凱旋② 遺伝性残念
「ではでは勇者ご一行様の大集合を祝しまして! 僭越ながら、全員のことをそこそこ知っているわたくしめが他己紹介をさせていただきます〜」
「いやな予感しかしねえー」
「あっコラそこの太一郎君、棒読みで司会にそんな失礼なこと言って後悔しても知らないよっ!」
びしっと指さしながら告げ、あたしは全員の顔を見回した。うんうん、みんないい感じに目が死んでる!
「では私は午後の礼拝がありますので。どうぞ同郷の皆さんで親睦を深めてくださいね」
そう言って聖女ノエルさんが去って行った後、とりあえずみんな疲れてたので輪になって座ってみたりしたんだけど。
元々の知り合い同士が多いとは言え、なんとなくまだよそよそしさの残るみんなを見かねて前述の大役を買って出たあたしに、なぜだか全員不安げにヒエッ……と息を飲んでいた。失敬な。
高遠くんに至っては隣でハラハラと心配そうにこちらを伺ってくれている。うんうん、その感じまさしくおゆうぎ会を見に来た保護者!
まあ言い出したからには頑張るぞーとあたしは腕をまくり、コホンと咳をしてから紹介を始めるのだった。
「まずは花木マヤちゃん、高校2年生! 愛読書は『不思議の国のアリス』、スキルはでっかくなったりちっちゃくなったりとっても便利、代償は眠気! 乗り心地は景色サイコー・滑落死すべしって感じでスリル満点星5つ、欲を言えばセーフティーバーを実装してくれるとうれしいかなって感じですね」
「半分くらいアトラクションレビューだわ……」
「続いて田野上太一郎君、高校2年生! マヤちゃんとは幼なじみで、愛読書はなんかよくわからん怪しいやつ、スキルはバフとデバフと言えば聞こえは良いけどぶっちゃけ洗脳みたいなもん、代償は発熱……待って、冷静に考えると敵よりもあたしに対してスキルを使った回数がダントツ1位な気がしてきたな?」
「何が冷静なんだよ、真顔でリボルバーに弾詰めながらしゃべんのやめろ!!」
「えーと次は真白晴春君、高校1年生! 愛読書は『妖怪大図鑑』、スキルは妖怪変化。最年少かつ中の二のとんでもない大病を患ってるけどとっても頼れる良い子、しかしその真の姿はたぬきなのでした。代償は何だっけ?」
「薄々気付いてはいたけどアリア先輩やっぱりなんか勘違いしてるっスね?」
「どんどん行きまして渋谷真姫菜さん高校3年生! 愛読書は『竹取物語』、スキルは色々あるけどとにかく防御力最強、でも火気厳禁! 代償は貧血、特技はピアノ。特に魅了スキルは強力で、あたしも危うくお年玉が入ったキャッシュカードと暗証番号を渡しかけました。異世界にATMが無くて、本当に良かった♪」
「たまに思うんだけどアリアちゃんよく犯罪とかに巻き込まれずに生きてこられたね?」
「そしてお待たせしました、高遠深也くん高校2年生! 愛読書は『アーサー王物語』、スキルは剣術とかなんか騎士的なもの全般でとっても強くて慈悲がなーい、代償は心拍数上昇、黒髪も金髪も僕も俺も兼ね備えてる奥深さ、いつもすごーく優しいけどあたしが間違った時はちゃんと真剣に怒ってくれるとことか、大人っぽいのに笑った顔はちょっと子供っぽい時もあってそのギャップが堪らなかったり、あとー…………あ、ここから最短でも二時間ぐらいぶっ続けになるけど休憩入れた方が良いですか?」
「何が!?」
ここぞとばかりに高遠くん布教をしようとはりきったんだけど、本人に真っ赤な顔で止められたもので残念ながらカットすることになった。ちぇー。まあ教会で異教徒を増やすのはまずいか……(?)
