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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第5章 雪と魔女の村

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月光③ 魔女のキッチン


 勝負はシンプル、美味しかった方が勝ち。

 広々したキッチンと、館に貯蔵されたなぜかやたらに豊富な食材を好きに使って、それぞれ自信のある料理を一品作る。

 それを4人の審査員──大魔女ジゼル、高遠深也、花木マヤ、田野上太一郎が食べ、各々より優れていると感じた方に一票投じ、総獲得票が多い方を勝者とする。


 力こそすべて、勝った方が正義、わたくしは勝者の望みを従順に叶えましょう。

 ルールを説明し終えるとジゼルさんは気の早いことに上質そうなシルクの前掛けを装備して、両手にナイフとフォークを構えて椅子の上で踏ん反り返っていた。


 この人単にお腹が空いていただけでは……?

 遊ばれてる感をひしひしと感じつつ、来たる勝負の時を前に、あたしたち4人はキッチンのドアの前で輪になりひそひそと作戦会議をしていた。


「料理とは予想外だったな……どうして徒競走とか重量挙げとか殴り合いとかにしてくれなかったんだ?」


 真面目な顔で大真面目に思案する高遠くんを前に死んでしまいたくなった。いやよくあたしのこと見て理解してくれてるよね、今まで一緒に冒険してきた中だとそれがあたしの勝ち確定ジャンルだよね……是非も無し……。


「しかし渋谷先輩の料理かぁ。ああいうクール系美人って大抵のことは人並み以上にそつなくこなしそうだけど、そこんとこどうなの深くん?」

「その呼び方金輪際やめて。真姫菜さんちは両親が仕事で不在がちだったのもあって、小学生の時点で一般的な家庭料理は大人と遜色ないレベルでマスターしてたな。味も、まあ美味しかったかな……おかわりするくらいには」


 た、食べたんだ高遠くん、先輩の手料理……!

 なんてこった既に胃袋を掴まれていた。あたしも黒焦げの鹿肉(ジビエ)を食べさせて胃袋を破壊しかけたことはありましたが……。


 ──や、やっぱりこの勝負、ただの刀狩り(?)ってだけじゃない……! 

 渋谷先輩は同じ勇者だし、あたしのことを助けてくれたし、いい人だって信じたいけど……でも高遠くんのこと諦めるように言ったり、あたしが旅することに反対っぽいのは、先輩も高遠君のことが好きだからなのでは……!? ていうか運命的に再会した年上の美人なお姉さん系幼なじみって満を持して登場した正ヒロイン枠なのでは!! 少なくとも勝手に着いてきた会話したこともないやたらに物理攻撃力に秀でたクラスメイトよりは確実に!!

 もしそうだとしたらこの戦いは、恋を賭けた一世一代のバトルでもあるのだ。なおさら絶対に負けられない!


「でもいいのかしら? 審査員4人中3人がアリアちゃんの味方じゃ、渋谷先輩には悪いけどこっちの勝ちは最初から決まってるじゃない」

「だよな。どんなに味がアレでもアリアちゃんに票を入れれば良いんだろ? どんなに味がアレでも」

「ねえなんで二回言ったの??」


 気合い入れてる目の前で堂々と出来レースの話をされてしまって涙も出ない。日頃の行いって大事なんだなあ……。


「そういうわけだから心配しないでねアリアちゃん。気負わず落ち着いて頑張って」

「う、うん」


 マヤちゃんはあたしの髪を高い位置で一つに括ってくれた後、ぽんと両肩を叩いて言った。


「生肉は?」

「死ぬからちゃんと焼け!」

「よし」


 鉄の掟を確認した後、みんなに送り出されあたしは運命の戦場、魔女のキッチンへと赴くのだった────




 * * * * * *




「はい、終了。これより審査に移りますわ、審査員はご着席ください」


 カンカンカーン、と高らかに試合終了の鐘が鳴り、あたしと渋谷先輩は同時に手を止めた。

 …………よ、よし、ひとまず火事とか洪水とか流血とか骨折とかもなく無事に料理を終えられたっ!


 あたしは湧き上がる煙の中で小さく拳を握ると、達成感を胸に審査員席を振り返った。全員にものすごい反応速度で目を逸らされた。なんでそんな怯えきった目でガタガタ震えて……? 爆発すら起きてないのに。

 まあ味は分かんないけど料理に大事なのはハートだって誰かが言ってたし、気持ちだけはしっかり込めたからきっと大丈夫!

 待っててね残雪、必ず直してあげるからね──!


