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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第1章 剣と記録とはじまりの町

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異端審問回


 とととりあえずその危険極まりない魔剣を渡してもらおうか、という騎士さんの震え気味の訴えに素直に応じ、高遠くんは聖剣を没収された。


 そして両手を縄で縛られた上、背後からばっちり抜き身の細剣をギラつかせる女騎士さんに威圧されながら、あたし達二人は連行されたのだ。魔王の手先(仮)として。



 連れて行かれたのは町役場、その奥にある会議室のような手狭な部屋だった。


 あたし達を正面に立たせると、男の騎士さんは姿勢良く椅子に腰掛け、重たい兜を外す。

 中は酸素が薄いのだろう、長く息を吐きながらその人は瞼を閉じ──開けた目で、射抜くように厳しくこちらを見据えた。


 堅苦しいしゃべり方をする割に、あまり年が変わらなそうで驚いた。大学生ぐらいかもしれない。

 銀の髪が汗で少し額に張り付き、その下で鬱陶しげに細められた鋭い瞳は宝石のようにな深い紫色。端正な顔立ちはどこか気品が感じられて、エリュシカが言うように都会から来た憧れの存在というのも頷けた。


 それを待って、背後に控えていた女騎士さんも遅れて兜を脱ぐ。こちらは白い肌に汗ひとつ浮かべず、艶のある水色の長い髪を優雅になびかせていた。

 クール系美人だ、あたしと真逆すぎてぶつかったら対消滅しそうだなぁと能天気なことを武器で脅されながら思う。


「………あの。攻撃した僕は分かりますが、二人とも拘束する必要があるんですか? 雨宮さんの縄だけでも解いてあげてくれませんか」

「そうだそうだ! あたしは自由にすると暴れる可能性が否めないけど高遠くんはちゃんと大人しくできるもん、高遠くんだけは解放してあげてよ! ていうか縄で縛ったりして痕が残ったらちゃんと慰謝料払ってくれるんですか!?」

「あれ?」

「ん?」

「息が合ってるのか合ってないのかよく分からん二人だな……」


 どちらにせよ却下、とばっさり要求を切り捨てて、騎士さんは威圧感のある視線であたし達を睨んで口を開いた。


「さて、ここに赴任して最初の仕事が子供の尋問というのも嘆くべき話だが……騎士たるもの全力で取り組もう。まずは名乗ってもらおうか」

「嫌疑の段階でしょう。人に名前を聞く前にまず自分が名乗るべきかと思いますが」


 武器と身体の自由を奪われてもさして気にした様子もない高遠くんに、騎士さんはムッとしつつ、しかしその主張には異論はないようで素直に頷く。


「……別に構わん。俺は王立騎士団首都第一部隊所属の騎士、名はギュスターヴ。まあ好きに呼ぶといい」

「ギュス太さん」

「くっ……なぜ好きに呼べなどと俺は……!」


 我ながら呼びやすい良いあだ名を付けたと思うあたしに対し、ギュスタさんは頭を抱えて激しく苦悩するのだった。自分の発言には責任を持たなければいけないから仕方ないね。


「同部隊所属、ギュスターヴ様の補佐をしておりますルードレイクと申します。以後お見知り置きを」

「そんないつでも突き刺せるように細剣構えながらお見知り置きとか言われても……」


 背後から淡々と告げられる女騎士さんの自己紹介に冷や汗を流しつつ、あたし達も礼儀に応える。


「高遠深也。彼女は………」

「えっと、雨宮アリアです。よろしくお願いします」

「 ……変わった名だな。ますます怪しい」


 ギュスタさんはものすごーく疑い深い半目であたし達を眺め、フンとふんぞり返って偉そうに告げる。


「ではタカトオとアマミヤとやら、単刀直入に聞こう。君達は何者だ? 魔族ではないというのならその証拠を示せ」


 あたしはごくりと唾を飲み込んだ。す、すごい圧だ、適当なこと言ったら即刻息の根止められる!後ろのルードレイクさんに!


 だけど高遠くんは少しも怯まず、毅然として真っ正面からその質問に解答した。


「信じてもらえないなら仕方ありませんが、さっき言った通り異世界から魔王を倒すために来た者です。転移してきたのでなければ、森が封鎖された後にこの町に現れたことに説明が付かないでしょう。それと根拠としては乏しいですが、雨宮さんの服はこの世界ではおそらくどこにも見られないものかと。魔族でない証拠はありません……と言うのも、僕達はそれがどんなものなのかまだ知らないので。質問に質問で返すのは恐縮ですけど、では魔族である証拠とはどんなものでしょうか?」


 なるほど、魔族じゃないと証明できなくても、魔族であることが証明できなければ、それは魔族じゃないという証明になる。よく分かんないけど多分数学的思考、さすが高遠くん!

