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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第5章 雪と魔女の村

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招かれざる騒がしい客


「……まあ、さすがは魔女の本拠地って感じだな。見えない壁? 結界とでも言うべきかね」

「もっと警戒するべきたったわね、……いえ、警戒はしてたんだけど仲間内の暴走にまで警戒心が回りきってなかったと言うか、飼い主の人に任せとけばいいかなって油断してたと言うか……」

「暴走って何の? ところでもう鼻血ついてない?」

「ついてないついてない。……素材は何なのかしら、もし魔法で構築されてるとなると解除のしようがないわよね、私たちの愛読書にはそういう類のスキルはないし」

「ね。高さはどうだろうな、巨大化したマヤちゃんより低ければ乗り越えられそうだけど」

「いやぁすっごく固かったよ、でもツルツルした感じだったから登るには取っ掛かりがなくて危ないかも? ねえほんとにもうついてない?」

「だーーうるさいなその語尾!ついてる!もういっそついてるよべったりと!」

「やだー!! やっぱり!!」

「太一郎の馬鹿もっとうるさくなったじゃない! アリアちゃん大丈夫よ、ちゃんと綺麗に拭いたからもう残ってないわ!」

「ほんとに? みんなの心にも残ってない?」


 言った瞬間鮮明に思い出したのか吹き出したマヤちゃんと太一郎君にあたしはキーキー憤慨したけど、「興奮するとまた鼻血出るぞ」の一声で沈静化した。


 ああ、両鼻同時流血(凍結)とか片思いの相手に見せたくない光景ランキング堂々一位すぎる……!

 絶望に打ちひしがれるあたしの前でマヤちゃんと太一郎君は真面目に話し合いを続行していた。選ばれし勇者とは多少の雑音には惑わされず使命を遂行するものなのである。まがい物のあたしとは違いますね。


「しかし用心深いとは聞いてたけど近づかせてもくれないとは相当ね。どんな人なのかしら」

「やっぱ一旦村に戻って情報集めるかぁ? 魔女も村の人とはそこそこ交流ある感じだったし……。なあ高遠君」


 太一郎君が声を張ると、見えない壁の前で一人調査をしていた高遠くんは振り返り、軽く首を傾ける。


「何?」

「なんか分かったかー? 当てもないならとりあえず寒いから戻ろうぜ」


 しかし太一郎君の呼びかけに高遠くんは静かに首を振り、拳でトントンと宙──そこにあるだろう、見えない何かを叩いてみせた。


「これ、おそらく魔法じゃなくて物質的な壁だよ」

「あ、そうなん? でもどのみち塞がれてるんじゃどうにも……」


 そこで高遠くんは珍しく──ううん、ただ久しぶりなのかもしれない。最初の町で森を蹂躙した時も、時折こんな表情をしていた。愉快そうにフッと悪戯っぽく笑い、剣の柄に手をかけた。


「壁が邪魔なら、壊せばいい」


 言うと同時に引き抜いた聖剣がその足元の雪を巻き上げ、吹雪のように舞い上がる。

 その中心で高遠くんは高く剣を振り上げると──雪よりも眩しいその刃を、思い切り目の前に叩き付けた。


 直後、硬いものが急速にひび割れるような音が周囲に響き。

 前方でものすごい崩落音と、何かが大量に落下した後の凄まじい雪煙が吹き上がっていた。


「…………!?」


 あたしたち3名は身を寄せあうように固まり、そんなこちらの様子もお構い無しに高遠くんは剣を鞘に戻すと颯爽と前に歩み出す。


 ぶつかる、とは思わなかった。高遠くんは無様なあたしのように衝突することもなく、何かの山を乗り越えるようにして、あっさりと壁があったはずの位置を通り過ぎ、なんでもない様に軽くこちらを振り返った。


「思ったより時間を食わされたな。さ、行こう行こう」

「……あ、うん、ありがとう……」


 す、すごい……さすがは伝説の聖剣! 魔女のトラップを物理攻撃力で破壊してしまうとはなんとも豪快な……。


「どうやら魔力で出来た結界じゃなくて、ただの石壁に魔法をかけて透過してただけみたいね。それにしたって、壁を崩す程の力なんて私たちには無かったわけだけど……」

「高遠君ってああ見えて結構容赦ないよな。怒らせないようにしよ」


 あたしはちょっとだけぼーっとしていたけど、先を行く二人に遅れないようにと、慌てて雪をざくざくと踏みしめる。

 トラウマと共に見えない壁を乗り越えて、慎重に門へ続く庭園を進んだけれど、玄関の扉までは特にトラップらしいものはなかった。ふむ、さすがにあの壁を崩されることはあんまり想定してなかったのかも。意外と簡単に入れてくれちゃったり?


 とは言え、一応拳銃を構えた手を背中に隠して警戒しておく。これじゃ勇者よりは強盗だな……いや、防犯システムを剣で殴って強行突破した時点でもう手遅れ?


「ごめんくださーい」


 恐る恐る錆びたノッカーを引いてゴンゴンと訪問を知らせてみたけれど、残念ながらというか案の定、返事はなかった。


 むー……し、仕方ない、大変申し訳ないけどここは蹴破ってでも入るしか……!

 なんて悪の道に片足突っ込みかけていたら、ふと太一郎君が「つーかこのドア鍵穴なくねえ?」とか言って普通にドアノブを回し扉を開けてしまった。


 立て付けが悪いのか風のせいか、押してもないのにギィ……と嫌な音を立ててドアは勝手に内側に遠ざかり、あたしたちに館の入り口を晒していた。


「…………」

「…………」

「…………ラ、ラッキ~?」

「いやいや」


 あやしさはんぱなーい……。

 でもここまで来たら後戻りもできない。あたしはリボルバーのグリップを握るとふるふる頭を振った。


「あたしが先頭で様子見てくるよ。そもそも妖刀の修理なんて個人的な用件だし……」

「いや、雨宮さんだけ行かせるなんてできないよ。魔女から魔族の情報を聞き出すのも目的の一つだ、一番戦闘向きの僕が先に行く」

「いいえ、ここは小型化できる隠密に優れた私が先陣を切るべきだわ」

「え? あ、じゃあ俺も行く行くー……?」

「ありがとう太一郎君!」

「さすがだね田野上君」

「そこまで言われたら任せるしかないわね」

「いや何かおかしくねぇ!?」


 そんなわけで勇敢なる田野上太一郎君を先頭に、あたしたちは昔のRPGの勇者よろしく綺麗に縦一列になり扉の前に整列した。


 と言っても1人で行かせるわけじゃない、あくまで一番前に立っててもらうだけだ。

 なんだかんだ太一郎君のスキルが一番応用力は高いので予測不能な状況には強いし、あたしもすぐ後ろで控えているから何か飛び出て来たって0.02秒の拳銃早撃ち待った無しである。

 そう、目の前に何が現れようと、我ら勇者列車の守りに穴など…………


 と思ったら一歩玄関に足を踏み入れた太一郎君が目の前から消えた。

 ていうか落ちた。突然足元に開いた真っ暗な穴に。


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