表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第6章 竜と祈りの教会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/104

洗礼④ あたしもむりです

 竜舎と言うからそれなりに巨大な施設を想像してたんだけど、案内されたのは町の外れにぽつんと建つ牛小屋のような建物だった。

 ここに来るまで乗って来た巨大な個体を基準にすると、竜の一匹すらとても入れそうにない狭さだ。そんなわけで高遠くんと二人で訝しがっていたんだけど、中に入ったらその疑問はぱちっと消えてしまった。


「たまご?」

「はい。竜は力を蓄えるために、必要な時以外はこのように変態し殻の内側で眠るのです」


 暗い竜舎の中で何やら作業を始めた神官長さんに代わり、聖女さんが解説してくれた。竜舎の中にはごろごろと、大きな卵が所狭しと並べられている。見るからに頑丈そうなそれは、まどろむようにほのかな淡い光を時折浮かべながら、ただ静かに鎮座していた。


「しかし大きいな、2メートルはあるか?」

「しかしおっきいね、オムレツ100人分はあるかな?」


 高遠くんから呆れ返った視線を向けられながら真剣に考察していると、あたしの邪な思考を感じ取ったのか卵の放つ光が警戒ランプみたいにチカチカ点滅し始めた。

 おお、どうやら本当に中に竜が眠ってるみたいだ。そうと分かればさすがに食べる気にはなれない、悔しいけど諦めよう……。


「ふふ。そうですね、平地の鳥の卵などと比べれば随分大きいのでしょうね。でもお二人がこれから乗る竜はまだ子供ですから。竜舎の中でも一番小さい子ですよ」

「左様、この程度の大きさなら私一人でも十分運……あ、すみません無理でした助けてください」


 竜舎の奥で一つの卵を転がそうと踏ん張っていた神官長さんからヘルプの声が上がり、慌てて手伝いに行く。薄く「17」と数字の刻まれたその卵を見ると、なるほど一番小さいと言うだけあって、あたしの方が背が高そうだった。それにしたって卵業界においては十分大きいと思うけど……。


 高遠くんと二人で大玉ころがし風にせっせと転がし竜舎の外まで出て、せり出た岩をストッパーにして止めると、聖女さんがぽんとその殻に触れ、祈るように目を閉じた。


「出番ですよ。起きなさい」


 直後、殻がひび割れ、卵の中から光が漏れ始める。

 そうして一際強く輝いたかと思うと、次の瞬間には、それはもう空に舞い上がっていた。


「17番、あなたに最初の仕事を命じます。この方達を乗せて西の砦に」

「キュッキューーー!! キュイキュイ!!」

「……あ、聞いてませんね、全く……」


 頭を抱える聖女さんと神官長のその頭上、青い空と太陽をバックに元気よくビュンビュンと飛び回るのは、確かに竜だった。トリケラトプスっぽいややまるっこいフォルムに、コウモリみたいな大きな翼を生やしている。でもとても小さい、本当に人二人を乗せるのがせいぜいといったサイズだ。そして、見るからにとんでもなく浮かれていた。


「キュッキュッキュ~、キュキュ~」

「こ、こらっ、はしゃぐのはやめなさい。とりあえず降りて、おすわり!」

「ギュッ」


 聖女さんが手を組んで祈りを捧げると、ピッチの外れた鼻歌を歌っていた竜はズシンと地面に不時着してひれ伏した。大きな目玉をうるうるさせて鼻をピスピス鳴らす姿はまるで、


「散歩を中断された子犬……」

「す、すみません、実戦は初めてなのでこの通り浮き足だっておりまして……」

「ギュイ~~」


 子竜は今すぐ飛び立ちたそうに翼をぱたぱたさせながらあたしをキラキラした目で見つめていた。う、うん、なんかとっても不安だけど、これしかいないなら乗せてもらうしかない。


「よ、よろしく……ええと、17番っていうのは名前なんですか?」

「いえ、この子はまだ名前がないのです。竜は実戦から帰還して初めて洗礼名を与えられるので」

「キュ~……」


 しゅーんと寂しげに子竜は瞼を下ろす。名前が無いのは不便だ、絶対この子は咄嗟に(げき)を飛ばさなければいけないような酷い飛び方しそうだし。


「それじゃあ、あだ名ってことで……かっこいい名前……竜之介(りゅうのすけ)とか?」

「キシャーーーーーーーーー!!」


 め、めっちゃ牙を剥かれて拒否られた! なぜに? 最高にクールだと自負していたのに!