「…………てな感じでみんなとってもいい人たちなんだよ。分かった? お兄ちゃん」
「ああ。よく分からんがお前が相変わらずアホなのはよく分かった」
「なんでっ!?」
頑張ったのに! とダシダシ地団駄を踏んで憤慨するあたしを無視して、お兄ちゃんはみんなの顔をしげしげと眺めると、なんだか嫌そうな顔で唸った。
「ていうか何だこの勇者ご一行様、爽やかハイスペック優等生にクール系美女に幼馴染カップル……。たぬきとお前以外圧倒的1軍陽キャ集団の光属性じゃないか、眩しさで目が焼かれる……闇パで組んどいてくれよな」
訳のわからないことを言って大げさに目を覆うお兄ちゃんには、あたしもさすがに口を尖らせて抗議する。
「む。高遠くん見てもダメージなんか受けないよ、むしろ回復するよっ!」
「はあー? オレが回復魔法受けて死ぬアンデット系とでも言いたいのかこの愚妹めっ」
「ああーー!! やめてやめて頭ぐりぐりしないで縮むっ」
「あっテメ、兄のスネを蹴るな脛を!」
「すごい……!アリア先輩と互角にやり合ってるっス……」
「今まで『何だかんだ人様の家の子だし……』とみんなが遠慮してたツッコミを容赦なく入れてくれるなぁ」
「この二人を同時に子育てした親御さんの苦労が慮られるわ……」
血で血を洗うドロ沼の兄妹喧嘩を繰り広げていたら外野のみんなになぜだかいたく感心された。なぜに。
お互いの両頬を全力で引っ張り合いながら、「ひょーいえばおにいひゃんのひょうはいひへはひ」と言うと、ぱっと手を離された。
「いや、お前に紹介されるぐらいなら自分でやるからいい」
「えー? どうして? せっかくみんなにお兄ちゃんの面白エピソードを余すところなく紹介しようと思ったのに……」
「だから嫌なんだよ。傷ついた顔やめろ」
しっしとぞんざいに手を振りながら、お兄ちゃんは咳払いの後に口を開いた。
「雨宮カノン、19歳。不本意ながらそこの天然記念物の兄、愛読書は『創世記』。スキルは……色々あるけど、メインで使ってるのは『創造』『雷撃』『飛行』あたりかな。まあ一応最年長だし教会の滞在歴も長い、色々分からないことがあったら頼ってやってくれ。よろしくな、以上」
「普通すぎ。30点」
「だったらお前のは小数点以下か?」
「あいたっ」
ぽかっとソフトなげんこつを喰らって頭を抱えるあたしを心配してくれつつ、高遠くんは「そういうことなら」と頷く。
「カノンさんがいればもう俺たちの目的は果たしたも同然ですよね」
「え? どうして?」
「創造スキルは強力だ。思い描いたものが実在非実在に関わらず何でも具現化できるなら、『魔王を一撃で倒せる武器』と『魔王の目の前に一瞬で移動できる装置』でも創ってしまえば簡単に目的を達成できる。極端に言えばそうですよね?」
……お、おおー? なるほど!?
お兄ちゃんすっごーい、と、尊敬の眼差しを向けると、しかし当の兄は露骨に目を泳がせてしどろもどろに声を零していた。
「あー、うん、そう。……そうだった」
「だった?」
言い淀んでいたお兄ちゃんは、みんなからの注目&あたしの熱視線を浴びて観念したように息を吐き、左腕の袖を捲くって手首を見せた。
「これを見てくれ」
「?」
全員で覗き込んだ先、お兄ちゃんの手首には、小さな赤い十字架のような痣が一つ浮かんでいた。
よくよく見ればその横にはスクラッチのように掠れた同じ形の痣の痕がうっすらと6つ並んでいて、元は同じものが一列に7つ並んでいたことが伺い知れる。
これは一体……?
