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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第5章 雪と魔女の村

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エピローグ


 ぺたぺたと、自分より小さな白い指が左手を満遍なく触れて回る。

 歯医者の診察台の上のような、逃げ場のない緊張感に肩を強張らせつつ、あたしは真剣な顔をしたジゼルさんが下す診断を待った。


「……ふむ。まあ良いでしょう、再び踏み抜かれるようなことでも無い限りは使い物になりますわ。出発を許可します」

「やったー!」


 お墨付きをもらった左手でもって早速ガッツポーズして飛び上がると、調子に乗るなと思いきりはたかれた。めっっちゃ痛い……やはりこの魔女物理攻撃力が……。






 祭りの日から更に数日。

 高遠くんの監……見守りの元、おとなしく療養させていた甲斐あって、負傷した左手はどうにか支障なく動くまでに回復させることができた。


 後ろで保護者のごとく見守っていたみんなからもほっと安堵の息が漏れる。付き合わせて待っててもらって申し訳ない。この分も頑張って戦って貢献しなければ、とさっそく両の手をジゼルさんに差し出し小首を傾げる。


「それでは約束通り、没収されていた武器ーズを返してくださいっ」

「……なんだかまたすぐに大怪我しそうで心底心配なのですけれど……。弟子、持って参りなさい」


 パチンとジゼルさんが指を鳴らすと、ふよふよと宙に浮く渋谷先輩が広間を飛んで行き、刀二本と回転式拳銃と洋弓を持って戻ってきてくれた。あれ、なんか更に増えたな……。


「この螢火、ほんとに貰っちゃって良いんですか?」

「それはスオウの置いて行った最後の作品です。使う機会も無く放置されていたものですから……まあ貴女が振るうのであれば彼も文句は言わないでしょう」


 おお、さすが先生! 良い仕事しますなー、と、腰に帯刀しながら頷く。……装備重くなってきたなぁ……。


「螢火は赤い刀身を見ての通り、魔石を含んだ特殊な刀です。特性は不死斬り。ただし、不死以外には紙も斬れない(ナマクラ)と化しますので、使い所を間違えないようになさい」


 ふーん、魔石を……って、そんな大事なものを使って!?


「じ、ジゼルさん、これがあればもうちょっと長生きが……!?」

「わたくしには不要です。もう十分に生きましたから、惰性で生きるのは御免ですわ」


 あと数年の命、という言葉を思い出す。なんだか納得しきれないものを感じながら、あたしは床に視線を落とした。


「さて。弟子、あなたも行くのでしょう? 短い間でしたが良い働きでした。魔女の門下として、年長者として、彼らをしっかりと導くように」

「……はい、師匠。あの、本当に……」

「礼は要りません。結局わたくしは、貴女に請われた戦う術を授けることは出来なかったわけですから」


 目を伏せて呟くジゼルさんに、渋谷先輩は眉を下げて首を横に振る。


「貴女が一人でこの先を行くのなら、わたくしは何としてでも貴女に攻撃のための力を与えなければと考えていました……ですが、仲間がいるなら話は別です。仲間がいるなら存分にその力に甘えなさい。そして貴女は貴女の出来ることを精一杯尽くしてそれに応えなさい。それが共に行くという事なのですから」


 わたくしも昔、そうやって旅をしたのですよ、と、ジゼルさんは穏やかに微笑んだ。

 渋谷先輩はあたし、マヤちゃん、太一郎君、それから高遠くんを不安げに見回して……全員がどんな顔してるのか分かると、「ありがとう」と吹き出すように笑った。


「北の最前線を目指すのであれば、次はいよいよ王都の一つ手前……貴女の目的の地でもありますわね」


 ジゼルさんの言葉に、渋谷先輩は表情を険しくして深く頷く。


「先輩、目的って?」

「……私がこの異世界召喚に応じたのは、この世界を救うことに賛同したからだけじゃ無い。この召喚には何か裏がある。それを突き止めるためだよ」


 渋谷先輩は顔を上げると、くるりとあたしたちを振り返り、両手を広げて切々と説く。


「わざわざ別の世界の人間を巻き込むほどに戦況が劣勢なら、とっくに滅んでいるのではないか? そもそも魔王とは何か? 聞いてもあの神様はぐらかすばっかりだった。……それに、もう私の他に何人も転移させられたって聞いたから。あんな詐欺みたいな条件を受け入れちゃう人、きっと馬鹿みたいに正義感が強くて、夢見がちで、自分の力を過信してるような子達だと思ったから。行って助けてあげないとと思って承諾したんだよ」

