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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第6章 竜と祈りの教会

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死んでるヒマもなさそうだ


 月も照らさないなんてあまりにも救いがないな。

 いつの間に雲が出て来ていたのかすっかり燻んだ夜空の下、ほとんどの人間が寝静まった修道院の中は怖いぐらいにしんとしていた。どんちゃん騒ぎでもしてくれればまだ気がまぎれるのに、残念ながら夕方の大騒動がようやく落ち着いたところで、皆憔悴しきっていた。


 さっきようやく寝付いたマヤちゃんの、泣き腫らしたあの目が朝には元どおりになっていればいいなと思う。鏡を見てまた悲しい気持ちがぶり返すのも可哀想だ。


 そしてさすがに一晩放置しておくのも心配なので、毛布の一枚ぐらいかけてやろうと思って訪れた中庭で、目的の相手はぼんやりと何もない宙を見つめていた。


 ……ああ、もしかしたらあの辺りでいなくなったのかもしれないな。アリアちゃん。


 俺はやるせない気持ちでうな垂れ、手にしていた毛布を放り投げる。避けもせずにそいつは頭から布を被り小さくよろけた。田野上君、と弱々しく呟く辛気臭い声に、片手を上げて精いっぱい明るく答えてやる。


「よお、水も(したた)る駄目男。頭は冷えたかい?」

「……物理的にね……。花木さんは、大丈夫? 随分泣いてたような……」


 人の心配をする心が戻ったことに安堵しつつ、

「さっき寝たとこ。明日には気を取り直すさ、鼻声だろうけど」

 と軽く返す。



 晴春と渋谷先輩も落ち込んではいるようだったけど、もう冷静に今後のことを考えてるみたいだった。さすがは勇者に選ばれるだけあって俺たちはなかなか並外れて精神力が強い。なんだか寂しいことのようにも思えるけどな。


「あ、そうだ、カノンさんから伝言。謝らないけど、風邪引いたらごめんな、だってさ」

「謝ってるじゃん」


 ふ、とようやく上がった口角も、すぐに下がり黙り込む。カノンさんのことを思えばその妹であるアリアちゃんのことも思い出さずにはいられないんだろう。難儀なものだ。




 あの後──アリアちゃんが、侵入した魔族に連れ去られた後。


 追いかけに行くと大暴れする高遠君は誰も手がつけられないほどブチ切れていたけど、顔色の悪いぐったりした聖女ちゃんに竜を出してくれと詰め寄ったのはさすがに人として最低だった。


 即座にカノンさんの渾身のゲンコツを脳天に喰らい、中庭の水やり用と思しき水を頭から大量にかけられて「いいから落ち着け!!」と怒鳴られていた。この人言う前にやりすぎだなと思ったけど。


「……妹が拐われたんだ、一番追いかけたかったのは、お兄さんだったろうに。悪いことしたな」

「んー、まあさすが最年長って感じだな。すぐに神官たちと会議開いてあれこれ話し合ってくれたみたいだし」


 ちなみに聖女ちゃんは結界を張るわずかな力だけをどうにか残してダウンし、静養中。あの鏡はまた何も映さず、神様への尋問は尻切れトンボで終了した。

 まあ聞きたいことは大体聞けたけど……それにしても、随分濁した言い方をする神だったな。ありゃ何か俺たちに言いづらい事情が他にあるに違いない。


 まだ湿り気の残る髪を振りながら、ぽつりと高遠君は言う。


「…………また泣かせた」

「え? ああ、まあフラれたと思ったっぽいもんなー……あの子勘違いの反応速度凄まじいし」


 なし崩し的に公開告白したアリアちゃんに、高遠君は即座に反応を返すことができなかった。


 まあ予想外で虚を突かれたんだろうし無理もないけど、でも、せめていつもみたいに赤面の一つでもしてくれれば良かったのになあ。


「俺が言おうと思ってたんだ。もっと自分を磨いてから……」

「はあ」

「星空の下観覧車のてっぺんとかで……」

「はあ……」


 なんか小学生みたいなことを言い始めてしまった。


「……それに雨宮さんが俺のこと好きなんて、まさか思わないだろそんな奇跡?」

「いやいやいや君らだけだよ気づいてないの」

「ええっ!?」


 ガーン、とずり落ちた毛布の下で青ざめる高遠君に心底頭が痛くなる。

 なんなんだよこの二人、自己評価低すぎんのか? 面倒臭いにも程がある!


「なんで分かったんだみんなは……」

「そりゃーあんな全身で好き好き叫んでるような子見たら一目で……」

「お、俺も好きだよ!」

「いや俺に言うなよ気持ち悪いなあ! そういうことは本人に言ってやって!」


 鳥肌を立てながらしっしと手を振ると、高遠君はきゅっと眉根を寄せて俯いた。


「うん……言いたいな、今すぐ」

「まあとりあえず今日のところは寝ようぜ。明日になったら忙しくなるだろうし。ようやく目が生き返ってきたみたいだし?」


 茶化すように笑うと、高遠君はふっと笑い返して頷いた。


「ああ。死んでる暇もなさそうだしね」


 うん、良かった、もう大丈夫そうだ。

 あとは敵の本拠地にいるっていうアリアちゃんのことだけど……


愛読書(ギフト)奪われた上に魔族に連れ去られたんだろ? ぶっちゃけかなりヤバくない?」

「いや……あの魔族は多分、雨宮さんをすぐには処分したりしないと思う。前に会った感じだと……」

「……ん? 前に会った魔族……あ、もしかしてあの人が例のデコチューの人か!」


 ほんの少し空気が凍った気がしたけどまあ夜だしと気にせず、俺はけらけらと笑って続ける。

 二つ目に訪れた港町で出会った高位魔術師に、アリアちゃんが『妙なやり方』で魔法をかけられたという話は、砂塵の遺跡で高遠君から聞いて大爆笑したものだった。

 いやぁ敵ながらなかなかに面白いことをしてくれる、その時の高遠君のハラワタの煮えくり具合を想像すると笑わずにはいられない! ご愁傷様ランキング1位だ。


「はは、じゃあアレかもなー。今頃デコどころじゃなく、」


 ビリ、と紙のようにあっさり破れた毛布を見て戦慄する。せっかく生還した目がまた死んでしまったのを見て自分の軽口を慌てて手で押さえるも、時既に遅かった。


「……た、高遠君、あまり残虐なやり方は勇者としていかがなものかと……」

「大丈夫、苦しむ暇すら与えず一撃で仕留められるように全力で頑張るよ」


 爽やかな笑顔で宣言された。やべー奴の殺ヤる気スイッチを押してしまったな……。

 まあ落ち込みモードは終わったようだし、明日に備えて適当に手を振って別れる。


 見上げる空はあいかわらず暗く、だけどきっとあの二人なら大丈夫なんだろうと、根拠もなく俺はあくび混じりに思うのだった。


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