「オレがこれに気づいたのは、この世界に来てしばらく経ってからだった。……そしてよくよく思い出してみると、その時点で創造スキルを使ってちょうど6つの物を創り終えたところだった。オレのスキルの元になっている愛読書の冒頭に記されているのは、神による7日間に渡る天地創造の顛末だ」
消えた痣が6つに、創った物が6つ。そして残った痣は1つ。……つまり、
「…………元々7回限りの能力で、残り1回しか使えないってこと?」
「おそらく。……試してみたいけど、残り1回だった場合それで終わりだしな」
さ、さすがチートスキル。そりゃ無限に使えたら一瞬で世界救えちゃうもんね、そんなに上手くはいかないか……。
ちょっとがっかりしつつ、「でも」と顔を上げ何だかばつが悪そうなお兄ちゃんにずずいと詰め寄る。
「つまり6つもすごーいアイテムを創ったんだもんね!? もちろんそれがあれば魔王をやっつけられるぐらいの、すごーく便利なすごーい物を創ったんだよねっ、ねえお兄ちゃん??」
「……。オレが創った物は……まず、この世界を旅する上で必要な地図。次に、旅の資金を確保するために『常に一定金額が補充される財布』を」
ふむふむ、と期待いっぱいに頷きつつ、逸らされる視線を追従して無理やり合わせながら尋ねる。
「で、3つ目は?」
「…………ン」
「え?」
「…………や、焼きそばパン」
空間から音を消し去るスキルかと疑うほどシンッと室内が静まり返った。
「…………………な」
完全にみんながフリーズする中、どうにか妹としての意地で声を発したあたしは、ぷるぷると震える手で兄の肩を掴みながら噛みつくように叫んだ。
「な、な、何を創ってんの貴重なスキルでーー!?」
「いやだって、その時は回数制限あるって知らなかったし!! 腹減るじゃんどうしても、コンビニもねぇしジャンクなものが恋しくなるじゃん、そんでもってこんな便利なスキルがあったら使うだろ当然!」
だ、だ、だからってなぜ創造主のスキルで惣菜パンを創りたもうた!?
いやあたしだったら7回分を一瞬で食糧に変える自信があるけど……。うな垂れながら恐る恐る、確認しなければならない嫌な予感のする情報を聴き出さんと、歯をくいしばる。
「……あんまり聞きたくないけど、残りの三回は何を……」
「『メロンパン』と『コロッケパン』」
「いっそ米を食え!!」
それもはや創造スキルじゃなく製パンスキルだよ!!
がっかりを通り越して絶望してるみんなに実妹として申し訳なくて頭を掻きむしっていると、ふと天啓のように思い至る。ま、まだ希望は一つある!!
「はっ……! あ、あと一回分まだ言ってないよね? あと一個は何を創ったの? 今度こそちょっとは役に立つアイテムが……!?」
「いや初心に帰って『食パン』」
「異世界春のパン祭りだーー!!」
な、なんてこった、実の兄がこんな邪悪なジャムおじさんだったなんて……!
恥ずかしさに身悶えしていると、しゅんと悲しい目をした高遠くんと渋谷先輩が首を横に振って言う。
「…………魔王最速攻略の道は諦めた方が良さそうだね」
「一瞬でも期待した私がバカだったよ……」
「ぐっ、うちの兄がかたじけない……! この上は一族の務めとして拙者が成敗を!!」
「うおっ、兄に向けて抜刀するなよ危ないな!」
泣きながら妖刀の柄にかけた手を即座に押さえて止めると、そのままお兄ちゃんはあたしの腕をぐいっと引いて少し表情を険しくする。
「わ」
「……さて、一応は挨拶も済んだしもういいだろ。アリアお前、ちょっと顔貸せ」
「えー? うわっ」
そうしてあたしの腕を掴んだままバサっと翼を広げて飛び上がると、お兄ちゃんは呆気にとられるみんなに軽く手を上げて言った。
「悪いなお友達の諸君、ちょっと家族水入らずの話があるからこのアホ借りてくぞ」
「おーろーしーてー! 末代まで呪ってやるー!」
「いやそれ多分お前も呪われるよ」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、ほんとに降ろされても着地が痛そうなので掴まれるまま渋々荷物のように連行される。
……でも去り際にちらっと見えた高遠くんの表情はなぜだか痛切な今生の別れチックで、あたしは宙をたゆたいながら、これからお兄ちゃんの言う『水入らずの話』とやらを思い首をかしげるのだった。




