異世界召喚されたらスキルが強すぎて3日で救世主とか呼ばれてた上に妹まで来た件②
目を開けると真っ白な空間にいた。
随分と殺風景だ、別にそれはいい。こういうことに内装なんて重要じゃない、オレはそこそこ環境に優しい男だから無駄を省くスタイルにはむしろ好感を持つ。問題なのは、目の前に転がってるものだ。
「…………?」
よぉく目を凝らしてみるとそれは子供のようだった。髪も服も肌も白いもんだから白い部屋でいい感じに埋没している。どうもしょぼくれているらしい、負のオーラがすごい。
ぴくりともしない白い子供を、対象的に黒い服に身を包んだシスターのような少女がゆさゆさと揺すって励ましている。……もしやセオリー的に聖女的なやつだろうか? するとまさかこの気落ちしてる小さいのがオレを呼んだ、いわゆる神様とかいうやつじゃないだろうな? いやまさか。
「元気出してくださいよ神。次、次いきましょ? ……あ! ほら来てますよ次の勇者候補が! 第一印象が大事ですよ、あいさつあいさつ!!」
「うう……どうせまたボロクソに言われて蹴られるんだ、神だから分かる、この世界の人間はみんなそう……」
「やだもーーあなたが諦めてどうするんですかっ、しっかりしてください神よ!」
連呼されるほどに神様だった。
なんか残念なやつに呼び出されてしまったようだ、将来の展望に不安を覚える。しかし神の復活を気長に待つのも面倒なので、オレは進行に助け舟を出すことにした。
「もしかしてこれって異世界召喚てやつなのか? 世界を救ってくれー的な」
その一言にシスターはぱあっと顔を輝かせて、パタパタとこちらに駆け寄る。子犬ならしっぽが旋回していただろう。
「さすがです仮勇者さま! うう、まともに話を聞いてくれた異世界人はあなたが初めてです……」
そしてオレの手を取ると、うるんだ瞳をキラキラさせながら見つめられる。おお、美少女だ。年はアリアと同じぐらいだろうか、なんだか残念な神に仕えて苦労していそうだな……可哀想に。職場を慎重に選ぶことの大切さを教えてくれる。
「あの、無理にとは言いません……ですが異世界の方々の協力を得られなければ、もはや我々の世界に未来を繋ぐ術は無いのです。どうかお力を貸していただけませんか……?」
うーん、こんな風に可愛い女の子にハムスターのように震えて手を握られ、祈るようにされてしまうと、さすがに「うさんくさいのでお断りします」と言いかけていた口も閉じるというものだ。
……それに、正直こういうのって嫌いじゃないし。退屈してたし、世のため人のためになる行為ってのも久しく出来てなかったし。生まれた時からすぐ迷子になったり窮地に陥る妹のせいで、人助けの経験値はそれなりに自信があったしな。遺憾ながら。
「いいよ、面白そうだし。困ってんでしょ?」
にかっと笑ってそう言うと、シスターは一瞬目を瞬き、それからほっとしたようにはにかんで「ありがとう」と頷いた。
「ただし、それなりの力はもらってくけど。もちろんあるんだろ? お約束だもんな。人知を超えた特殊な才能を授ける、とかさ」
試すように笑って見せると、シスターはちらりと神を振り返る。復活したらしい神はどっこいしょと起き上がり、淡々と説明を始めた。『愛読書』やら『スキル』やら。
ふーん、向こうの世界の力は使えないのか……。
まあそれなら、遠慮なくこっちの世界の最強クラスを持っていかせてもらおう。オレが頭の中に一冊の本を思い浮かべると、次の瞬間には、それは手の内に現れていた。
まじまじとシンプルなその表紙を眺めていると、シスターが「ちょっと検閲失礼しますねー」と本を奪い、パラパラとめくり始める。そしてすぐに、くわっと目を見開いて冷や汗を流した。
「……こ、これって反則じゃないです? 神にでもなられるおつもりですか?」
「もちろんそのつもり。フッフ、旧人類の話盛りっぷりを舐めたらいけないぜ。これでオレはまず死ぬことはないし、いざとなれば好きな時に元の世界に帰れるわけだ」
「はあ……で、でもこの本の情報量を投影するには膨大な力を消費しますね。神よ、あと5人予定してますけど大丈夫でしょうか?」
「背に腹は変えられん……何しろ記念すべき承諾第一号だし……」
「聖女的解説をしますと、これは弱ってるとこに優しくされると神でもサービスしたくなっちゃうという現象です」
「ちょろ神様だなあ」
