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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第7章 恋と終わりの異世界

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選択② 王立騎士団


 教会に来た初日、断固乗車拒否を決め込んでいたあの大きな竜は、今度はちゃんとあたしをその背に乗せてくれた。

 別にあの絶叫マシーン感も嫌いじゃなかったけど、決戦の地への出発ぐらいファーストクラスでもバチは当たらないだろう。


「それでは皆さん、王都までの道中お気をつけて! この教会から、皆さんの御武運をいつもお祈りしてます」

「ありがとねノエルちゃん、ドラ美ちゃんによろしくね」


 竜の背の上、恭しく礼をした聖女ノエルちゃんは、竜に何かを指示すると名残惜しそうに地上へ降りる梯子へと足を向けた。直後踵を返し、


「あ、あの、カノン様!」

「おう、どうしたノエ……」


 そして同じく名残惜しそうにしていたお兄ちゃんのそばに駆け寄ると、ほっぺに可愛らしく口付けてすぐに身を引いた。


「…………」

「か、加護的なアレです! どうかご無事で!!」

「…………あ、ありがとう……」

「その、昨日してくれた約束、覚えててくださいね……。では、いってらっしゃいっ」

「いってきます…………」


 しゅばっと素晴らしい速度で梯子もそこそこ飛び降りたノエルちゃんを合図に、竜は翼を羽ばたかせて大空へと飛び立った。


 どんどん小さくなる見送りの人々と教会の街並みに手を振りながら、あたしはお兄ちゃんを見る。


「いってらっしゃいのちゅーとか激アツですねお兄さま。ヒューヒュー」

「うるせえ……」


 魂を抜かれたようにぽかんとしている兄をにやにや揶揄いながら、何の約束をしたんだか知らないけど、悲恋で終わらせる気なんてさらさら無さそうなノエルちゃんに感嘆する。全く大胆な聖女さまだった。


 でも恋をするにはまず世界平和! というわけで、目指す王都、目的の最前線に向けて、あたしは鼻息も荒く気合を入れ直すのだった。



 * * * * * *



「生きてる?」

「しんでる」

「死んでるのかー」


 それは残念、と、ぐったりして意識レベルの低そうな高遠くんを心配しつつ、あたしは座席から身を乗り出し下を見た。青い空白い雲、広がる山々の景色。高所恐怖症の人を気絶させるには申し分ない環境だった。


 さてそうなると目下困窮するのは話し相手だ。王都までの旅路はそこそこ長い。

 竜の背の座席は二列に並んでいて、先頭ではお兄ちゃんと渋谷先輩が王都の様子や今後の動向などを真面目に話し合ってくれているし、その一つ後ろではマヤちゃんと太一郎君が頻繁に言い争いながら楽しげにおしゃべりしているので邪魔したくないし。隣の席の人は死んでるし。

 となると、


「晴春くんおしゃべりしよ?」

「うわっ!? いきなり逆さまに振り向かないでくださいよ首落ちたかと思ったっス!」


 ぐりんと上空を経由して背後の席に座る晴春君に視線を向けると、真っ逆さまな視界の中で思い切りドン引きされた。


「あはは。……なんか慌ただしくてさ、ゆっくり喋る暇もなかったよね? 島の復興の方は順調だった? 先に行っちゃってごめんね」

「いや、このまま会話続行するんスか? 頭に血ぃ登りますよ……。まあ、まだまだ元通りとはいかないっスけど、無事に大陸との交流も再開したし心配は要らない感じです。イズルとトーリも元気だし」


 ああ、あの兄弟にもまた会いたいなあ。炊きたてごはんも恋しいし……。

 しみじみ懐かしく思いつつ、そう言えば、と逆さまに手を打つ。


「晴春君は、スオウ先生が大昔に魔王と戦ったことがあるって知ってた? なーんにも言ってくれなかったよねあの人!」


 五十年前、っていうと先生はまだあたしと同じくらいの年頃だったかもしれない。

 あたしたちの目的を知ってるなら、魔王の情報とかいろいろアドバイスをくれてもよかったのに! 全く無口にも程がある。


「ああ……まあ、話したく無さそうだったんで触れなかったですけど、たまに酒飲むとぽつぽつそんな感じのことを。それと出発する日、俺様にこんなことを言ってました。いずれ魔王と対峙する時が来たならば、心を鬼にしろって」

