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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第5章 雪と魔女の村

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4月の初雪


 新しい街を目指して大地を闊歩する、巨大化した花木マヤちゃんの肩の上で。

 折れた妖刀を空に掲げながら、あたしは白目をむいてフリーズしていた。


 というのも、この刀はようやく手に入れた近接戦闘用の武器。これがなくなってしまうとあたしはいよいよ前線において拳でぶん殴るしか攻撃手段がなくなっちゃうのである。さすがにまずい、仲間に片思い相手がいる状況下では。


 数十秒ほどそういう彫像っぽく固まった後、あたしはハッと意識を取り戻して、隣で静かに生還を待っててくれてたらしい高遠くんにぐりんと首を回し口を開く。


「た……高遠くんスマホ貸して? お客様サポートセンター……じゃない、スオウ先生に電話しないと……」

「ないよ。電波もないよ」

「じゃあ瞬間接着剤で……いや、この際もはやセロハンテープでぐるぐる巻きにすれば……!?」

「鉛筆か何かなの?」


 狼狽するあたしに真面目に冷静に返答しつつ、高遠くんは少し考えるそぶりを見せると「あ」と手を打った。


「そうだ。取扱説明書!」


 言って、荷物の中から何かを取り出す。その手に握られていたのは、どうやら三つ折りにされた半紙のようだった。

 そこでようやく思い出す。そういえばこの刀を譲ってくれた先生が、別れ際にあの紙──『妖刀極秘取扱説明書』を託してくれてたのだ。あたしじゃなくて高遠くんに。


「こ、これを見ればどんな不器用な人でも簡単にあなただけの妖刀が──!?」

「いや、そんな製作キット的なものじゃなさそうだけど……。どれ、何て書いてあるのかな」


 高遠くんは高所の風に飛ばされないように半紙を慎重に広げ、白い紙を埋め尽くす達筆な文字に視線を滑らす。あたしもひょいと横から覗き込み、すぐに字がびっしりな紙面につい顔をしかめてしまった。


 図のない取扱説明書とか最悪ですよ先生、と心中でツッコミを入れるあたしをよそに、高遠くんは粛々とその文章を読み上げてくれた。


「────拝啓 雨宮アリア殿。この書が開かれたという事は、お前が何かやらかして残雪が被害を被ったという事だろう。未熟者めが恥を知れ」

「一行目から辛辣だーー!?」


 て、ていうか何で壊したこと前提!? いや壊しましたけども!!


「──しかし、お前が残雪の認めた持ち手であることもまた事実。よってここに妖刀の修復方法を記しておく事にする。北の大陸、荒野を越えた先、雪に覆われた村を訪れよ。そこには俺と共にその刀を鍛えた魔女が住んでいる。あとはそいつが教えてくれるだろう」

「取扱説明書のくせに工場訪問を促して丸投げするのって逃げじゃないですか??」

「僕に言われても……。ええと、最後に──妖刀は通常の使用や衝撃では決して折れない。折れたという事は、持ち主の心が折れたという事。想像だにせぬ激しい苦悩がお前を襲ったのだろう。だが挫けるな、お前は相当頭が弱いが心は強い、必ずや立ち上がるものと信じている──」


 高遠くんはそれ以上何も記されていない事を認めると丁寧に説明書を折り畳み、それから疑問符を浮かべるように視線を上に向けた。

 そして、隣のあたしを見る。


「雨宮さん、心折れてるの?」

「あたし、心折れてたっけ?」


 二人同時に呟き、首を傾げる。大変申し訳ないけどすこぶる元気だ。

 昨日だって(覚えてないけど)どんちゃん楽しく大騒ぎしていたみたいだし……吐き気を乗り越た先にそろそろお腹もすいてきた。うーん、ということはここ最近の出来事…………?