 ギュスタさんはふむ、と口元を押さえ、ややあってから告げた。


「なるほど。まあ言いたいことは分かるが、どのみち奴らはいくらでも幻術で小細工は出来るからな。信頼には足らん。しかし魔族である証拠か……我々も、奴らについては未だ分からないことが多いんだ。対峙した者はほぼ殺されているからな。確かな情報があるとすれば、異常に再生力が高く首を落としても死なないらしいということだが」

「…………」


 ちら、と視線を向けられて絶句する。試せってか!?

 ちっとも役に立たないゴミ情報を落としてくれるギュスタさんに二人で失望のまなざしを向けていると、背後のルードさんが「私からも一つよろしいですか」と呟いた。


「許可する。なんだルード、まだ刎ねなくていいぞ。それは最終手段だろう」

「分かっていますよ。私が聞きたいのは……少年、今まで持ち上げた中で最も重い物の重量は?」

「……?」

「はっ!?」


 意味が分からなそうに訝しがる高遠くんの横で、あたしは一人あわわと大いに慌てていた。意味が分かりすぎて。


「森に転がっていた魔獣の亡骸を見るに、大半の致命傷は剣によるものでした。しかしいくつかはまるで天から振ってきたのかと疑う程に深く石で穿たれた痕が見られ、吹き飛ばされたわけでも無く人為的に移動させられただろう痕跡が見られました」

「人為的な移動? なぜそう判断できる」

「脇腹に強い衝撃を受けバランスを崩した豚が、その傷口を下にして倒れているのであれば些か不自然でしょう。それに疑わしき豚のそばには、例外無く必ず、実が熟して地に落ちかけている木がありました」

「……………」

「……………」

「邪魔だったんでしょうね、収穫の」


 果実を主食にする投石の魔獣………?と真面目に考察する高遠くんを横目に、顔を真っ赤にしながら悔やむ。

 しまった!ついスキルの代償で小腹が空いた時におやつをむしゃむしゃしていたばっかりに……!


 あれ、そう言えばそろそろ陽も昇りきったしお昼時なんじゃ? まずい、頭が回らなくなってきた。

 騎士団に労働基準法とかないのかな、ちゃんとお昼休憩取ってもらわないともうすぐ……


「ただし地面には引きずったような跡は見受けられませんでした。つまり()()()()()()()()と推察されます」

「持ち上げるって……あの魔獣、ものによっては200kg近くあるだろう、その少年も鍛えてはいるようだがさすがに無理じゃないか?」

「はい、普通なら。ですが魔族の取る行動とはどうも思えません、何しろ──」

「高遠くん、200kgの豚ってトンカツ何枚分??」

「おい、何か始まったぞ」

「厚切り豚ロース一枚を150gとした場合、単純計算で約1333枚分かな。ただしもちろん全ての部位がロースではないことを考慮すれば、より正確には……いや待って雨宮さん、なぜトンカツに換算を?」

「食べ放題だぁ~」

「揚げ物の食べすぎは体に良くないよ雨宮さん」

「トンカツとは何だ……? もしやそこに彼らの異能の秘密が? ええい言え、詳しく教えろ!」

「まず豚肉を常温に戻し粉をまぶしたら卵にからめてパン粉を──」

「うむ」

「ちょっと、調書に記録しないで下さいよ何でそう馬鹿真面目なんですか!?」


 意気揚々とペン先をインクに浸してトンカツのレシピを記録し始めたギュスタさんに、珍しくルードさんもキレ気味に声を荒げていた。お仕事って大変だ。

 そして高遠くんは空腹で急速に元気がなくなってきた半泣きのあたしをひどく心配そうに見下ろすと、キリッと格好良くギュスタさんを見据えて進言してくれた。


「すみません、彼女に食事を取らせてもらえませんか? とても大事なことなので」

「高遠くん、手を縛られてたらごはんが食べられないよぉ……」

「大丈夫だよ雨宮さん、それは責任を持ってそこのギュスターヴさんが食べさせてくれるから。いいですよね?」

「よくないが!?」

「……………魔族についてもう一つ有益な情報が。あれらには食欲というものが無いそうです。よって空腹はあり得ません。これが確たる証拠というのも情けない話ですが」


 取調室にあたしのお腹の音が高らかに響き、ハッとした表情でギュスタさんが真剣に筆を走らせた。書くな調書に人の腹の()を!


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