「ふーん……?」


 逆さまの首を捻りながら、先生から譲り受けた二本の妖刀の柄を撫でる。とっても強かったらしい先生がこの刀を持って戦っても勝てなかったなんて。でもそんなに強そうに見えなかったけどなあ魔王さん……。


「……あの、アリア先輩、俺様は潔く応援しますけど、万が一億が一シンヤ先輩と上手くいかなくなった時のために一生懸命成長しとくんで……心に留めといてくださいね!」

「?? うん、がんばって……?」


 考え込んでいた時にいたく真剣な顔で頑張る宣言をされたのでとりあえず後押しすると、隣で剣を引き抜く音がしてヒッと2人で息を飲む。


「そんな億が一は一生訪れないから頑張らなくていいよ真白くん……」

「ギャッ、蘇った死の淵から」

「ふ、フン、そんな寒色系パレットみたいな顔色して強がっても怖くないっスよシンヤ先輩! うかうかしてると不屈の不死鳥(フェニックス)ことこの俺様に油揚げの如く掻っ攫われても後悔先に立たずっスからね」

「ん!? よく分からないけど油揚げ扱いされてる!? 失礼な、どうせならなるんじゃなくて稲荷寿司にして食べたいわ!!」


 ぎゃーぎゃー騒いでたら前方席の四人に「うるさい」と怒鳴られてシュンと落ち込む羽目になった。ほ、他のお客様のご迷惑となりますので車内ではお静かに……。




 * * * * * *



 王都はその名の通り今まで旅したどの街よりも栄え、たくさんの人で賑わう都市だった。


 だけど街の人々の表情にどこか拭いきれない緊張が漂い、通りのあちこちで剣を携えた騎士達とすれ違うことに、ここが魔王との戦いの最前線に最も近いということを示唆しているようで、あたしは思わず背筋を伸ばしていた。ここまで来たんだ、ようやく。


 出迎えた騎士団の面々に引き連れられ、要塞のような王立騎士団本部の一室に通された先、ずらりと並ぶ白銀の鎧を纏った傲然たる騎士の皆々さまを前にして、あたしはいよいよライオンの前のミニブタのように縮こまった。怖い。みんななかよく顔面が厳つい。


 だけどその屈強な面々の中に一人、飛び抜けて若く見慣れた騎士さんの顔を見つけると、あたしは緊迫感も忘れて小さく手を振って喜びを訴えた。

 あたしと目の合った騎士ギュスタさんは控えめに薄く笑うと、すぐに表情を引き締めて規律正しく騎士然と前に向き直る。


「遠く教会から足を運んでいただき恐悦至極。救世主殿におかれては引き続き、そして新たなる五人の勇者と──」


 騎士達の最前に立つ大柄な男の人が、場違いに能天気な顔をしたあたしを見て眉を潜める。ああそういえば、あたしは謎のもう一人的なポジションなんだったね。


「こいつはオレの妹だ。使いようによってはオレより役に立つ」

「……そうですか。では、新たなる6名の協力者には、改めて我が騎士団と手を取って頂けることに感謝申し上げる。私はこの場に集めた精鋭部隊の隊長を務めるマクラウドだ。以後お見知り置きを」


 恭しく礼をするマクラウド隊長──なんだかはっきりとは言えないけどお腹が空いてくる素敵なお名前だ──の後、背後に控える精鋭部隊の皆さんも勇ましくそれに続く。


「さて、それじゃあ早速作戦会議と行こうか。まずは状況を整理する」


 お堅い空気には慣れっこの様子で堂々と切り出したお兄ちゃんは、壁に掲げられた大きな地図の前に立ち説明を始めた。


「魔王城は上空を常に不規則に移動中で、魔力の壁で覆われているため外側からは観測することもできない。竜で匂いでも辿れば可能だったんだが、あいにく教会から遥かに離れた場所に長時間竜を飛ばすのは聖女の余力を考えても現実的じゃないし、そもそも匂いの元が出戻って来たから不可能だ」

