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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第1章 剣と記録とはじまりの町

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それってとっても勇者っぽい

 外観を整えたり上質な調度品を並べて内装を飾り立てることは、お金があればどこの宿でもある程度可能なことだ。だけど忙しい早朝にどれだけ美味しい朝食を宿泊客に提供できるかは、宿の主人の腕と心意気次第である。そう考えれば、この宿はまさに五つ星を付けるにふさわしいと言わざるを得なかった。


「パンは焼きたてですのでお気をつけて。スープはたっぷりおかわりがありますからね。食後には紅茶とデザートもお楽しみください。それではどうぞ、召し上がれ」

「いただきます」

「いっただっきまーす!」


 あたしと高遠くんは仲良く手を合わせて一礼すると、黙々と朝食を口に運んでいく。

 テーブルの上は絶景だった。カリカリに焼かれたベーコンと黄身の鮮やかな目玉焼きにシャキシャキした旬の葉野菜のサラダを添えて、別皿に用意された酸味の効いたドレッシングはお好みで。

 焼きたてのパンは具材を挟んでサンドイッチにしてもいいし、自家製の甘い木苺のジャムを塗ってもいいようになっていた。温かいお芋のスープから漂うほかほかの湯気と匂いは実に食欲をそそる。野菜と卵は庭で育てた採れ立てらしく、どれも新鮮で味わうほどに素材の味が口いっぱいに広がっていった。


「おいしいっ!」

「美味しいよエリュシカ」

「ありがとうございます。でもお父さんの育てた素材が良いんですよ」

「この朝ごはんを食べるためにはるばるここまで来た気がしてきた?」

「しまった、また雨宮さんが使命を忘れて定住の意思を固めてしまう……」

「あはは、相変わらずお姉さんは冗談がお上手ですね」


 ていうか使命ってなんなんですか?と首を傾げて笑う、この最高の宿を提供してくれた小さな女主人──エリュシカは、昨日の夕食一回であたしの生態を熟知したらしく、「お姉さん足りてないですよね、スープおかわりしませんか」と空になった器に手を伸ばした。すばらしい。まだ12歳だそうなのにあたしの倍はしっかりしている。

 けど、立場が立場なのでさすがに胸が痛み、断腸の思いでスープカップを手で覆って首を横に振った。


「うれしいけどそれはさすがに……お金も払ってないのにこれ以上のサービスは受け取れないよ。おうち、大変なんでしょ?」

「それは……まあ、そうですけど。でもどうせ、お客様がいなければ余った材料がもったいないですから」


 気丈に笑って見せるエリュシカに、あたしの方がしょんぼり落ち込んでしまう。


 この宿に今、あたしと高遠くん以外の宿泊客はいない。それはそうだ、外部からの通路になっている森が魔獣のせいで封鎖されている以上、宿を利用する人も町まで辿り着けないから。

 それでも、足止めを食らったお客さんがそのまま連泊をしていてどうにかなっていたみたいだけど、あまりに長引く状況に先日ついに余所に部屋を借りて引っ越してしまったらしい。昨日必死に守っていた紙幣の束は最後の売上げ金だったというわけだ。それならバケモノと呼ばれながら身一つで奪い返した甲斐があったというものである、心の傷は癒えないけど。


「それにお姉さんとお兄さんがすっごくおいしそうにたくさん食べてくれるから、昨日は久しぶりに元気が出ました! 本当は果物やきのこも使いたいんですけど、森に入れなくなってから調達できてなくて。品数が少なくてすみません」

「ううん、気にしないで! それはすっごく食べたかったけどそもそも悪いのは魔王だから……」

「お姉さん、そんな暗い瞳をするほど魔王に恨みが………きっと何か悲しい過去があるんですね……」

「いや、これは本当にすっごく食べたかっただけだと思うな」


 ほろりと泣いてくれるエリュシカに、高遠くんが楽しそうに微笑みながら冷静に訂正してくれた。いや戦う理由には十分すぎる、そんな悪逆非道を勇者として見過ごす訳にはいかない!とあたしはパンをもぐもぐしながら決意を新たにするのだった。


