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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第4章 砂と硝煙の荒野

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作戦会議


「スキル実験場? この遺跡が?」

「そ。ゲームの基本だろ、雑魚を無限に倒して安全に経験値稼ぎ」


 軽い調子で言って、太一郎君は笑う。でもその内容は一高校生の考えることとは到底思えない大胆不敵さだった。



 ……あの後、結局何らかのショックから全然復活しなかった高遠くんをとりあえず床に放置し、あたしたちは木箱に囲まれた倉庫の中央に丸くなって話を切り出した。もちろん元闇落ち勇者こと田野上太一郎君の大釈明会のためである。

 曰く、


「北大陸に着いて、マヤちゃんに港に置き去りにされた後……まーどーすっかなーと思ったんだけど。追いかけても返り討ちだろうし、とりあえず怒りが収まるまで時間置かないといけないからさ。そしたらこの辺の人が魔獣に困ってるって噂を聞いたんで、ちょっくら退治でもして時間を潰そうと思ったんだよ」


 石の床にあぐらをかいて、太一郎君は歌うようにつらつらと語る。その隣でマヤちゃんは膝を抱え、ちょっと頬を赤くしてむくれながら太一郎君を睨んでいた。


「……私、そんなに融通効かない奴?」

「そういう自覚のないとこが気に入ってるから気にしないでいいよ。で、その時ちょうど俺は悩んでいた──暗示スキルの威力は不安定だった。おそらく使い込まないと精度が向上しないけど、使い込むには誰かに何回も暗示をかけなければならない。……でも、そんなことをさすがに人間相手にやるのは(はばか)られる。度重なる行動や意識の強制操作が、人の精神や記憶にどんな影響を与えるかも分かんないしね」

「ちょっと待って、あたし今まで無駄に何回か暗示にかけられたような??」

「……そしてあのトカゲ共に会ったんだけど、まあ知っての通り奴らは頭が悪い」


 抗議するあたしを華麗に無視して太一郎君は続ける。


「そこで閃いたわけだ、『こいつらを実験台にしてスキルのレベル上げをしよう!』ってね。試しに暗示をかけてみたらあっさり俺のこと仲間だと思い込んで遺跡(アジト)に案内してくれたよ。……そこからはあっという間だったな、全員に完全に俺が群れのリーダーだと思い込ませて、何でも言うこと聞くようにするのは」


 朝食のメニューを思い出すように軽く振り返りながら、太一郎君は恐ろしいことを淡々と説明した。


「まあ代償がある以上ずーっと暗示をかけ続けるわけにもいかないだろ? 対象の数も多すぎるし、効果はそのうち切れちゃうからね。だからちょっと手を加えて──まず外をうろついてた数名の集団に暗示をかけ、俺を従うべき親分だと思い込ませた。そしてその口から、暗示のかかってない残りの同胞に対し『この人は信頼に足る親分だ』と説明させて受け入れさせる。その後に暗示が切れると、突然人間が巣の中でふんぞり返ってるのを見てまあ当然困惑するが、同胞が俺とすっかり打ち解けているのを見ればああそういうもんなんだっけと勝手に認識を歪ませた。トカゲは自分達の記憶力の無さには自覚があったからな。あとはそれをちょっとずつメンバーを変えて繰り返して、集団の常識が変わるまでぐちゃぐちゃにしただけ」


 太一郎君は手近な小石を一つ手に取り、何度も左右の手の内にぞんざいに投げて行き来させる。目で追うあたしは小石が最初はどっちの手にあったのかも分からなくなり、やがてそれがカラン、と何の感慨もなく床に落とされたのを見て、無意識に震えた。


「面白いもんだったよ。だんだん暗示にかかっていてもいなくても、俺に対する認識が曖昧になって……ついにはスキルを使わなくても言う事を聞くようになったってわけ」


 扉を開けてもなお薄暗い部屋の雰囲気もあり、あたしとマヤちゃんはうさんくさいものを見る半目で太一郎君をじとりと睨んでいた。何この人こわい……。


「で、あとは俺に従うに十分な理由づけをするために、適当に街襲撃の立案をして『俺のおかげで上手くいった経験』を重ねてダメ押ししておいた。あいつら馬鹿だからこれまで考えなしに街を襲ってたみたいだけど、夜襲とか二手に分かれて奇襲とか適当に指揮してやったらそりゃもう神のごとく崇められたよ。脳の体積が小さいってのも悲劇だよな」


 あっはっはと笑う太一郎君をマヤちゃんは慣れたように冷めた目で睨み、あたしは涙目で震えていた。何この人こわすぎ……。

 そんなあたしを見て、太一郎君はちょっと気恥ずかしそうに弁解する。


「あ、襲うって言っても絶対に人は傷つけさせなかったし、むしろ義賊的行為だぜ? 一応襲撃の体裁を取るために盗ませたのだってアレだけだから」


 アレ、と太一郎君は倉庫の壁にうず高く積まれた木箱の一つを指差す。あたしはそろそろと近寄り中を覗き込むと、目を丸くした。


「お酒?」

「そう。人間にとって欠くことのできない非常に価値あるものだと言ったら喜んで盗ってきた。まあ後で返すつもりだったけど、とりあえず一時でも街の人の肝臓を休められたんだからそう悪いことでもないだろ?」