「いま妹を匂いの元呼ばわりした?」

「よって魔王城への到達手段は一つに限られる」


 あたしの嘆きをスルーしてお兄ちゃんは地図の上部、大陸の最北端を指差す。


「オレたちが今いる王都のさらに北──そこにある廃墟の遺跡に、魔王城への転移装置が遺されている……と、五十年前の戦いのわずかに残った記録には記されている。しかしこの遺跡に向かうには王都との間に広がる広大な平原を抜けなければならない」


 お兄ちゃんは地図の王都から遺跡との間に広がる長い距離に矢印を引き、勢い良く×印を付けた。


「この平原は前回の魔王戦以降、魔獣の群れが絶えず支配していて長らく進行は不可能とされていたエリアだ。ここを突破し遺跡に辿り着き、魔王城へとワープする。それが大まかなオレたちの目標だ」


 お兄ちゃんはチャラチャラと、手の内で3つのピンを転がして目を細める。


「ここでは魔族との戦いは避けられない──いわゆる三強と謳われる魔族。魔獣を使役する獣飼けものがいのマリア、炎を操る灼熱のニチェ、そして強力な魔法を駆使する幻惑のハイネ。素通りさせてくれるわけもないだろうから、まず間違いなく全力で止めに来るだろう」


 二つ名的なものに無邪気に目を輝かせる晴春君に呆れつつ、ずいと挙手して太一郎君が尋ねた。


「質問いいですか。平原の敵ってもしかして全部不死なんですか?」

「いや、魔族は残念ながらもれなく不死だが、魔獣に至ってはその限りじゃない。魔石の数にも限りがあるからな、点在はしているだろうがそう数は多くない」


 トントン、とお兄ちゃんは平原の前半に一つ、後半に一つ、そして遺跡に一つ、赤いピンを突き刺して見せた。


「だが魔獣と並行して魔族と戦うのも至難の業だ。まずは魔獣を使役して無尽蔵に供給してる獣飼いのマリアを倒すのが先決。広範囲に敵味方関係なく無差別に炎を撒く単細胞のニチェは、魔獣突破後に控えていると考えるのが妥当だろうな。そして多分、最後の砦として遺跡の内部でハイネとの戦闘になるだろう。一番強いのはコイツだからな。上空から平原を偵察した結果と、全員と何度か戦った経験からオレに推測できるのはこんなとこ」


 お兄ちゃんは淡々と言い切ると、隊長さんに向き直る。


「魔族との戦いは基本的にオレたち勇者が中心に進むべきだろう。騎士団には、道を開けるために魔獣の群れの相手をしてもらいたい。それでいいな?」


 お兄ちゃんの提案に、隊長さんは少しだけ不服そうに──ふた回りも年下のお兄ちゃんが指揮をとるのがちょっと嫌なのかもしれない──眉をひそめると、「了解した」と首肯した。


「しかし、不死はこれまで貴殿であっても退けられない難題だったはず。いくら神から力を賜っているとは言え勝算はあるのか?」

「いや、こちらにも代償がある以上いちいち総当たり戦には持ち込まないで分業制を取る。マリアの相手はアリア。サポートにタカトー君だ。よろしくな」

「へ?」


 ぼんやり話を聞いてたらいつの間にか話題の中心に出されて、しかも内容が内容なので間抜けな声を出してしまった。あ、あのめちゃくちゃ怖い獣飼いの人になんで?