 ギャオギャオ抗議する竜之介(仮)に、ぽんと手を打って高遠くんが言う。


「雌なんじゃない?」

「え、そういう? ……じゃ、じゃあ、ドラゴンだから……ドラ美ちゃん?」


 今度はキュイキュイと嬉しそうに頷かれた。お気に召したらしい。「神聖なる竜になんというあだ名を……」と神官長に嘆かれたけど、本人(?)の同意も得られたし仕方ない。


「よし、そうと決まれば早速出発しよう。雨宮さん、しっかり捕まっ……」

「あ、お待ちください。剣士どのは後ろに」


 勇ましく竜の背に跨ろうとした高遠くんを神官長が制す。そして促されるままあたしが先頭、後部座席に高遠くん、という順番で座らされた。子竜の背中はそんなに広々としたスペースもなく、自転車の二人乗り感に場違いにドキドキしてしまう。向かう先は死地っぽいですが。

 言われた通り手綱を握ってしまったけれど、さすがに首をかしげる。


「なんでこの席順なんですか?」

「後ろに安定性があった方が安全なのです。飛べば分か」


 言うより早くドラ美ちゃんは一際大きな咆哮を上げると、翼を力任せに振り乱して空に向かって急上昇した。当然その角度は急勾配、背中にいるあたしたちは


「うぎゃああああああああ」

「うわあああああああああ」


 悲鳴とともに思い切り後ろに反り返りながら、どうにか命懸けの空の旅に出発したのだった。




* * * * *




「ちょ、ちょっとドラ美ちゃん、安全運転!! 法定速度遵守!! 人命第一!!!」

「キュッキュッキュ~」


 あたしの指示など完全無視でドラ美ちゃんは岩山の合間をぎゅるんぎゅるんと上下左右に激しく揺れながら爆走する。と、と、飛ぶのヘッタクソだこの子竜!!!!


「高遠くん、落っこちたら死だよ、ちゃんとあたしに掴まって!」

「いや、掴まるってどこに……」


 竜の背の僅かな突起を掴みどうにかしがみついていた高遠くんは、あたしが振り返ると顔を真っ赤にして狼狽えていた。

 どこってそりゃあたしの……あ、あれ? どこに?


「と、とりあえず肩とかギャーーーー!?」


 舌を噛まなかったのが奇跡、と思うほど子竜は唐突に急降下を始め、あたしはどうにかあらゆる筋力系スキルを駆使して踏ん張って落下を免れた。

 しかし直後に認識した現状はそんな危機を遥かに凌駕していた。天変地異である。あたしは()()()()()()()()()()()()()()()()()に気付くと呼吸を止めた。


 う……うしろから だきつかれている!!?


「あわわわわわわわ」

「無理無理無理無理ほんと無理しぬ」

「あ、あたしもむりです!!」


 何しろ相手は自分より幾分背の高い男の子なのですっぽり包まれるようになってしまって非常によろしくない、高所の恐怖で遠慮なくぎゅーってされてるところも非常にまずい……お、男の子の体ってこんなに大きいんだ?? あ、やばい、心肺停止って何分くらいなら大丈夫? そういう世界記録(スキル)ある??


 そんな死にかけのあたしに構わず子竜は元気いっぱいに空を駆け回り、それと比例して高遠くんが腕に込める力も強くなり、それと反比例してあたしの余命がとんでもない早さですり減っていた。まずい、ここであたしが死んだら高遠くんも落っこちて死んでしまう、か、かくなる上は────


「は、は、はしゃぐな落ち着け速度をおとせーー!!」


 死に物狂いで回転式拳銃を腰から引き抜くと、竜の背骨に銃口を突きつける。

 ぱた、と扇風機みたいにぐるんぐるん回る勢いだった翼が勢いを殺し、竜の歓声が止んだ。


「ピャ…………」

「よーしよしよし、そのままゆっくり翼を上下して……なるべく平行を保ったまま揺れを最小限に抑えて目的地を目指すんだ……」

「ピィ…………」


 震えながらも指示通りぱたぱたと翼を動かし、ようやくまともに飛行を始めた竜に安堵の息を吐く。……あれ、でもなんか、この絵面は勇者というよりハイジャック犯──?


 そんな命がけの大騒ぎをしているうちに、なんだかんだ目的の西の砦にたどり着いていたらしい。

 眼下に広がる岩肌、そこに点々と転がる四つの塊──黒焦げの大きな鳥のような魔獣の死骸を見下ろして、あたしは息を飲んだ。


 そしてそれよりも何よりも、目の前の空に広がる景色の突飛さに面食らい、片思い相手に抱きつかれてる衝撃も忘れて、ただただ呆然として前を見つめるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