫌な予感しかしなくて、あたしはあんまり聞きたくないなあと思いつつ、半目で睨んで答えを促した。

 そんなあたしに同情するように曖昧に微笑んで、魔王さんは淡々と告げる。


「私を殺すとその対存在としてかろうじて存在を留めている創造主も死に、その彼が根底で支えているこの世界も芋づる式に崩壊する。そういうことを気にしない人間だけが私を倒せるだろう」

 ………………。


「………………はあーーー!!??」


 最初にそう叫んだのはあたしだったかもしれないし、誰かだったかもしれないし、そもそも全員だったかもしれない。

 とにかく、荘厳な玉座の間に絶叫は響き、あたし達は全員天井に向かって吠えた。


「あ、あの邪神、騙しやがったなあぁーーー!!」


 拝啓神さま、聞こえてますか? クソくらえ!


「な、なんじゃそりゃ、世界崩壊スイッチを押すためだけにオレ達を呼んだってのか!?」

「ていうか何この欠陥だらけの世界、創った奴マジでポンコツだな!!!」

「ひ、ひとっこともそんなこと……悪徳契約書だって一応ちっちゃい字で書いてくれてるのに!!」

「こんな所にいられるか、俺は元の世界に帰る!」

「死ね!」

「訴えてやる!」


 罵詈雑言を喚き散らすおよそ勇者とは言い難いあたし達の阿鼻叫喚は落ち着きそうにもないと諦めたのか、待っていたらしい魔王さんは穏やかに声をかける。


「あの神にとっても仮にも自ら創り見守り続けた世界のこと、苦渋の決断だったはずだ。しかし長きに渡る戦いで人間側の力も底が見えかけていたし──私にしても、随分抑えていた破壊の衝動が年月を経て歯止めが効かなくなってきているのを感じてもいた」


 確かに、島の占拠や砂塵の遺跡の乗っ取りなんかの逼迫した事象は最近になって起こったことみたいだったから、あのペースで魔王軍の進行が進んでいたら、どのみちこの世界は魔王さんに支配されて破壊されてしまっていたのかもしれない。


 ……そうなる前にまだ幸せなうちに手を打とうってのは、さすがに余計なお世話な気がしないでもないけれど。神さまの考えることなんてぶっ飛びすぎて、人間には遠く理解が及ばない。


「そして決定打となったのはおそらく五十年前の戦いだ……歴代でも最強の面々が揃って私を倒しに来たけど、やはりこの真実を伝えると何もせず帰ってしまった。それで結論付けたんだろう、この世界に情のあるこの世界の住人には世界崩壊の引き金は引けないと。そこで創造主はこの世界以外の人間に委ねることにしたというわけだ」


 五十年前、スオウ先生達が魔王さんと戦った時。とっても強いはず彼らが何もせず逃げ帰ってきたこと、そして何も語れなかったことも頷ける。

 ……それにしたって。


「いや、この世界の住人じゃなくたって無理ですよそんなの! 絶対嫌です、何無関係な子供の手を借りようとしてんですか、滅ぶしかないにしても勝手に滅んでください!」

「やっぱりそうだよな」


 あはは、と魔王さんは笑ったけど、その目はどこか寂しげだった。最後の望みだったんだろうなあ、自分を倒してもらえるの。


「………………」


 あたし達7人はうんざりした目を見合わせた。


 みんなあの神さまに選ばれるだけあって年齢以上に聡いし決断力もあるし、時には非情に成すべきことを成せる強さがある人ばっかりだ。

 求められた役割に共感は一切できなくても、意義ぐらいは理解できている。


 けど、あたし達にそういう損な役回りをさせたいなら、せめて旅なんてさせるべきじゃなかった。


 みんなここまでの冒険の中で、少なからずこの世界を見て回って、いろんな人と出会って関わって、忘れらない思い出だっていっぱいあって……この世界のことは、他人事じゃなくなっちゃったし。

 ()世界なんて呼び方がよそよそしいぐらいには、ここだって十分、自分たちの大事な世界になっていた。それを壊すなんて、今更できっこないのだった。

 でも。


「……しかし、私を消し去らなければ、君たちは元の世界には帰れないよ」


 そう。そうなのだった。

 本当に最悪なことに、最初の召喚場面でばっちりそんな悪徳契約を結ばれていたのだった!