「……でも、許せないのは同意だな。森はこの町にとって外部との連絡口であると同時に貴重な生活資源でもある。エリュシカ、薪はあとどれくらい残ってるの?」

「そうですね、この前お父さんが何とか持ってきてくれた分がまだ。ただ夜はどうしても冷えて暖炉の火が要りますし、料理や湯を沸かすのに使うことを考えるとあんまり余裕は……」


 うつむくエリュシカに、高遠くんは険しい顔をして目を細めた。

 木材はこの世界では貴重な資源で、森に近づけないことはその点でも大きな問題らしい。聖女さんはこの世界の人には魔力があると言っていたけど、例えば何もないところに火を起こすような魔法を使えるのは一握りで、しかもほぼほぼ戦いの最前線に召集されているのでこの辺りにはまずいないとか。


 そして状況を見かねて先日町の有志が意を決して森まで行って資材回収を試みたけれど、あえなく魔獣の返り討ちにあってしまい……そのメンバーの一人だったこの宿の本当の主人、エリュシカのお父さんも大怪我をして入院中、代わりにまだ幼いエリュシカが宿を切り盛りすることになったのだそうだ。聞いてるだけでも理不尽なお話だ、勇者じゃなくても許せない!


 湧き上がる怒りをベーコンを噛むことで堪える。うん、噛めば噛むほどおいしい。塩気が興奮を抑えてくれる。ベーコンにはリラックス効果がある。

 そんなもぐもぐしてるあたしの横で、高遠くんはお行儀よくナプキンで口を拭うと静かに立ち上がった。


「あ、お兄さんお皿はそのままでいいですよ。デザート持ってきますね」

「大丈夫、片付けぐらい手伝うよ。キッチンまで案内してもらえるかな」


 さり気なくエリュシカの手から大皿を奪って優しく微笑む高遠くんに、エリュシカも頬を赤らめてこくりと頷いた。その気持ち分かりますよ、と後方腕組み片思い先輩面で目玉焼きを咀嚼しながら頷く。

 厨房の方へ消えていく二人を見送って食事に集中していると、しばらくしてデザートのお皿を二つ持ったエリュシカがぱたぱたと駆け足で帰ってきた。一人で。あれ?


「エリュシカ、高遠くんは?」

「えっと、お庭のお手入れを手伝ってくださるそうで! デザートはお姉さんにあげるそうです、どうぞっ」

「え、ほんとに!? わぁい優しい大好きありがとうっ、お礼言ってきてから食べるね!」

「あ! だ、ダメです、じゃなくて作りたてで食べて欲しいので! ゆっくりお召し上がりください。スープのおかわりもどうぞ! 沸騰してるので冷めてから飲んでください! その後は紅茶を飲みながらお話相手になってくださいね、一時間くらいっ」


 庭の方に行こうとするあたしを身を挺して引き留め、無理やり椅子に座らせると、エリュシカは震える手で熱々のスープを溢れるぎりぎりまで注いで笑顔を引きつらせた。……。


「エリュシカ……」

「そ、そんな目で見ないでください、お姉さんのためなんです、お兄さんの気持ちも分かってあげてください!」


 やはり足止め役を任されていたらしくわーわーと半泣きになるエリュシカに、さすがに怒る気にはなれず。とりあえず食べ物に罪は無いのでデザートのパウンドケーキを頬ばりながら、あたしはちょっと寂しくて口を尖らせた。つまり置いて行かれてしまったみたいだ、どうやら。