「どういうことですかカノンさん、確かに雨宮さんは強いですけど……」

「聞くにあの獣飼いはアリアに相当な恨みがある……基本魔獣を操って高みの見物を決め込んでるあの魔族を戦場に引きずり出すにはエサが必要なんだ。ペットを次々惨殺し自分の片目まで穿たれたムカつく小娘、これ以上に食いつきのいいエサは無い」

「い、妹をエサにするとは何たる兄……!」


 でも分かる、ちょっと煽ったらすぐブチ切れて出て来そうあの人!

 無慈悲かつ反論できない作戦に泣きそうになっていると、お兄ちゃんはフッと笑って「それに」と付け足す。


「戦力としてもマリアに対抗できるのはアリアだけだ。魔石本体を露出していないあの厄介な魔族でも、『不死斬り』なら攻撃を通せるからな」


 お兄ちゃんに視線で促され、ああそう言えばと刀の一振りを抜刀する。妖刀・螢火(ほたるび)、現れたその赤い刀身に騎士たちからざわめきが漏れた。


「……五十年前の戦いで振るわれたという、伝説の刀鍛冶の最後の傑作……!? どこでそれを……」

「一本買ったらもう一本……いえ、いろいろ事情がありまして。貰い物です」


 ジゼルさんの高笑いを思い出しながらそっと鞘に刀を収めると、ぎり、と鈍い音が微かに聞こえた。それが隊長さんの歯ぎしりだったことを、きつく閉じられたその口を見てあたしは悟った。


「……しかし刀剣の扱いならば騎士こそ胸を張るべきもの。その刀の能力が重要であるならば、騎士団が振るう方が安全なのでは? わざわざ妹君を危機に晒すのも忍びないこと」


 にこりと人良く笑って、隊長さんはあたしに手を差し伸べた。刀を寄越せってことらしい。

 だけどあたしは鞘を隠すように身をよじると、ふるふると首を横に振った。


「ごめんなさい。コレはあたしが」

「……何故? 騎士団で最も手練れである私の腕が信用できないと?」

「いえ、あなたはとっても強そうですけど、強いだけじゃダメだって先生に言われたので。……えーと、隊長さんて、『何も感じないバカ』ですか?」


 ぶわっ、ととんでもない目に見えない圧に押されて、あたしは大いに怯んだ。

 ひくっと上がって震える肩を高遠くんに支えられて、ようやくその場に立つ。隊長さんの目は殺気立ってあたしを見下していた。どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。せ、先生に言われたまま言ったのがまずかった……。


「あ、いえ、あの、あたしがそうなんです。そういう人じゃないと妖刀の力に飲み込まれて心が奪われちゃうらしくて。でも隊長さんは賢そうだし、それだと危ないかなぁなんて?」


 本当はもう一つ、『真に心清らかで己を律する鋼の精神を持つ』って条件もあったんだけど……これは黙っておこう、さすがに首が飛びそう。


「戯言を。貴女のような子供に振るえて私に出来ぬ道理がありますかな? 勇者として名を上げたいだけの虚言では?」

「ええ? そんな世界のピンチにちっちゃいこと言われても……」

「ちっちゃいとは何だ!?」

「うひゃっ」


 怖い顔の人に急に怒鳴られたのであたしは思わず涙目で飛び上がり、咄嗟に前に出てくれた高遠くんの背にぶるぶると隠れる。あ、あたしのせいなのかな、あたしがもっと厳つくて筋骨隆々で威厳があればおじさんのプライドを傷つけずに済んだのに……!


「隊長。それ以上その少女を貶めることはおやめ下さい」


 凛とした声が響き、その場の空気が鎮まる。

 すっと歩み出て進言したのは、ちょっと迷惑そうな顔をしたギュスタさんだった。ホッとして視線を向けると、あとで覚えとけよ的に睨まれた。なぜに。


「妖刀は持ち主を選ぶと聞きます。資格がなければ鞘から抜く前にその身を食い破られていたことでしょう」

「ギュスターヴ、口を慎め。最年少で精鋭部隊入りしたからと随分鼻持ち高くいるようだな?」

「……決戦に向けて、このような作戦会議は手短かつ余計な情報を交えず済ませ、各員戦いに備えるべきです。個人の感情でいたずらに作戦を歪めて勝てるほど敵は甘くはありません」

