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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第6章 竜と祈りの教会

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異世界召喚されたらスキルが強すぎて3日で救世主とか呼ばれてた上に妹まで来た件①


「というわけで、あたしのお兄ちゃんです!」

「はい。こいつの兄です」

「……どうも」


 青空の中をかたや竜に乗り、かたやパタパタと羽を動かして並走しながら。

 じゃじゃーん、と両手で示してご紹介したお兄ちゃんこと雨宮カノンさん19歳を、高遠くんはなぜだか警戒心多めなじとーっとした目で見つめていた。


「……さっきは、剣を向けたりしてすみませんでした。まさかあんな出会い頭に女の子の服を脱がせるだなんてド変態行為をする一級不審者が、よもや雨宮さんのお兄さんだとは一ミリも思わず……その、雰囲気もなんだか違ったし」

「こいつは父親似だからな」

「お兄ちゃんはお母さん似なんだよね〜」


 ねー、と傾げる首の角度はいっしょだけど、確かに色素薄めで全体的にふにゃふにゃしたあたしと、綺麗な黒髪黒目でキリッと精悍な顔立ちのお兄ちゃんとは小さいころから頭の出来も含めて似てない似てないと評判だった。

 教会に身を置いてるせいか神父さんみたいな見慣れない真っ黒な礼服を着ているけど、それも規律正しいお兄ちゃんの雰囲気にはよく似合っている。ぽやぽやしたあたしが聖女さんみたいな服を着てもこうはいかないだろう、着られてる感がすごいはずだ。

 それにしても、


「鳥図鑑が愛読書(ギフト)とは尖ってるねぇ。お兄ちゃんちっちゃい時から読書家だったもんね、やっぱり虫食べれるスキルとかあって便利?」

「ねぇしあっても食わねぇし選ばねぇよ一冊だけの愛読書に敢えてそれを。鳥じゃなくて天使な、お前あいかわらず脳みその出来がすこぶる残念だな? こんな世界で再会してお兄ちゃんは心底心配だよ」


 あたしはさっきからバッサバッサと顔の横でくすぐったく羽ばたいている、お兄ちゃんの背中から生えた四枚の大きな白い翼を見つめる。ほえー天使、それはまた教会にぴったりな?

 呆れ気味にこぼしたお兄ちゃんの言葉に、何か合点がいった様子で高遠くんが口を開いた。


「四枚の羽に、さっきの稲妻……『智天使(ケルビム)』と『回転する炎の剣』? とんでもない反則愛読書を選びましたね」

「へえ博識だねイケメン君、うちの妹に少し分けてあげてもらいたいぐらいだ。……ま、せっかくの異世界召喚だぜ? どうせならとことんチートを選ぶのが華ってものだろ」


 おお、どうやらまたしても愛読書当てゲームに正解したらしい。

 さっすが高遠くん、隠すのが面倒になってきたのでその調子であたしの方のタイトルもいい加減そろそろ当ててもらいたいものだね!


 ふむ、まさかまさかの再会だったけど、お兄ちゃんはあたしと違って昔から何でもできちゃう優秀な人なので勇者に選ばれてても何にも不思議じゃない。神さまもお目が高いね、あたしのマイナス分を補って余りあるくらいお兄ちゃんは有能なのだ! どやどや。


「なんかまたしょうもないことで胸張ってないか?」

「ていうかお兄ちゃん、いつの間に異世界召喚なんかされてたの? 出かけるなら書き置きぐらいしてった方がいいよ」

「いやコンビニ行くんじゃないんだから……」

「でもあたしが魔方陣を踏んだ日の朝にはおはようって言ったよね? 大学で呼び出されたの? 忙しいのに大変だねぇ」


 陽気に笑うあたしに、お兄ちゃんはなぜだか気まずそうに目を逸らす。あれ。

 そして何か腹をくくったように息を吐くと、静かに呟いた。


「アリア……はっきり言っておくが、世のまともな大学生や社会人はこんな無謀な詐欺紛いの異世界召喚には普通応じない。後先考えずにのこのこ釣られてくるのはせいぜい高校生(ガキ)か相当な暇人だけだ」

「ええ!? 突然のディス」

「……なるほど。つまりあなたは後者として呼ばれたということですか、お兄さん」

「その通り。いや待て、君にお兄さんとか呼ばれる筋合いはないんだけど?」


 げ、と露骨に嫌そうな半目で高遠くんを睨み、お兄ちゃんは空を見上げて目を細めた。


「どうやら語らなければならないっぽいな、オレがなぜここに来て、如何にして救世主と呼ばれるに至ったのかを……」

「聞いてもないのになんか語り出した……このフリーダム感、間違いなく雨宮さんと血を同じくするお兄さん」

「あー高遠くんまたどさくさに紛れてあたしのこと馬鹿にしてるでしょー?」


 むっと頬を膨らませながら、しかたなくお兄ちゃんの話に耳を傾ける。教会本部まではまだ遠いし、空の旅のBGMには、きっとちょうど良いだろう。


 お兄ちゃんはあたしと高遠くんを見て、前置きをした。「そもそも帰れない可能性の高い異世界モノってのはさ、元の世界が充実し過ぎてたら可哀想で成り立たないだろ。だからオレみたいなのの方が適格なんだよ、多分」などと不可解な一言で。