「そりゃあ足手まといかもしれないけど……」

「あ、違いますよ、昨日怖い思いをしただろうから、今日は安全な場所で休んでてほしいってお兄さん言ってました。今日は偵察だけしてすぐ戻るつもりだそうですし」


 エリュシカは苦笑して言い、「でも」と続ける。


「私もお兄さんに同意です。西の森の魔獣は凶暴なので、いくらお姉さんの脚が速くて人より力持ちでも、武器を持たずに向かうのはおすすめできないですよ」

「うん、分かった。ところで北ってどっち?」

「王都の方ですよね?ここから見るとあっちかな?」

「北の反対が南だから東があっちで……」

「は!? しまった、お姉さん東西南北の概念を理解しているんですか!?」


 12歳の女の子に完全にアホだと思われていたことにちょっと悲しみを覚えつつ、あたしは湯気の立つスープを一生懸命ふーふーしてから飲み干す。これだけ食べればスキルの代償の方もなんとかなるだろう、足りなかったら木の実とか現地調達して食べるし。森で良かった。


「お、お姉さんダメですよ、魔獣は盗っ人とは訳が違うんです! お兄さんにも絶対近付かせないようにお願いされてますし!」

「大丈夫、本人に気づかれないようにこっそり遠くから見守るのは得意だからっ」

「それって胸を張ることなんですか??」

「心配しないでね、無事かどうか確認して、危ない時にちょっとお手伝いするだけだから! それじゃあ行ってきます!」

「ええ~……行ってらっしゃい、大丈夫かなぁ~……お昼ご飯、2人分作って待ってますからね……?」


 それは何としてでも無事に帰ってこなくちゃいけないね、と俄然気合いを入れながら、スキルを使って9秒台のスピードで走り出す。

 大丈夫、あたしだって自分に人知を超えない能力しかないってことは分かってる。この足で逃げ回る程度のことはあったとしても、魔獣とやらと戦ったらさすがに勝ち目はないだろう、きっと。



* * *


 

「殺しちゃった………」


 女子高生が口にしたことのない言葉ランキング上位に入っていてほしい呟きを残し、あたしは沈黙した。黙して見送る、目の前の小川をどんぶらこと流れてやがて沈んでいく()()()()の悲しき姿を。


 西の森に入って数秒、予想より早く魔獣とエンカウントしたあたしは軽くパニックに陥った。何しろあまりにもデカかったので。


「ベーコン何枚分!?」


 混乱の余り飛び出した謎の叫びにその魔獣は──あたしより背の高い、額に大きな角を生やしたまるまるとしたフォルムのピンクの豚は、ピギィと怒りの咆吼を上げて襲いかかってきた。

 知能は低そうだけど発言内容の失礼さを感じ取ったのかもしれない。朝ごはんの記憶が胃に新しかったもので……。


 なんだか想像していた強そうな魔獣とは違ったけど、さすがに普通の豚とは違う。

 そのあり得ないほど大きなサイズだけでなく、歯は噛まれたら大変なことになりそうなぐらい立派な臼歯が上下に揃っていたし、蹄も硬く力強く地面を蹴って、どんどん駆け抜けるスピードを上げていた。あれで蹴られたらひとたまりもないだろう。

 て言うかその前に追い付かれたらあの角で串刺しにされる、串ものは大好きだけど自分がなりたいとは思わない!

 

 あたしはすぐさまスキルを使って全速力で駆け出したけど、さすがに四足歩行相手じゃトップスピードに乗られたら逃げ切れない。

 あっという間に真後ろまで迫られて、これがほんとの弱肉強食、と諦めかけた時、ページをめくる音が脳裏に響いてハッとする。

 そして思い切って片足で強く地面を蹴って踏み切り、垂直方向に跳んだ。2メートルほど。


 逆さまになる視界の中で、あたしの下を駆け抜けて行った魔獣が、勢いを殺せずに大木に角から激突して突き刺さるのが見えた。

 文字通り猪突猛進、豚だから親戚だけど。


 遅れて着地して、ひとまず息を吐く。よかった、人類が()()()()()を極めててくれて本当によかった。


「プン!!」

「ギャッ!?」


 安息も束の間、ちょっと可愛い怒号と共に魔獣が木をへし折って脱出しあたしを睨むのが見えて慌てて走る。

 まずい、やっぱり魔法が使えるファンタジー小説とかを読んでおけばよかった、魔法が使えれば一瞬でこんがり丸焼きにできるのに……!