乾いた笑いを浮かべつつ、おいおいあと5人もこの調子で誘うのかよとちょっと心配になる。
現代日本人は詐欺への警戒心そこそこ高めだからな、のこのこ着いてくるようなお人好しはそんなにいないと思うけど。実際断られまくってたみたいだし。
たぶん知力体力精神力的に20代狙ってるんだろうけど、よっぽど正義感が強いか現実に飽き飽きしてるタイプでもなければ易々と首を縦に振らないだろう、と自分のことは棚に上げてうんうん頷く。
「それでは協力感謝する。雨宮カノンよ、授けしスキルを駆使し、汝が我々の世界を救う勇者足らんことを」
「カノン様、また会いましょうね! 『教会』でお待ちしてます!」
笑顔のシスターに手を振り返していると、神様が指を鳴らした直後床にパカっと穴が空き、オレはそのまま真っ逆さまに落ちていくのだった。
* * * * *
「…………おお、森スタート」
目を開けると古典的な小川のほとり的なところに倒れていた。服は部屋着のスウェットのままだ。スマホ等の所持品も無し。
「ひとまず町的なとこに出たいな……」
外観的にも感覚的にもそんな感じはしないけど、たぶんあの神がヘマしてなきゃオレの中には愛読書ってやつが投影されてるはずだ。
胸に手を当てて目を閉じると、かすかにページを捲る音が響く。オレの偉大なる愛読書によれば、神は7日間で世界を創造したという──
「…………この世界の地図、現在地と『教会』に印付きで」
適当に念じてみると、カサ、と手の内に紙の感触がする。
ロール状のそれを広げてみると、南北に分かたれた大陸、その南端に赤いバツ印、そして北側の大陸の山脈の中に丸印。おお、『創造』スキル! 意外とすんなり使えてしまった。
しかし見てみると、現在地からシスターに指定された『教会』までは随分遠かった。距離もそうだけど、大陸が別だから海を越えていかなければならない。んー、空でも飛べればひとっ飛びで…………
「うおぉっ!?」
突然背中に熱が走り、服を突き破って生えてきたその四枚の羽に思わず変な声で叫ぶ。き、気持ち悪っ、なんじゃこりゃ、ああそう言えばそんな天使も出てきてたか? 自分で選んどいて何だけど何でもありな本だったな……
試しにバサバサ動かしてみると簡単に体が浮かび上がり、森の上空に出た。地上が一望できたので、地図と照合して方角を確認する。うん、とりあえずこの愛読書があればこの先何とかなりそうだ。本棚に入れといて良かった、もしもギネスブックとかだったらすぐ死ぬもんな、現実的すぎて。
「ま、さくっと片付けてさっさと帰りたいな」
あまり不在にして妹に心配をかけるのは忍びない。
しかしそうは言ってもここは異世界、旅は長引き普通に苦戦もするんだろうなと思っていたら。
なんとこの翼はめちゃくちゃ移動速度が速くてあっという間に大陸を越え3日で王都に着き、ついでに開花した他のスキルも強すぎて魔族相手に無双したりして、気づけば救世主とか呼ばれて戦いの最前線に駆り出されまくっていた。
そうして不死さえ攻略すればさらば異世界!という頃合いだったわけだ、妹が竜に乗って刀振り回してオレの目の前に現れたのは。
* * * * * *
「──とまあ、だいぶ端折ったけどこんなところかな。ふふん、オレの実力は結構すごいんだぞ。『獣飼い』の人はオレの顔見ただけで髪の毛逆立てて魔獣に乗って追いかけてくるし、赤い暑苦しいヤツは『大洪水』スキルで何度も水底に沈めてやったら変な友情芽生えさせてきて鬱陶しいし。ああ、でもあの万能魔法使いっぽい人はダメだな、今のとこよくて引き分けだ。向こうにやる気がないことだけが幸いだがいずれ……」
「すうすう」
「……って寝るな! こら、しかもイケメンをリクライニングシートにするんじゃない。ちょっと君近いよ、妹から半径5メートルぐらい離れてくれる?」
「そしたら俺も雨宮さんも落ちますよ」
「えーじゃあ駄目……ていうか、コイツいつから寝始めた?」
「トーストを完食したあたりですね」
「めっちゃ冒頭じゃん? 大事なとこ全部聞いてないし」
「長いんですよもっと分かりやすい言葉で話さないと……雨宮さん雨宮さん、そろそろ起きて」
「うーん……高遠くん……そんなに食べられないよ……ハッ!?」
背中に感じる心地いい感覚に微睡んでいたら、急激に現実に引き戻された。あ、あれ? 焼肉食べ放題は?