「ほお、言うでは無いか。さすがは王家の出ともなれば下々の話に耳を傾けることも煩わしいということか?」

「……………」

「王家?」


 お、王子様だったんだギュスタさん……だからあんな最南端に遠ざけられてたのか。そういえば船長さんにも若とか言われたような? 熱血だとは思ってたけどそんな身分で危険な騎士団に身を置いてたとは、ルードさんが呆れるのも頷ける。

 確かに育ちが良さそうだとは思ってたけど、あだ名なんかつけて不敬罪で処されるかもしれないとあたしは更に震えていた。


「今この世界の命運をかけた場においてそのようなことが重要でしょうか? 位を上げる機会なら平和を取り戻してからいくらでも……」

「フン、所詮この隊に入れたのも出自があってのことだろうに。騎士団に身を置く以上は一介の騎士として立場を弁えてもらいたいものだな。黙ってぬくぬくと守られていれば良い立場の人間が戯れに茶々を入れて、全く冷やかしも大概に──」

「……あの、あたし頑張るので心配しないでください! 獣飼いの人はちゃんと責任持って完膚なきまでにやっつけます。あと」


 ぴっと挙手して隊長の言葉を遮ると、あたしはてくてくと歩いてギュスタさんの前にぴたりと止まった。


「……アマミヤアリア?」

「この騎士さんに護衛をお願いします。お借りしても良いですか?」


 にこっと笑って振り返った先、隊長は目玉がおっこちそうなぐらい驚いて開眼し、ぷるぷると震えていた。


「おい、何を言ってる君!? 俺に気を遣っているなら……」

「もちろんトドメは刺しますけど、そこまでのサポートは多い方が安心ですから。高遠くんとギュスタさんなら前に一緒に戦ったことあるし、いいコンビでしょ?」


 どうせあのままの流れだと護衛につくにしても隊長さんが出張ってきそうだったし、先手を打つに越したことはない。命を預けるなら信頼できる人じゃないと怖くて戦えもしない。


「だーいじょうぶ、あたしは負けないし、いざとなれば高遠くんが獣飼いの一人や二人バラバラに解体してくれるので! 一緒に大勝利してあの偉そうなおじさんギャフンと言わせてやりましょー。ね、高遠くんっ」

「う、うん。がんばる……」


 小声でひそひそとギュスタさんに告げてから、くるりと振り返り名前を呼ぶと、高遠くんは照れたように頬をかいて実に頼もしく八つ裂き宣言をしてくれた。よし!


「……戦いに個人の感情を持ち込むなとさっき……いや、いい。何を言ったところで君の選択は揺るがないのだろうから」


 諦めたように苦笑して、ギュスタさんはその場に跪くと、あたしに深く礼をして告げた。


「騎士ギュスターヴ。この命に代えても貴女を守り抜くことを誓いましょう」

「あは。命に代えたりしたら殺ーす」


 わははと笑うあたしに、激怒マックスって感じの隊長が何か言いかけた瞬間、お兄ちゃんはパンと手を打ってぴしゃりと叫んだ。


「さて! それでは作戦の詳細を説明しよう。まずは…………」




 * * * * * *



 長い作戦会議も終わり、明日は遠征の準備に充てることとし、決戦は明後日と決まった。


 難しい話をたっぷりされて脳が過労死しかけたあたしは、早々に宿としてあてがわれた女子寄宿舎の一室でひたすらゴロゴロしていた。


 高遠くん含めみんなは作戦の確認を入念に詰めているみたいだけど、あたしの役割はぶっちゃけゴリ押し切り込み隊長って感じの「とにかくがんばれ」スタイルだったので、必要なのは心の準備ぐらいだった。それもまあ大体できてるし、ちょっと早いけどこのまま眠っちゃおうかなと思っていたら。