「まずは弟子。持って参りなさい」

「はい師匠」


 長い髪をシニョンに纏め、エプロンを身に着けた見目麗しい渋谷先輩が、審査員各位の目の前に静かにお皿を並べていく。

 温かく上る湯気と食欲をそそるブラウンソースの匂いだけで、あたしはごくりと唾を飲み込んでしまった。お、美味しそうなビーフシチューだ!


「では弟子、この料理を選んだ理由を説明なさい」

「えっ、そういうのもアリなんですか?」

「一流のシェフたるもの人に出す料理には信念を持つべきです。審査対象はあくまで料理そのものですから率直に述べて構いませんわ」


 ま、まずい、よく考えないで決めてしまった……。

 あたしは渋谷先輩があんまり高尚なことを言いませんようにと祈りながら彼女の言葉を待った。

 問われた先輩は珍しくきょとんとした顔をして、「大したことは」と前置きしてから、少しためらいがちに口を開く。


「えっと……私にとって料理って、基本的に一人で作って食べてお腹を満たすための手段だったから。誰かのために作るなんて、それこそ子供のころ深くんに食べてもらった以来で……何を作ればいいのかよく分からなくて。でもここは寒い街だし、今日はみんな登山や雪かきを頑張ってお腹が空いてると思ったので。体があったまってたくさん食べられるものがいいかなって……その、作り過ぎてしまったので、もしこの勝負の後もお腹に余裕があったら、ぜひおかわりもどうぞ」


 言いながら、恥ずかしそうに小首を傾げた照れ笑いを浮かべられて、あたしは胸を押さえて目眩を覚えた。す、すごい、これが真のヒロインに相応わしい貫禄……!

 思わず女子ながらきゅんきゅんしてしまった。挑戦者のひとには悪いけどもう先輩が優勝で良いのでは? ってダメだ挑戦者あたしだー!


 マヤちゃんと太一郎君も同じようなことを思ったらしく、感動に涙を浮かべながらハッとして頬を殴っていた。そんな悪魔に魂を売りますみたいな痛切な顔しなくても……。

 二人は仲良く手を合わせていただきますのあいさつをしてから、スプーンでほんのり湯気の立つシチューをすくい取る。


「い、いいえ、重要なのは味だわ……」

「そうそう、見た目は申し分ないけど、食べてみたらあんまりってことも………」


 そう言いながら恐る恐る同時にぱくりと口に含み、もぐもぐと咀嚼すると……二人はぱあっと目を輝かせて叫んだ。


「お、美味しい……!! 口から染み入る優しさっ……!」

「まさに野菜とお肉の食道凱旋パレードや……!!」


 そうしてあとはひたすら無言で手を動かし、じっくりと口に広がる温かさと味わいを堪能し始めてしまった。ジゼルさんも「まあわたくしの弟子ですからこれぐらいは当然ですわね」と、ほっぺをリスのようにしてもぐもぐしながら満足気に頷いている。

 そんな審査員ズを横目で眺めていた高遠くんも、複雑そうな表情でシチューを口に運び……それから、ぐぬぬと悔し気に唸っていた。


「う……相変わらずムカつくぐらい非の打ち所のない味……。まあ小学生の時点で美味しかったものが高校生にもなればもっと美味しいのは無理もないのか……? いや、だけど勝負はまだ」

「うわあすっごくおいしいです渋谷先輩てんさーい!」

「なんで雨宮さんも食べてるの!?」


 あんまりにも美味しそうだったのでどさくさに紛れて審査員席に座ってもぐもぐご馳走になってたら、まあ当然バレて高遠くんにめちゃくちゃ怒られた。だっていっぱいあるって言うから……。


「雨宮さん勝つ気ある!?」


 申し訳ないことにあたしよりも真摯になってくれる高遠くんなのだった。


 とろとろの野菜とお肉、優しい風味に心もお腹も大満足したあたしは幸せいっぱいにため息をついた。はぁー美味しかった、今日は一日大変だったけど頑張ってよかったなあ。さ、寝よう寝よう……


「どこへ行くのです、あなたの番ですわよ」

「ハッ!?」


 普通に帰ろうとしてたら普通に注意されて一気に現実に引き戻された。

 あ、危ない危ない、あまりにも美味しくてついついただのお食事会と錯覚してしまった!


 あたしは慌ててまじめっぽい表情を引っぱり出すと、ふぅと息を吐いてから──運命の手料理が乗った皿を取り、テーブルに並べ始めるのだった。


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