 木箱にはみっちりと、お酒の瓶が詰め込まれていた。ラベルを見るに、街でお爺さんが呑んだくれていたものと同じだと思う。

 ……いや、これだけ盗まれてもなおあおるぐらいお酒があるんだあの街……あたしはみなさんの肝臓の具合を思いため息をついた。


「なにが義賊よ、盗みは盗みよ、開き直るんじゃないわよこの犯罪者」

「わーるかったって。でもまあ、俺だっていつまでもトカゲの大将やってるつもりはないんでね、スキルも大体使いこなせるようになったし、ぼちぼち奴らを全滅させてマヤちゃんのとこに戻ろうと思ってたんだけど……まあ知っての通り、奴らはしぶとい。全滅は至難の技だ。それでちょっと時間はかかったけど、まあ大体の勝算の目処はついた」


 フフンとふんぞり返る太一郎君に、あたしとマヤちゃんはおおー! と目を輝かせる。

 でも、と太一郎君は眉を下げた。


「ちょーっとばかし、いや、かなり危険な作戦だから……失敗したら即死っていうか。だからできればマヤちゃんやアリアちゃんには関わらないでいて欲しくて、俺だって高遠くんだって悪役ぶって遠ざけてたのにさあ。全然言うこと聞かないんだもんな」


 うんざりした様子で太一郎君はじとりとあたし達を睨んだ。マヤちゃんはうっ、と目を逸らし、あたしは首を傾げる。


「悪役ぶる?」

「そうそう。ありえないだろ? 高遠くんがアリアちゃんのこと嫌いなんて明らかに大嘘じゃん」

「え? あれってほんとに嘘だったの?」

「……人の話全然聞かないよね本当に……」


 衝撃の事実に驚くあたしの横で、ようやく高遠くんは顔を上げ、ため息まじりに言った。


「……トカゲを一掃する方法には僕も悩んでいた……田野上君には何か策があるんだろうなと思ったけど、花木さんを(かたく)なに巻き込まないあたり、危険な方法だとも分かってたから。だから一人で行きたかったんだけど、雨宮さんはあれぐらいはっきり拒絶しないとどうせ元気に着いて来ちゃうでしょ。……それにまた目の前で死にかけられてもう二度目は無いって焦ってたし、あの高位魔術師のことまで思い出すしむしゃくしゃしてたというか……」


 歯切れ悪く言う高遠くんの足元にひょいと飛び込み、あたしは身を乗り出して問い詰めた。


「わっ!?」

「なんでそんな嘘つくの? すっごく悲しかったのに」

「ご、ごめん……」

「じゃあ嫌いじゃないの? 嫌いじゃなかったらなんなの??」

「ほ、本当にすみませんでした、見逃して……」


 詰め寄るあたしから床に手をついてじりじり逃げつつ、高遠くんは困りきった顔で太一郎君を見て助けを求めた。

 しかし太一郎君はにこりと笑ってぐっと親指を立てるのみで、高遠くんは珍しく舌打ちをして恨めしそうに睨むのだった。おお、レアだ。


「い、今はそれよりも計画のことだ! こっちが負けちゃった以上、どうせ任せてくれなんてしないんだろ?」


 真っ赤になって盛大に話を逸らす高遠くんにあたしは釈然とせず口を尖らせたけど、まあ概ねその通りだ。男の子チームだけに任せて安全圏で応援するつもりなんてあたしもマヤちゃんもさらさらない、乗りかかった船なら全力で舵を取らせてもらうだけだ。


「当然でしょ」

「もちのろん! で、どうやってトカゲを全滅させるの?」


 やる気満々のあたしとマヤちゃんに嘆息しながら、太一郎君は倉庫の木箱、先ほどお酒が入っていたものとは別のものを指差す。


「あれを使う。どうやらあれも神様の遺産らしい……まあ、荒唐無稽さで言えば銃と似たようなもんかな」


 百聞は一見にしかず、あたしとマヤちゃんは木箱に歩み寄り中のものを確認する。


「………………」

「これって……」


 驚くあたしたちに太一郎君はにやりと笑った。


「さ、メインの戦いも終わったことだし、フィナーレはド派手に行こうぜ。……能力的にアリアちゃんにはちょっとばかし頑張ってもらうことになりそうだけど」


 申し訳なさそうに言う太一郎君。なにを今更、とあたしは軽くピースでもって一蹴し、高遠くんを見た。心配そうな顔がちょっとだけうれしい。

 何しろ高遠くんはあたしのことを嫌いじゃないそうなので、今のあたしは無敵状態。向かうところ敵なしなのだ。


 景気よく大暴れしてやろうと心に誓い、あたしは「締まって行こー!!」と、天井に向かって元気よく拳を振り上げた。


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