 

 いや待って、そう言えばついこの前あったような。めちゃくちゃショックで涙と鼻水を枯らしながら、いっそ消えてしまいたいと思うほど悲し出来事が……


「あ」

「え、何?」


 心配そうに顔を覗き込む高遠くんに対し、あたしは温度急上昇した真っ赤な頰を押さえてうな垂れた。


 い、言えない……。『あなたに大嫌いと言われたショックで心のついでにメイン武器折れました』とかまぬけかつ申し訳なくて言えない……!


「な、なんでもないです……」

「いやなくないでしょ、何? 僕の知らないところで何かあったの?」

「え? いや、知らないどころかあなたが元凶と言いますか諸悪の根源と言いますか……」

「はあ?」

「あっ、いや違うからね、一人で勝手にこの世の終わりを体験してただけで高遠くんはなんにも!! 気軽にとんでもない大嘘つきやがってとか全然思ってないです!」

「ちょっと何それ!? もっと分かるように……」

「おーおー何の大騒ぎ? ついに進展した?」

「いや、むしろ後退だわ。仲が良いのは良いことだけど自分の肩の上でやられるとさすがにイラっとするわね……」


 ぎゃあぎゃあ騒いでいると反対側の肩から面白そうに太一郎君が身を乗り出し、真ん中にあるマヤちゃんの口がうんざりしたように溜息を吐く。

 二人がこちらを助けてくれそうな雰囲気は残念ながらさっぱりなさそうだったので、話を逸らすのにあたしは心血を注いでいた。


「あーっと、それで、魔女? のいる村? に行けばいいのかな!? それって次の目的地のことだよね、わーちょうど良い時に折れたね、もういっそ直し甲斐があるようにバッキバキに折っておこうかなぁ!?」

「あ、こらパフォーマンスで誤魔化そうとするな! 膝を支点にして刀を両端から押さえて力を加えようとするのはやめろ! そんなことしても騙されな……」

「へっくしょん!」


 検察官のごとき厳しさであたしの拙い言い逃れを追求していた高遠くんだったけど、突如あたしの両手の中で爆発したくしゃみの音にぎょっとしたように動きを止め、一転しておろおろと焦り始めた。


「あ、雨宮さん大丈夫? 風邪? いや雨宮さんが風邪を引くはずが……」


 なんだか失礼なことを言っている高遠くんを睨みつつ、あたしはいつの間にか大気に満ちていた刺すような冷たさに身震いし肩を抱いた。

 そして鼻先に触れた感覚に、あ、と空を見上げる。


「……なんか、気候が急に変わったような……ちょっと待って雨宮さん、防寒具出すから」

「高遠くん、手」


 高遠くんは荷物に突っ込んでいた手を止め、不思議そうにこちらを見る。

 そして空に向かって手の平を差し出すように広げるあたしを見て、訝しげにそれを真似て腕を伸ばした。

 直後、


「…………あ」

「ね。雪!」


 にっこり笑うあたしに、高遠くんは心底驚いたように口を開けて……白い吐息と共に、感嘆の声を吐いた。


「雪? だってもう4月も終わる……」


 言ってから、ここが異世界であることに気づいたのか、気恥ずかしそうに口を閉ざす。ああそう言えば、高遠くんを追いかけて魔方陣を踏んだのはまだあったかい春の日のことだったっけ。


 だけど伸ばした二つの手の平に積もっては溶けて行くのは、真っ白な新雪だった。とても冷たく、だけど心が踊る。

 真下の大地に目を下ろせばいつの間にか荒野は終わり、暗い色をした硬い土を、薄い雪が斑に覆い始めていた。


「目的の村とやらはどうやらすぐそこみたいね。──悪いけど、早歩きするからかなり揺れるわよ。私寒いのって苦手なの」


 言うが早いか早歩き、どころかどすんどすんと走り出したマヤちゃんにより、その肩に座っていたあたしたちの体は一瞬宙に浮いた。


 大きな歩幅が元いた大地をぐんぐんと後方に置き去りにし、その度に足元の白は濃さを増していく。

 そのスピードと揺れと、一気に増していく寒さにあたしは一周回って楽しくなって笑い、高遠くんは気絶寸前で歯をくいしばるのだった。


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