「おはよう。よく眠ってたね」
「た、高遠くん? ごめんね寄っかかったりして……重かったでしょ?」
「ううん、ちっとも。もう少し寝ててもいいぐらい」
「こらこらこら兄の面前でいちゃつくんじゃない!! アリアお前、全然話聞いてなかっただろ」
「話? き、聞いてたよ、脂身の多い肉は後に焼いた方が良いんでしょ?」
「それは夢の中の話だ」
つーか焼肉の夢とは色気が無い、とお兄ちゃんは哀れむように目を伏せた。な、なぜあたしの夢の内容を……!? ハッ、夢を覗き見るスキル?
「あ、それで、お兄ちゃんの愛読書って何だったの?」
「ん? ああ、それは詳しく話してなかったな。まあそこのいけ好かない少年には分かったようだけど」
べー、と舌を出すお兄ちゃん、なんでだか高遠くんのことをあんまりよろしく思っていないみたいだ。む、これはあとで個別プレゼンをして目を覚まさせなければ……
「『創世記』。旧約聖書の巻頭の書……で、合ってますか?」
「うん。ムカつくけど大正解」
「聖書……お、お兄ちゃん、神様の力を貰ったの!?」
ていうかそんな本が我が家にあったとは!? 確かに昔、お兄ちゃんがファンタジー的なものにどハマりした時にそんな感じの本を集めまくってたけど……なんてこった中二病枠は晴春くんで埋まってるのに……
「まあ神自体は冒頭で世界を創った後休暇に入って離脱するけどな。それになぞらえたのが創造スキル、これはまあ思い浮かべたものを何でも作り出すことができる」
「な、何それずるーい!!」
「あとエデンの東を守るために置かれたっつー天使と、回る炎の剣……つまり稲妻、に由来すんのがこの羽とさっきの雷」
「何でもありだー!!」
「あとは大洪水起こすのとか、相手の言語機能を一時的に混乱させるのとか、それから試したことは無いけどきょうだいに対してのみ即死効果を持つスキルというのも……」
「いや試さないでよそれ効くのあたしだけじゃん!!」
こ、このお兄ちゃんチート過ぎでは……? 聖書ってそんなドタバタストーリーなんだ。
さすが救世主とか呼ばれるだけはある、あたしの愛読書の人知を超えないっぷりを見習ってほしい。
「ふあー……なんかまずお兄ちゃんがいるってのにびっくりし過ぎて細かいことよく分かんないや……味方が強いのは心強いけど。でも2人で同時にいなくなったりしてお父さんもお母さんも怒ってるかなぁ? あとで謝り方相談しよ?」
「いや。その必要は無い」
「?」
きっぱりした物言いに首を傾げると、お兄ちゃんはなぜだか険しい顔をして目を細め、それきり黙り込んでしまった。なぜに???
疑問符を浮かべながら飛ぶ空の先、再び見えてきた教会本部の大きな穴を見下ろしながら、あたしはうーんと唸るのだった。