 なんて後悔していると、ふと耳に水の流れるような音が微かに届いて目を見開く。

 あたしは音を頼りに木々をかき分けて走り、背後で木をなぎ倒しながら迫る圧を感じつつ、もう一度地面を蹴って跳んだ、今度は上じゃなくて前に。


 木々を抜けた先、開けた視界に広がった川には数メートル程の幅があったけど──体はちゃんとそれを跳び越えて向こう岸に着地していた。

 人類が8メートル幅は余裕なぐらい()()()()()が上手でよかった。


 そして振り返ると川に突っ込んだ豚がもがもがしながら流されていくのだった。あの風船みたいな体は突撃攻撃力は高そうだけど、泳ぐのには適してないらしい。体型に気を使うタイプの豚じゃなくてよかった。


 殺生してしまった……と少し落ち込んだけど、いやでもさっきベーコンをあれだけ美味しく完食した時点でどの口がなお話?と開き直って再び歩き出すことができた。おいしい朝食に感謝。


 でも環境(※河川)に依存する戦い方は二度は使えないね、と人生でしたことがないジャンルの反省しつつ歩いていると。


 進行方向の茂みの向こうに新たな豚の姿を捉えて、あたしは身を屈める。

 敵はどうやらのんきに木の根元のきのこを味わっているようだった。おのれ朝ごはんになるはずだった食材を!


 とは言ってもやっぱり武器もなしじゃ勝ち目はないし、とうつむいた瞬間、目に飛び込んだ()()()()()()()()に再びページをめくる音が響く。


「えい」

「ゴフッ」


 嫌な音を立てて魔獣の巨体が地に沈み、その横腹にも沈んでいた、さっきまで持っていた石が。

 こ、これが人類が到達した169km/hの球速とコントロール力、今後もし高遠くんとキャッチボールをする機会があったらうっかり発動させないように気をつけないと……!

 ていうかわりとなんでもありかもこの愛読書?


 それにしてもそこそこ走ったけれど、未だに高遠くんの影すら見つけられていない。

 もしかして既に、と不安に思っていると、ふいに森の奥から響いた悲鳴が耳に刺さる。反射的に、心臓がドクンと痛いぐらいに脈打った。


 神さまは言っていた。死んでしまったら終わり、二度と元の世界には帰れない──


 だけど進んだ先、ようやく見つけた高遠くんは、あたしの想像していた状況下にはいなかった。




 死んでいた。

 森が。全身複雑骨折的な意味で。


 空を覆う背の高い広葉樹、長い時を生きてきたんだろうそれらが無残に切り倒され、地面に丸太みたいに横たわっていた。数十本単位で。


 そしてその隙間を埋めるように、体を深く切りつけられた豚の魔獣が、点々と倒れているのだ。

 ただただ惨状と呼ぶにふさわしい景色を抜け、倒れた木々のせいで妙に開けた視界の先。


 無事に探していた人の背中を見つけたのだけど、あたしは近づくことすらできずにぽかんとその場に立ち尽くしてしまった。


 木々を背に追い詰められた格好で、すっかり怯えきっている様子の魔獣と向き合いながら、圧倒的に優位そうな高遠くんはなぜだか困っているようだった。


「なんで上手くいかないんだ……? いや何事も基礎と反復練習、諦めずにもう一回……」

「ピギィ……」


 たぶん『諦めずにもう一回』の対象にされている魔獣は震えて小さく悲鳴を零した。ていうかさっきの悲鳴も冷静に考えると豚のいななきだったかもしれない。良かったのやら悪かったのやら?


