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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第7章 恋と終わりの異世界

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中ボス戦② VS.灼熱のニチェ


「フアーーーハハハ!! なんか雰囲気的にマリアがやられたようだな! しかし奴は我が魔族の中でも最も冷徹……つまり熱くない! 熱さは強さ、故に奴は別にそんなに強くなーい! 我が炎こそが最強の武器にして最強の盾!! この先に進み魔王城へ続く遺跡に足を踏み入れたくば我が深淵なる炎の海を渡って見せよ! 愚かな人間どもよーーーっ!!」

「暑苦しーーーい……」

「褒め言葉だ!」


 魔獣の群れを後陣に任せ進んだ先、平原の中腹。

 その先の目的地、魔王城への転移装置がある古代遺跡を目指すあたし達の前には、どこまでも広がる赤い炎の海が燃え広がっていた。


 どこまでもというのは本当にどこまでもで、とりあえずスキルで見渡せる1km以上先まではメラメラ景気よく燃え盛っていた。……気合いで走り抜けるのは無理そうかな、消し炭にはなりたくない。


 そしてその炎の海の只中で、汗すらかかず元気よく仁王立ちで叫んでいるのが、正にこの炎の発生源、魔族・灼熱のニチェなのだった。


 雪山で一瞬会っただけでも熱さに溶解寸前だったけど、あいかわらずだ……さっさと倒そう、暑苦しくて身がもたない。


「渋谷先輩、作戦通りにいけそうです……?」

「すごーーくイヤだけど、腹くくるしかないでしょう……アリアちゃんだってさっき囮役してきたんだもんね、私だって頑張って見せるよ」

「いやあほら、あたしの囮は恨みが元なので、先輩ほど厄介じゃないというか?」


 火柱のごとき炎の海、その端で様子を見ていた渋谷先輩と太一郎君。


 中堅戦の要は渋谷先輩なので、合流したあたしと高遠くんには応援しかできない。ぜひとも頑張っていただきたい、と、あたしは勇ましく羽衣を握りしめ浮かび上がった先輩のために全力で祈った。


 残った太一郎君が見つめる先、渋谷先輩は炎の海の上空にスキルでもって浮遊すると、ものすごく嫌そうな顔で口を開いた。


「ひ、久しぶりですね、相変わらず汗の止まらない素晴らしい炎で……」

「ム!? その顔……おお、雪山では逃げられたが、やはり俺の元に戻ってきたのだな!」


 棒読みのセリフを述べる先輩に気づくと、ニチェはぱあっとその目を輝かせた。それに合わせて周囲の炎も一層勢いを増す。熱い。


 先輩に向かい嬉しそうにぶんぶんと手を振る、魔族の褐色の頰は火のせいではなく確かに赤く染まっている。一応『魅了』スキルは使ってるはずだけど、そもそも燃やしたいくらい顔も好みらしいからロックオンされたらいつ発火するか分かったものじゃなかった。ハラハラしながら見守る。


「では、俺の愛を受け入れる気になったということだな」

「……ええ、どうせいずれは滅ぶ世界、華々しく炎で燃え尽きるのが至上の死に様というものでしょう……」


 舌を噛み切りそうな声で予定通りのセリフを読み上げた渋谷先輩は息も絶え絶えだった。ああ先輩、クールな分暑苦しいのには耐性がなさそう……。

 そう、この炎の魔族の愛情表現は燃やすこと。こんな厄介な男の寵愛を受けることになるとは美人というのも考えものだ。だけどその分、囮としては効果は抜群のようで──


「そうかそうか、さあ降りてこい、灰になるまで愛してやろう!」

「……いえ、その、恥ずかしいので、どうかこちらまで近づいてきてはくれませんか?」


 渋谷先輩は、随分空高くを浮かんでいる──それは炎を避けるためでもあるし、作戦のためでもあった。

 そうとは疑わず言われるがまま、魔族はうんうんと頷いて先輩の下に進み出る。


「うむ別に構わん、この辺りか!」

「そうです、もうちょっと前、いや少し右、左後方半歩下がって……そう、そこです」


 陽気なニチェの声に反し冷血とも言える冷ややかな声音で指示を出しながら、渋谷先輩は見事にポイント──自分の真下に敵をおびき出すことに成功した。

 そして。


「……仕事は果たしたよ。田野上君、あとは任せた」

「はいはい、ご苦労サマでした……()()()()()()()()()()!」


 その一声が彼の『暗示』スキルであることは明白だった──だって、聞いていたあたしもついでに一歩も動けなくなったから。

 太一郎君はかつて言っていた。このスキルは単純なヤツほどよく効くと。


 不本意ながらこのスキルがよーく効いてしまうあたしにはよく分かる。あたし以上に単純そうなあの暑苦しい魔族には、暗示スキルはめちゃくちゃよく効いちゃうんだろうなって。