 * * * * * *



 それなりに順風満帆だった人生の中で、どうしようもない不幸が3つだけあった。


 1限から授業という()()で別にしなくても良い早起きの末にリビングで朝食にありついていると、二階から響いた悲鳴の後に、騒々しく駆け込んできた妹──雨宮アリアが、制服のリボンを涙目で留めながら、器用に手を合わせてからテーブルの上のトーストを手に取り叫んだ。


「お兄ちゃんおはよう、いただきます、行ってきます!」

「挨拶は一個にしろ。……お前、毎朝そんなに慌てなくても間に合うだろ? 家庭部に朝練でもあんのか?」

「家庭部()()ないけど……あぁもう始まっちゃう、またねっ、お兄ちゃんも大学行ってらっしゃい!」


 なぜか顔を赤くしながら前髪を整えつつ、必死さのわりにちゃっかり朝食は完食し、嵐のように登校して行った妹に緩慢に手を振る。まあ、行ってらっしゃるつもりはなく今日は一日部屋で勉強の予定だけど。

 

 ……どうしようもない不幸が3つ。

 1つは高校3年生の大学受験当日、合格確実という状態まで仕上げて向かった会場目前で凍った道に滑り派手に転倒して頭部強打、控え室で寝てる間に試験が終了したこと。2つ目は翌年迎えた受験当日、突然の高熱にぶっ倒れて病院で寝てる間に試験が終了したこと。そして3つ目は、妹がアホ過ぎてうっかりついた嘘をあっさり信じ、未だにオレのことを大学生だと信じ込んでることだ。


 なぜそんな愚かなことをしたかと問われれば返す言葉もないが、だけど多分、あれの兄として生まれてみれば誰だってそうなる。

 不器用なくせに指を傷だらけにしながら手作りのお守りなんて手渡してきて、前日には家を全焼させかけながら黒焦げのトンカツなんか揚げてきて、当日の朝には白い息を吐きながら見えなくなるまで玄関から健気に手を振って見送られた後に、がっかりさせるようなことを言えるかというと、少なくとも当時の自分には無理な話だった。

 あんなのの兄になってしまったら最後、あれの悲しむ顔を見るのは無理なように育ってしまうものなのだ、しょうもない嘘を吐いてでも。


 さて4月の浪人生なんてそこまで根詰める必要もない、ていうか不幸なことに判定はカンストしてるので無駄にギアを上げても疲れるだけだった。つまり絶賛暇していた、今日はバイトも入ってないし。


「つーかあいつ結局、なんで急にあんな身の丈に合わない高校に行きたがったんだろうな?」


 トーストをサクサク言わせながらぼんやりと思い返す、2年前の12月。突然頭を下げて「勉強を教えてくれ」と言い出した妹に最初は半信半疑だったけど、その有無を言わさぬ集中力と必死さには並々ならぬ志望動機がありそうだった。頑なに口を割ることはなかったけど……

 まああの時に「一緒に合格しようねっ」とか無邪気に言われたのもあんまり良くなかったな、人の言いづらさにブーストをかけるのが天才的に上手い奴だった。


 ──3つ年下の妹はこの4月、晴れて高校2年生になった。これは由々しき事態だ。なぜなら今年不幸に打ち勝ち合格しないと、あの妹と同級生になる可能性があるからだ。さすがにそれは死ねる。


 リビングの目立つ所に飾られた、古い家族写真をぼんやり眺める。小学校の入学式だ、ランドセルを背負ったオレの脚に、3歳のちっこいアリアが大泣きして抱きついている。曰く、「あーちゃんのおんぶがランドセルにとられた」というぶっ飛んだ理由だった。


 生まれた時からずっとああだったのだ、お兄ちゃんお兄ちゃんとひよこの如く後ろをついてきて頼られ、これでもかと尊敬の眼差しを向けられてきた。よってピンチだ、この状況は。これは『かっこいいお兄ちゃん』的沽券に関わる大問題なのだ!

 ……いや、どんどん引っ込みがつかなくなっただけとも言うけど。さすがにバレたら正直に打ち明けようと思ってるんだけど全く疑わないのだから恐れ入る。あんなに騙されやすくて大丈夫なんだろうか、いつかろくでもない面倒な男に引っかからないか恐ろしく心配だ。


 さて自室に戻り椅子の背もたれによっかかりながら、暇潰しにびっしり埋まった本棚をぼんやり眺める。

 その大半は昔、年相応の病に傾倒した頃に集めた漫画やら小説で、それに加えて参考書であぶれた分はこの前妹のスカスカ本棚に押しやったところだった。あの本は面白いけど毎年出るからかさばるのだ。


 つらっと異世界系のタイトルに目を滑らせながら、何かきっかけでもあれば良いんだけどな、と思う。そうそう、例えばここにある本に記されたような全然日常と離れた所──それこそ異世界にでも召喚されれば、「そういえばさ」なんて軽く切り出せそうだ。


「いや、さすがに都合のいい妄想か……。まあ暇だから社会貢献には興味あるけど、世界を救うとか?」


 なんてくだらない冗談に笑っていた時だった、部屋の床に魔法陣的なものが浮かんでいるのに気づいたのは。


「…………えぇ……」

『よくぞ手を挙げてくれた。歓迎しよう勇敢なる異世界の青年よ』

「言葉の綾ってやつでさぁ」


 そうして眩い光に包まれて、オレは部屋から、っていうかこの世界から、きれいさっぱり消えたのだ。


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