「………………」

「………………」

「………………」


 カーッと顔を真っ赤にして、居た堪れなそうに俯く高遠くん、マヤちゃん、太一郎君だった。図星なのか……。


「それに、どうして『代償』なんて厄介なものがあるのかも、きっと何か理由がある。それもこれも全部、本人に問い質せば口を割らない訳には行かないだろうしね」

「本人?」


 渋谷先輩の言葉に、思わず口を開ける。あたし達をこの世界に呼び出し、代償付きの能力を与えた本人と言えば……


「そう、神様。次に行く街でその人に会える、そうですよね? 師匠」


 再び振り返った渋谷先輩に、ジゼルさんはこくりと頷く。


「ええ。あれを街と言って良いのかは諸説あるところですが……次なる目的地、『教会』本部。荘厳なる大聖堂を抱く()の地にて、貴女の望む神との邂逅は成されるでしょう」

「あれ、でもたしか神さまって、この世界には干渉できないんじゃ……?」

「その通り。神話の時代をとうの昔に終え、既に死に体の神はこの世界に手出しすることは禁じられています。……ただし、話をするぐらいなら可能です。教会の聖女、その祈りの力を用いれば、大聖堂内の特定の場、短時間に限りますが神と相見えることは許される」


 聖女……記憶を引っ張り出す中で思い浮かぶ、真っ白な空間で間抜けな垂れ幕をせっせと外す修道女服の女の子。あの聖女さんも次の街にいるのかぁ。いよいよクライマックス感が高まってきてごくりと唾を飲むあたし達に、ジゼルさんは不安を薙ぎ払う様に高笑いをした。


「何を辛気臭い顔をしているのです? 子供は子供らしく新天地に胸でも踊らせていなさいな。……おそらく、教会にはあなた方のお仲間も待っていることでしょう。楽しみにしてなさい」


 お仲間……おー、新しい勇者さん!ついに7人目かあ、どんな人だろう。


「その者の名は王都にも知れ渡っています。その能力は、わたくしの見立てではあなた方の中でも最強……『救世主』の呼び声も高い、既に最前線の主力と目されている実力者ですわ」


 最強、という単語にちょっとだけ高遠くんが目を細める。高遠くんよりも強いって、山の一つや二つ吹き飛ばしちゃうんじゃあ……。


「まあ人格の方は、なんとも言えませんけれど」


 なんだか気になる情報を付け加え、パチンと手を打って「さて」とジゼルさんは口の端を吊り上げる。


「旅立ちの日に長居は無用……そろそろ送り出すべき頃合いですが。ここに住まわせた宿泊費、というと下世話ですけど、わたくしのお願いを一つ聞いてくださらない?」


 ジゼルさんの問いに、あたしたちは相談する余地もなく頷いた。この街にいた間ずっと、お世話になりまくりだった。お願い一つじゃ足りないくらいだ。ジゼルさんはにんまりと笑うと、ぴっと高遠くんと太一郎君を指差す。


「殿方二人は、すみませんが少し後ろを向いていてくださいます?」

「え……どうしてですか?」

「そうだそうだ、中立の魔女が差別は良くないっすよー」


 抗議する男の子二人にジゼルさんはふむ、と視線を落として、残念そうに首を振る。


「……今から服を脱ぐので、紳士は目を背けるべきかと思ったのですが。まあ貴方方が気になさらないのなら別に良いのでしょうか」


 信じられない反応速度で後ろを向いた高遠くんと太一郎君にくすりと微笑むと、ジゼルさんは黒いドレスの肩紐を外してゆっくりと生地を胸の下まで下ろした。


「……………」


 そこに現れたものに……ううん、現れなかったものに、あたしとマヤちゃん、渋谷先輩は目を瞬く。


「…………心臓が」


 心臓がなかった。

 と言うか、それがあるべきはずの位置に、黒くまあるい穴が空いて、反対側の壁を覗かせている。雪の様な白い肌、左胸の辺りにぽっかりと生じた隙間には、仄かに緑色の光が浮かんでは消えている。


「わたくしは魔石を心臓に埋め込んでおりました……これを奪ったのは離反した元弟子です。あの子は最後にわたくしとこの館に魔法をかけました。失われた心臓の機能を、この館にいる限りは魔力で補うことが出来る……全く恐ろしい才能です」


 ドレスを整え肌を隠すと、もう良いですわよと背を向ける二人に声をかけ、ジゼルさんは胸に手を当てた。


「……魔女の心臓は膨大な魔力の源。それを持つあの子もまた強大なる魔法の使い手と成り果てているでしょう。わたくしのお願いとは、あの子からわたくしの心臓を取り戻すことです。いずれあなた方はあの子と必ず対峙する。どうか打ち破り、目を覚まさせてあげて欲しいのです」