 コンコン、とノックの音が響いて、あたしはぼんやりと返事をした。


「どうぞー」

「名乗る前に通すのは女の子として如何なものかと……私です。ルードレイクです」

「あ、ルードさん!」


 ぱっと飛び起きてドアを開けると、鎧を脱いだシンプルな出で立ちのルードレイクさんが苦笑いしていた。


「こんばんはっ。あの、ルードさんは明後日の戦いには……」

「私は精鋭部隊ではないので、後方も後方の、アリアちゃんからは見えもしない所で援護に回る予定です。すみません、力及ばず」


 パタンと閉めた扉の前で頭を下げられ、慌てて手を横に振る。


「いえ、助かります! 邪魔っこい魔獣をやっつけてもらわなきゃ進めないし! それでご用事は?」

「はい。あの、お礼を……ギュスターヴ様の名誉を守っていただいたそうで、ありがとうございました」


 きょとんとしていると、困ったように笑われてしまった。


「貴女は本当に、礼や見返りなど求めず、自分がそうしたいからそうする人なんですね……」

「あ、いえ、てっきりルードさんには怒られるものかと……ギュスタさんを戦線の一番危険など真ん前に引っ張り出しちゃったわけだし」

「いえ。あの方はそのために騎士になられたのですから本望でしょう。何かと理由をつけて危険な任務からは遠ざけられていた不満もあったでしょうから……願っても無いことかと」


 よく分からないけどルードさんはうれしそうなので、どういたしまして、と頭をかく。


「そういえば驚きました、ギュスタさんが王子様だったなんて! ピザを素手で食べろなんて横暴なこと言っちゃった」

「いえ。継承順位的に、王家皆殺しでも起きない限り王位を継ぐ可能性の無いお方でしたから……お飾りではなく、国のために身を削るものでありたいと、志願して幼少期に家を出られたのです。小さな頃から破天荒な方でした、貧民街で襲いかかった私を『良いナイフさばきだ、ぜひこの国のために振るってくれ!』なんて言って拾ったりして」


 くすくすと笑うルードさんの話に面食らう。い、意外とイカれた思考してるなギュスタさん……。


「あの方にとって、国を守る戦いに身を投じられることは何よりの幸福です。王都に戻れたのも、此度の戦線に出られたのも貴女のおかげ。口下手なあの方に代わって言わせてください。アリアちゃん、本当にありがとう」

「あ、いえ、そんな、ただの無鉄砲でして……」


 下げられたルードさんの頭、綺麗なつむじを眺めながら、この人は本当にギュスタさんのことが好きなんだなあと感心する。

 ああそうだ、せっかくだから。


「あの、ルードさん。あたし諸事情でちょっと恋バナを聞いて回ってるんですけど」

「コイバナ? ……よく分かりませんが、私でよければぜひお力に」

「どうもです。あの、ルードさんはギュスタさんに、その、想いを告げられたりはしないんですか?」

「しません」


 即答されてしまった。


「身分が違いますから。結ばれることはありえませんので」

「で、でも、この前聞いたとある美少女はちなみに、結ばれなくても知ってもらうだけでうれしいって言ってたりして……」

「あの方にとって私は国を守る剣の一本です。そのような感情をぶつけて困らせたいとは思いません」

「でも……」

「アリアちゃん。私は人知れずともただ思えるだけで十分なんです。あの人が生きて健やかにおられるだけで、それは十分すぎるほどの幸せなんですよ」


 それに、とルードさんは笑う。


「人知れずというわけでもなくなりましたし……アリアちゃんと私だけの秘密。それで私は良いんです」


 文句を言いたかったけれど、胸を張ってそう言われてしまっては返す言葉もない。

 うーん、伝えるだけで幸せな人に、思うだけで幸せな人……いろんな恋があるんだなぁとあたしは恋愛の複雑さに頭が痛くなる。


 ではあたしが最後に選ぶのはどんな恋なんだろう。

 いまだ心も決められないまま、来たる決戦の日を前に、たった一人のことを思い浮かべてあたしは目を閉じた。


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