 しかし状況を考えるとなんだか能天気なことをつぶやきながら高遠くんは──全く無傷の高遠くんは、聖剣を握る手に力を込めて、敵に向けて刃を構えていた。


 鞘から抜かれた所を初めて見たけど、剣は暗い森の中でも眩しいくらいに輝いて、遠目に見ているだけで息が苦しくなるような威圧感を放っている。


 そうして高遠くんは意を決したように息を吸い込むと、


「────あ。やっぱり駄目だこれ」


 どこか間の抜けたつぶやきが、ごうっ、という鼓膜が破けそうな音にかき消される。


 高遠くんが軽く振り下ろした剣、それが辿った軌跡をなぞるように、鋭い突風が生まれた。ていうか、切られた勢いで吹き飛んでいった豚の速度がすごすぎて風が起きていた。


 後方にいてもなお大気を震わせる、まるで獣の咆哮のようなそのとんでもない威力に、あたしは必死に地面に立ちながら、瞬きもできず前方を注視する。


 そんな攻撃の直撃を受けた魔獣はもちろん瞬殺、そしておまけのように、その背後にあった巨木までもが数本まとめてドミノ倒しのように切り倒されていた。とんだとばっちりだ、心から木々に同情する。


 突然の大伐採により生じた土煙の中、高遠くんは眉一つ動かさず、不満げに手にしたそれ──傷も汚れも一つも残さない、美しい聖剣を睨んでいた。


「……生け捕りにして生態調査に活用したかったのにまた一撃で倒してしまった……なんで上手くいかないのかな」

「…………」


 残念そうに述べる高遠くんの弁に、さすがにちょっと呆然とする。でもえらい、さすが高遠くん試合後のフィードバックも欠かさない。

 

「それに一匹倒す度に木を数本伐り倒すのはまずい……生態系を破壊してしまう」


 なんかエコロジカルな観点からも反省を始めていた。えらい。さすが高遠くん地球に優しい、あれ、ここ地球じゃないのかな?じゃあ異世界に優しい?

 まあ確かに強いことは良いことだけど被害甚大、これじゃあ二つ名が木こりとかビーバーとかそんな感じになってしまう。それはあまりにも可哀想だ。

 なんて思いながら静かに見守っていると、ふいに高遠くんは悲しげな顔をして呟いた。


「………雨宮さん、怒ってるかな。相談もしないでこんな……」

「いやいやあたしが頼りなかっただけで高遠くんはなんにも、」

「え?」

「あ」


 慌てて口を押さえた時にはもう遅い、高遠くんはまさかと言う感じでこちらを振り返ると、あたしを見てさあっと青ざめた。


「雨宮さん!? なんでここに!」

「ご、ごめんなさい、どうしても心配で……でも余計なお世話だったね? このありさまだと……」


 くるりと視線を巡らせ、死屍累々の惨状に笑うと、高遠くんは顔を赤くして恥ずかしそうに「あー……」と口元を押さえた。そういうシチュエーションじゃない気がするけどかわいい。


「スキルの腕試しがしたかったんだけど、加減が難しくて……まあ元の本の内容に見合った威力ではあるんだけど……」

「うーん、強い分には別にいいんじゃない?」

「でもこれじゃ森以外で戦えないだろ」

「あー……」


 崩壊する町の家々や吹き飛ばされる人々を想像し、あたしは目を瞬いた。うーん、確かにそれは勇者というより大怪獣?

 まあ何事にも手を抜かずに全力を尽くしちゃうのは高遠くんらしくて、あたしは好きだけどなぁ。豚&木には悪いけどね。

 

「でもさ、切っちゃったものはしょうがないし、この木は資材にして持ち帰ろうよ。きっとすごく喜ぶよ、エリュシカも町のみんなも! それってとっても勇者っぽい!」


 わ〜、と両手を上げながらせいいっぱい励ますと、あたしの必死さに負けてか、高遠くんは目を細めてようやく笑ってくれた。



 そんなわけで高遠くんが贅沢に聖剣でカットした薪を抱えられるだけ持って帰る道すがら、


「あれ? こんなところに倒した覚えの無い死骸が……」

「あ、あのね、それはあたしが……」


 意を決して告白しようとした瞬間、めり込んだ石を見て「投石……? 豚以外にも魔獣がいるのかこの森には……」とたぶんオランウータン的な新型魔獣の考察を大分真剣に始めてしまったので、あっけなく口を閉ざす。この流れで名乗り出られるほどはあたしも勇者じゃなかった。


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