「……あ!? なんだ!? 体が動かんぞ!!」


 悲しいかなその予想はバッチリ当たっていたようで、スキルの命令通りそこから一歩も動けなくなったニチェの頭上から──


「じゃあ行ってらっしゃい花木ちゃん、派手にかましてね」

「……全く、人のこと爆弾か何かだと思ってません!?」


 渋谷先輩がそっと放り投げるようにして、その手のひらから真下に落としたもの。

 小人サイズになって羽衣の中に身を潜めていた花木マヤちゃんは、不平不満を叫びながらも空中で器用に巨大化し──そのまま落下して、悲鳴を上げる暇も無かった魔族ごと地面に勢いよく着地した。


 ズドーーン、と爆音と共に砂埃が舞い上がり、クレーターのように抉れた地面の上でマヤちゃんは眉をひそめて嘆息した。


「…………炎が消えたってことは、足の裏、確認しなくても良いわよね?」


 彼女の足元で、おそらくぺちゃんこになったのであろう力の主を失って──燃え広がっていた炎の海は、ぱたりと干からびて消え去ったのだった。


「……中堅戦大勝利、いぇーい?」

「別にいいけど、君のお兄さんの作戦て暴力のゴリ押し過ぎない??」


 ぺちんとハイタッチしながら半目で睨む太一郎君の意見には、肉親ながら同意せざるを得なかった。申し訳ないね。


「……ま、何はともあれ無事撃破だ。先輩、マヤちゃん、後方支援しか出来なくて悪か……」


 へらへらと笑って片手を上げながら、元のサイズに戻ってクレーターのそばに佇むマヤちゃんに歩み寄った太一郎君に。



「…………。えっと」

「ねえ、前に言ってくれた『好き』ってまだ有効?」

「……俺的には有効期限とかないけど……」


 ぎゅっと勢いよく抱きついてきたマヤちゃんを見下ろし。完全にいつもの飄々とした余裕を引っ込めた太一郎君が、呆然と呟く。


「さっき飛び降りる時、死ぬほど怖かったの」

「だ、だろうね? 暗示が突然切れるリスクもあったし、風で座標からずれる可能性もーー」

「……そうやって失敗したら私死ぬでしょ。そしたらもう全部おしまいだなって思ったの。……自分がもっと大人になったらもう一回告白しようと思ってたけど、そんな気の遠くなる未来待ってる間に、何があるかなんて分からないよ」

「…………」

「私、嫌いとかもう別れるとかつまんない意地張るかもしれないけど、そんなの尊重しないで無視していいから、笑い飛ばしていつもみたいに馬鹿にしてよ」

「…………えっと、つまり?」

「今好きなんだから、ごちゃごちゃ言わずに今付き合って」


 山のごとく高かったツンをか殴り捨てて、顔を上げてそう言ったマヤちゃんの泣きそうな顔に、太一郎君は吹き出して爆笑した。


「らしくねー、誰だよ」

「う、うるさいわね、人の一大決心を……」

「分かった。......そうだな、マヤちゃんが『別れる』って言っても、俺が『別れない』って意地張り返せばいいだけの話だった」


 そう言って笑う太一郎君にマヤちゃんも笑い返し、外野のあたしはむせび泣いて拍手を送るのだった。


「た、太一郎君大勝利ー! おめでとうっ、あれ、これで大勝利三回目だから終了??」

「人の恋愛を中ボス戦にカウントしちゃ駄目だよ雨宮さん……残念ながら手強いのがあと一人残ってる、けどそいつを倒せばいよいよラスボス戦だ」


 あたしは滲む視界の先、スキルで目を凝らし古びた建物を捉えた。……魔王城に続く転移装置があるという、古代遺跡。

 あの中に待っている最後の魔族・ハイネさんがとっても強いことは重々承知なので、思わず肩に力も入るというものだった。


「がんばろうね高遠くん、勝っておいしいご飯を食べよう!」

「そういう目標だったっけ?……まあ敵には個人的な恨みも色々あるし、遠慮せず全力で行かせてもらうよ」


 恨みって何かあったっけ、と首を傾げながら、とりあえず高遠くんが悪そうな顔をしてる時は大抵やる気満々な時なので、あたしは威勢がいいなあと能天気に笑った。


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