 戸惑いながら、それぞれにこくりと頷く。……お弟子さん、ハイネさんだっけ、なんだか強そうだけど、ジゼルさんのお願いなら頑張らない訳にはいかない。それに、


「その心臓が戻れば、ジゼルさんはこの館から外に出られるんですよね?」

「いいえ、取り戻した心臓は要りません。あなた方に差し上げますわ。役に立つアイテムですからどうぞご自由に」


 え、と絶句するあたしに、ジゼルさんはクックと笑う。


「……だってこの館から外に出たら、わたくしみたいに規格外に強い魔女は、戦場に出ない訳にはいかないでしょう? せっかく囚われの身を口実に、王立騎士団からも魔王軍からも誘いを断って隠居できているというのに、意味がないじゃありませんか。……弟子に会ったら伝えておいてくださいな、わたくしはすこぶる元気だと」


 なんだか腑に落ちないけれど、そんな風に嬉しそうに笑われては何も言えない。あたしは必ず、と頷いた。


「……でもジゼルさん、寂しくないです? また一人になって……」

「あら、あなたがくれたぬいぐるみ、なかなか気に入ってましてよ。それに……実は新しく、ペットを飼おうかと思っているのです」


 ジゼルさんは広間のネコの肖像画の横に飾られた、祭りの景品のぬいぐるみを眺めつつ、パチンと指を鳴らした。ペット?

 そしてテーブルの上にぼてっと落下したその丸い生命体に、あたしは目を見開き、高遠くんとマヤちゃんは「げっ」と眉を吊り上げる。


 もふもふの茶色い毛玉──大きな尻尾をジゼルさんに鷲掴みにされて吊るされ、短い手足をジタバタさせるその姿。


「可愛いでしょう。今朝方庭先をうろついているところを捕獲したのです。芸もできるんですのよ、たまに変身したりして。見てくださいこのまるまるとしたフォルム、見るからにジューシィ……あ、いえ、しばらくは愛玩用として楽しめそうでしょう?」

「は、離せーーーー! くそー、やっと教会の手前まで来たと思ったらとんでもない奴に捕まってしまった……まだアリア先輩に追いついてないのにたぬき汁にされてたまるかっ、俺様は必ずや生き延びて魔を打ち払う不屈の翼……!」

「は、晴春君!?」


 その中二全開の台詞、まさしく真白晴春君!!

 あたしの叫びにたぬきはハッと顔を上げ、黒いお目目に涙をうるうると溜めていっそう激しく暴れる。


「あ、アリア先輩ー! 会いたかったっスー! でもめっちゃ武器増えてるー! 怖えー!」

「あら、なんですのこの子、もしかして小娘が飼い主でしたの? まあ……」


 残念、と眉を下げて、ジゼルさんが手を離すと、晴春君は一目散に床をてってと駆けてあたしの胸に飛び込んだ。


「うう、死ぬとこだったっスよー」

「よーしよしよしよし、頑張ったねぇ」


 動物研究家っぽく頭を撫で回してあげていると、いつの間にか横にいた高遠くんがその尻尾をむんずと掴んで取り上げる。


「ギャーーー!?」

「やあ久しぶり真白君。ずいぶん遅かったね、野生に還ったのかと思ったよ」

「あ、相変わらずっスねシンヤ先輩……。ん? ていうかなんスかその余裕を感じる顔、まさかもう抜け駆けを!?」

「さあどうかな」

「ぐぬぬーーー!!」


 大騒ぎする二人を尻目に、かつて晴春君にこてんぱんに負けているマヤちゃんは目をギラつかせ、渋谷先輩と太一郎君は「誰?」「たぬきですね」とほのぼのとした会話を繰り広げている。

 な、なんかまた騒がしくなりそうな予感……。


「はあ、本当に残念ですわ。もう名前もつけてしまったのに……」

「わりとノリノリだったんですね……ちなみになんて名前なんです?」


 しょんぼりするジゼルさんに呆れつつ尋ねると、彼女はぴっと壁に掛けられた肖像画、かつて飼っていたというネコ的な生き物を指差す。


「あれにちなもうと思いまして。ああ、サリ2世、元から空いた胸にさらに穴が空きそうですわ……」


 はた、と動きを止めたのはあたしと高遠くんだった。


「サリ?」

「ええ、あの絵に描かれたペットの名前です。元弟子が名付けたんですのよ。あの子、随分可愛がって世話していたから、死んだ時は本当に悲しそうでしたわ……」


 懐かしい目をして肖像画を眺めるジゼルさんに、二人で顔を見合わせて閉口する。

 思い返されるのは「悪い悪い」と全く悪気なさそうに笑う声、冷静に考えると規格外だったかもしれない魔法の数々──


「……サリさん、偽名だったのかー……」

「だから怪しいと思ってたんだ、あのエセ高位魔術師」


 チッと舌打ちしてなぜだかあたしのおでこのあたりを見つめると、高遠くんは聖剣の柄を撫でる。フッフと笑う口元は悪役のそれで、あたしはまた一波乱ありそうな予感に溜息をつくのだった。


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