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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第4章 砂と硝煙の荒野

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更に北へ


 晴天の下、眩しい太陽の光を受けて、あたしと高遠くんは二人で死んでいた。

 もう少し具体的に言うと、巨大化したマヤちゃんの右肩に並んで座り、果てしない荒野をぐわんぐわん揺られて進みながら、二人で仲よく口元を押さえて耐えていた。吐き気に。


「う……」

「おえー……」

「ちょっとやめてよ人の肩の上で同時に嘔吐(えず)くの! この二人怖すぎる、やっぱり吐き気を感じなくする暗示(スキル)をかけるべきだと思うんだけど!」

「別にいーけど、その場合迫り来る限界に気づかず予告なくリバースする人が出来上がるだけなんだよね」


 あはは、と軽快に笑う太一郎君の声が左肩の方から聞こえて、あたしは生まれて初めて感じる嘔吐の危機に泣きながら震えた。しかもなんで『片思い相手の目の前』とかいう最悪のオプション付きで!


 ……昨日の夜、酒場で打ち上げをしたらしいんだけど朝目が覚めたらその記憶は欠片もなく。

 かわりに頭が割れんばかりのとんでもない頭痛とこみ上げる気持ち悪さに襲われていたのだった。マヤちゃんに乗って揺らされたことで更に悪化してだいぶ救いようがない。


 高遠くんは高所恐怖症×乗り物酔いという可哀想な事情があるから分かるけど、あたしはそういう体質(デバフ)はないはずなのになんで??


「気持ち悪くて朝ごはんもおかわりできなかったし……あたしもうダメなのかも、これってトカゲの呪いかなぁ……?」

「いや明らかに二日酔いでしょ」

「ええ? あたしお酒なんか飲んでないよ、未成年だもん」


 どや、と胸を張ると、やれやれとマヤちゃんは首を横に振り、いい香りのする黒髪が鞭のように真横で踊った。危うく落ちかけてただでさえカオスな頭がくらくらする。


「うう……あたし吐いたことないから分かんないんだけど、こういう時って口に指突っ込んだらラクになるんだっけ……? 自分でやるの怖すぎる……高遠くんやって……?」

「ええ……別にいいけど噛まないでよ……」

「やばい、具合が悪すぎて二人で滅茶苦茶アホになってるぞ」

「ちょっとやめてよ人の肩の上でわけわかんないイチャつき方するの!!」


 泣きながらあーんと口を開けかけてたら、怒ったマヤちゃんに肩を揺らされて一瞬意識が飛んだ。

 ……ハッ、でも今ので一周回ってピークを越えたな……。

 あたしは未だ残る胸やけのような気持ち悪さに顔をしかめつつ、ひょいとマヤちゃんの首越しに左肩へと顔を覗かせ、そこで涼しい顔で風を受けている太一郎君に声をかける。


「そういえばさ、ありがとね。あんな決死の大脱出だったのに、『遺産』持ち出してくれて」

「お礼なんかいいよ。成功率0.1%ぐらいの大博打に乗ってくれたんだから、それでも安すぎるくらいでしょ」


 けらけらと笑う声を遠くに聞きながら、手の中で金色のそれを転がして握る。神さまの遺産、拳銃の銃弾。

 倉庫に眠っていたものを運べるだけ持ってきてくれたので、しばらくはこの銃も武器の一つとして使っていけそうだ。


  見晴らしの良い高度数メートルから、果てのない青空と荒野を眺め、息を吸い込み目を閉じる。右腰には回転式拳銃、左腰に妖刀、そして背中には矢筒と弓。……なんか歩く武器庫っぽくなってきたな??


 だんだんと増えていく物騒な装備に戦慄しつつ、これから向かう次の街ではもうさすがに増えたりしないかなと控えめに願う。あんまり重いと走りづらいし。

 

「……次の街、かあ」


 もうこの異世界に来て5つ目の街になる。目的の最北の地、王都も着々と近づいて来たということだ。

 北に行くほど戦いは激しくなると聞くし、そろそろまた魔族と戦うこともあるんだろうなあ、とあたしはついつい憂鬱な気分になってしまう。


「ねえ高遠くん、」


 不安を打ち消したくて隣を見ると、同じく吐き気のピークは脱したらしい高遠くんがキツく目を閉じて歯を食いしばっていた。


「……落っこちてもあたしが拾いに行くから大丈夫だよ?」

「落ちるとか言うな!!!!」

「あ、はい……」


 受験生みたいなことを叫んで怒られてしまった。高所恐怖症って大変だなあ。


「…………。怒鳴ってごめん、何か言いかけた?」

「えーっと、次の街ってどんなとこかなーって」

「ああ。昨日の夜みんなで話したんだけど、雨宮さんは正気じゃなかったからね……次の街は、この荒野とは随分気候が変わるらしい。大きな雪山のふもとにあるかなり寒さの厳しい所みたいだよ」


 高遠くんはマヤちゃんが指に引っかけている重そうなリュックを指差し、中には防寒具が詰まっていると教えてくれた。なるほどさっぱり覚えていない、一体昨夜あたしの身に何が……?


「新しい勇者さんにも会えるかな?」

「ああ、そうだね……無事でいるなら会えるかもしれない」


 だとしたら、心強い。魔族と戦うなら味方は多い方が安心だし。


「攻撃力高めの人だとありがたいなあ。拳銃は強力だけど、魔王戦まで残弾数温存しときたいしね」


 ぽんぽん、とリボルバーのグリップを叩いた後、あたしは妖刀の柄に手をかける。


「じゃあしばらくはメイン武器は刀?」

「うん、何しろ先生が鍛えた名刀だからね! 今回も大活躍してくれたし、これからもあたしの大事な相棒として──」


 言いながら鼻歌混じりに刀身を引き抜き空に掲げると、その軽さに驚く。軽かった。いつもの半分くらい。残雪、あたしに隠れて軽量化(ダイエット)を……!?

 だけどそれも当然、何しろ妖刀の刀身は()()()()()()()()()()()のだから。


「…………あれ?」


 恐る恐る鞘の中を覗く。光が見えた。美しい妖刀の刃、その半身の先が妖しく白く輝いているのが。

 あたしはサーっと血の気が引くのを感じながら、手にした刀の先──ぽっきりと水平に折れ、鋭さを失ったそれを見つめた。


「──ざ、残雪が折れてたぁぁぁ!」


 過去形の叫びは遥かな荒野に吸い込まれるように消えて行き、更に北へと向かうあたしの旅路は、唐突にメイン武器をロストして壁にぶち当たるのだった。

 

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