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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第7章 恋と終わりの異世界

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片思いの終わり


 安全バー無しジェットコースターこと、子竜のドラ美ちゃんによる空の旅はあたしにとって順調そのものだった。高遠くんには悪いけど。


「キュッキュイキュイ〜〜〜」

「しぬ」

「よし、語彙がヤバいことになってる! これでは告白の返事などしている余裕もあるまい!」


 魔王城からの帰り道。

 上空をばつぐんの不安定感で飛び回る竜の背の上で、後ろに座る高遠くんは虫の息だった。

 とってもかわいそうだけどあたしもフラれてショック死する危険に瀕してるので、このまま言語機能をマヒさせていていただく他に道はない。許せ……


 と思ってたら後ろからチャキ、と、まるで剣を鞘からわずかに引き抜いたような……ていうかまさしくその通りの金属の擦れる音がして、ドラ美ちゃんはピタリと狂ったバランス感覚を正し安全運転を始めた。


「ピャ…………」

「よーしいい子だ……聖剣の切れ味を味わいたくなければそのままゆっくりなるべく揺れずに飛行してもらおうか……あわよくばもうちょっと高度下げて」

「なっ……! 高遠くん酷い! 脅迫なんて勇者にあるまじき行為だよ! この悪代官! ドラ美ちゃんもそう思うよね? ドラ美ちゃんは女の子だからあたしの味方だよね? 聖剣なんかに屈せずあたしの乙女心を汲んで思いっきり大暴れの旋回しまくりで飛んでくれるんだよね?」

「ピギャ…………」

「あっ卑怯だぞ銃火器を持ち出すなんて!」


 優しく諭しながらリボルバーの銃口を竜の背に当てると背後から野次が飛んだ。うるさい!こっちは命が懸かってるんだよ!!


「ピィー…………」


 しかし大人気ない目の血走った高校生2人に真逆に脅されたドラ美ちゃんは大いに混乱したらしく、まん丸の目に涙をたっぷり浮かべてピェピェ泣き出してしまった。りゅ、竜とはいえ小さい女の子になんてことを……


 弱々しくパタパタと上下する翼の音だけが耳にこだまして、ハッとする。どうやら年貢の納め時らしきことを痛感しながら、あたしは恐る恐る後ろを振り返った。


「うー…………」

「やっとこっち見てくれた……って何で泣いてるの!?」

「だって今からフラれるんだもんー! 泣きたくもなるよー!! もういいよいっそ一思いにブッスリやっちゃってくださいよお!」

「いや、」

「あたしなんてどうせどこ刺しても吹っ飛んでく黒ひげ危機一発みたいなもんだよ高遠くんのバカーー!」

「ええー……?」


 えぐえぐ泣きじゃくりながらわあわあ(わめ)いていると、高遠くんは困ったようにあたしを見つめて、それからため息まじりに言った。


「……最初に言っとくけど、フラないから」

「うん、わかってる、すぐには無理だけどこれからは良い友達として……」


 ……って、ん? ふらないの?

 目をぱちくりさせるあたしに、高遠くんは一度大きく深呼吸すると、ためらいがちに口を開いた。


「……その、頑張り屋なとことか、一生懸命なとことか、前向きなとことか……あ、これ全部意味同じだ……」

「?」

「かわいいとことか、元気なとことか、素直なとことか……いやこれじゃ犬か……?」

「??」


 顔を赤くして伏し目がちに言う高遠くんの声はとても小さく歯切れが悪く、あたしは眉根を寄せた。


「高遠くん、もっと大きい声で言って?」

「ええ!? そんなハードル上げるようなことを……。あー、だからつまり、俺は君が……」

「キュッキュキュキュイ〜〜キュ〜〜」

「おい子竜本当にやめろ人が人生で一番緊張してる時に!!」


 ちょっと元気になってきたドラ美ちゃんに遮られ、高遠くんの声は遠い。おまけに風も吹いてきてますますかき消されるようだった。


「高遠くん? 何て?」

「だから、俺も君のことがす……」

「えっ? ガス? ごめんね風の音がすごくて……」

「──ああもう! だから!」


 くい、と腕を引かれて、あー顔が近いなあいかわらずかっこいい、と思った直後、それは本当に一瞬のことだった。


「……………」


 永遠のような0.001秒、ほんの一瞬くっついたその口を大きく開けて──高遠くんは柄にもなく必死な表情で、きゅっと目を瞑って大声で叫んだ。


「俺も! 君のことが! 好きだーーーーー!!」


 だー、だー、だー………と、反響したようにすら思えた。

 なぜだか世界が口裏を合わせたかのように、どういう訳かその数秒だけ風も竜の声も何もかもしんと静まり返ったので。

 高遠くんの渾身の告白はうるさいぐらいばっちり、あたしの耳にキーンと響いて届いたのだった。


「……………」

「なぜ急に無音に……」


 雑音を考慮して聞こえない前提で叫んだのか、自分のために突然ミュートした世界に高遠くんは裏切られたように声を震わせていた。

 そして、声も発せずぽかんとしているあたしを見てハッとした様子で口元を抑える。


「ご、ごめんいきなり! 焦ってつい……」


 耳まで真っ赤にして顔を背ける高遠くんを見つめながら、あたしは事態をうまく飲み込めずに、ぽつぽつとほぼ無意識に、浮かんだ言葉を漏らしていた。


「謝るの、変だよ」

「え」

「あたしも高遠くんのこと好きなのに……」

「あ、うん、ありがとう……」

「さっきの」

「へ?」

「一瞬すぎてよく分かんなかったから、その……」


 ぼんやりと唇を指でなぞる。既に名残もない、そこにあったはずの感触や熱が夢なのかどうか確かめたくて、あたしは高遠くんを見上げて呟いていた。


「もう一回して……?」


 なぜだか恐ろしいものを見るような目でこちらを見下ろし、ごくりと唾を飲み込んだ高遠くんが、何か言おうと微かに口を開いた瞬間。


「キュッキュキュイキュイキュイ〜〜〜!!」

「わっ!?」

「うわああああああ!?」


 突然歓声をあげて飛び跳ねるようにぐるぐる回り始めたドラ美ちゃんに、高遠くんの絶叫が響く。


「ど、ドラ美ちゃん??」

「な、なんだってこんな時に……! おい子竜後で必ずあ、むりしぬ」

「キュンキュイキュイ〜〜」


 高遠くんの必死さを歯牙にもかけずドラ美ちゃんはとても嬉しそうにきゃあきゃあ騒いでいた。


 高遠くんには悪いけどあたしは何だか怒る気になれなくて、にじんでいた涙をこっそり拭ってから、あはっと笑っていた。

 都合のいい気のせいかもしれないけどたぶん、「よかったね」って言ってくれてる気がしたから。


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