 全員が頭を抱えて過去のじぶんを殴りたい衝動と戦っていた。あやしい話に正義感だけで頷いてはいけない、今更遅いけど。


「…………わかった、オレがやる」


 苦虫を噛み潰したような顔をしながら、とんでもなく嫌そうにお兄ちゃんが吐き捨てる。


「お兄ちゃん!?」

「誰かがやらなきゃいけないってんなら、オレがやるべきだ。最年長だし、一番乗りの馬鹿だし、高校生にそんな汚れ仕事させらんないしな」


 お兄ちゃんの宣言に、反論しようとして口を開けたみんなは、しかしぐっと歯噛みして口を閉ざす。一気に重々しい空気が満ちていたたまれずあたしは俯いた。


 それからちらり、と魔王さんを見る。魔王さんもあたしを見ていた。

 そう、あたしなら魔王さんを倒す以外の方法で、この世界を救える──前にここに来た時、そう言われていた。


 さんざん悩んで、その提案に乗ると決めたのに、しかしいざこの場に来ると躊躇っている自分に心底嫌気がさした。

 だけどこんな辛い顔をしているお兄ちゃんの横でいつまでも黙ってもいられない。正直まだ気持ちは揺れてるけど、ここは腹をくくるしか──


 そう思って口を開きかけた瞬間、隣にいた高遠くんが声を上げた。


「俺がやります」


 開かなかった口の代わりに目を見開いて、あたしはその横顔を見つめる。


「……た、高遠くん? 何を……」

「だって誰にも出来ないだろ。カノンさんにだって無理ですよ、世界が壊れたら聖女さんだって死ぬんですよ?」

「ぐ…………」


 言い返しかけてお兄ちゃんは目をそらした。

 高遠くんは無表情に淡々と続ける。


「他のみんなにしてもそうだ。みんなこの世界を旅して、少なからず人と関わって、他人とは言えない関係を築いてる。いくら与えられた役割と割り切っても、今後少しも尾を引かずにいられる保証なんてない。……でも俺は幸い、そんなに人と深く関わってこなかったから。だからきっとそんなに傷付かないし、その、……大丈夫だと思うんだ」


 そう言って高遠くんは、下手くそに笑った。


「…………高遠くんの、ばーーーか」

「へ!?」


 馬鹿(あたし)に馬鹿と言われたのがかなり心外だったのか、高遠くんは傷付いたように間の抜けた声を漏らした。

 バカだ、大バカだ、こんなにバカな人だとは思わなかった。こんなのあたしより余裕でバカだ。


 確かに高遠くんは、他人に必要以上に深入りしないし、ある種の線引きをして関わっていたように思う。

 それはたぶん、かつて人に遠ざけられた経験からくる無意識の防御策だったし、他の誰よりも関係が希薄だというのは本当のことかもしれない。


 けどだからって、無遠慮に壊してもなんにも感じないほど薄情だなんて思わない。高遠くんだって、高遠くんなりに、この異世界のことが好きだったはずだ。ずっと隣で一緒に旅をして来たから分かる。

 ずーっとバカみたいに高遠くんばっかり見てきたから分かるよ、それぐらい。


「……あたしね、ここでみんなに会えてよかった」

「雨宮さん?」


 笑えてるのかイマイチ微妙だったけど構わず、声を振り絞る。


「マヤちゃん、両思いおめでとう。元の世界に帰ったら遊ぼうって言ったのにごめんね」

「……アリアちゃん?」


「太一郎君はさ、酒場でもてあそばれたことは不問にしてあげるから、マヤちゃんのことよろしくね」

「ああ、うん……」


「晴春君はね、あたしよりずっと大人だなーって尊敬してたよ。もふもふがなくなったって君はいい子だから自信持ってね」

「うっス……?」


「渋谷先輩は、すっごく美人で頭が良くて優しくて、あたしの憧れです! いつかどこかでまた先輩のピアノ、聴けたら良いなあ」

「……ねえアリアちゃん、あの……」


「あとお兄ちゃんは……どうせ毎日会えるしな……。いろいろ心配かけてごめんね。あたしはさ、お兄ちゃんの妹で良かったなって思ってるよ」

「アリアお前、何かまたバカなこと……」


「それから……高遠くんは、」


 そこであたしはふと口をつぐんだ。

 うーん、困ったな。高遠くんに伝えたいことはいっぱいあるけど、言ってしまったらまた決心が鈍りそうだ。残念だけどやめとこう。


 そういうわけであたしは、困惑する高遠くんの顔を見つめて一つお願いをした。


「高遠くんは、今の気持ち教えて?」

「……え?」

「あたしのこと今どう思ってるか」

「は!?」


 なんで今、と狼狽える彼に、そんなもん今が今しか無いからに決まってんでしょうが、とむくれる。

 周りの目もあって相当悩みつつ、しかしあたしの有無を言わさない圧力に観念したのか、高遠くんは顔を真っ赤にしながら、消え入りそうな声で答えた。


「……す、好きだよ」

「そっか。それは良かった」


 にかっと笑ってみんなに背を向ける。それだけ聞ければ十分だ、他に何にも道連れにするものもない。

 あたしは前を見据え、悲しげな顔をした魔王さんに手を差し伸べる。


「あの時の返事です。──いいですよ、あたしの全部、あなたにあげます」


 次の瞬間、開けていられないほどの光に包まれて、あたしはそっと目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