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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第4章 砂と硝煙の荒野

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死に損ないの恋②


「あ、そういえば打ち上げの話なんだけどさ~」

「……元気になってくれたのは嬉しいけど元気すぎることない?」


 浮かない顔をして下を向くマヤちゃんは、ひどく緊張しているのか胸元のリボンをきゅっと握って、悩ましげに息を吐いていた。


 もちろんそれはあたしも同じで、ほんとは口からぜんぶの内臓出ちゃいそうなぐらい心臓ばくばくなんだけど。

 だってこの後の戦いで失敗しちゃったら、ほんとのほんとに高遠くんとはお別れだからね。楽しい未来の話でもしてないと怖くて逃げ出しちゃいそうだ。


「回転寿司がいいかな~と思ってたんだけど、生魚苦手な人がいたら焼き肉でもいいかなぁって高遠くんと話してて。晴春君は何でも良いって言ってたんだけど、マヤちゃんと太一郎君は食べられないものとかある?」

「ううん、私もあいつも特に好き嫌いはないし任せるわ。でもテーブル席でも少し手狭なんじゃないかしら? まだ会えてない勇者もいるわけだし」

「え? そうなの?」


 そういえば気にしたことなかったな、勇者採用人数。

 確かに今分かってる5人の時点で結構ぎゅうぎゅう詰めかも、あたしと男の子3人で卓上にお皿のビル群を建設してマヤちゃんを怖がらせてしまいかねない。


「私、召喚される時に気になって、何人送り込むつもりなのか聞いてみたの。そしたら聖女さんが教えてくれたわ、私も含めて合計6人の予定だって。だからあともう一人いるはずなのよね。上手く合流できるといいんだけど」

「あー……そうなんだ……」


 ……そしたらあと一人じゃなくて、あと()()だな。だってあたしは、その合計には含まれてないはずだから。


 おまけでねじ込んでもらった結果がこういう矛盾として表面化していくことに冷や汗かきつつ、聖女さんに再会できたら速攻で口裏合わせをお願いしなくちゃと胸に誓う。

 その辺の事情が高遠くんに知られちゃうといろいろまずい、世界間ストーカーなんて17歳の未成年が受け止めるには激重感情すぎるからね。


 まあどのみち回転寿司を楽しむにはタッチパネル渋滞が起きちゃいそうだから非現実的かな、と幸せな未来の計画は白紙に戻し、あたしは現実に向き合うことにした。

 おしゃべりしながら歩いているうちに、いつの間にやら決戦の舞台に着いてしまったみたいだ。


 研ぎ澄まされた視力(スキル)は長い通路の先を見通して──そこに待ち構えている、田野上太一郎君の姿を捉えていた。


「マヤちゃん、平気?」

「……うん。連れてって、アリアちゃん」


 それはもちろんどこまでも、とあたしは手の平をマヤちゃんに差し出した。




 * * *



 このあたりが限界だ。

 立ち止まり、あたしは前を見据えた──


 見つめ合う形になっている太一郎君も、同じように判断したと思う。

 あたしと彼との距離は長い通路の上、100メートルちょっと。ちょうど暗示の声を聞き取るにはギリギリ足りない遠さだ。


 太一郎君は通路の行き止まり、いかにもお宝でも眠っていそうな重厚な扉の前に、立ち塞がるように立っていた。高遠くんの姿は見当たらず、おそらくはあの中にいるんだろうなとあたしは息を吐く。

 好都合だ、戦いたくないのもあるけど、さすがに聖剣の相手をしながら暗示対策までは頭が回らないし。


 しばらく、無言で睨み合っていた。

 ここから数歩でも踏み出して距離を縮め、彼が口を開き、あらん限りの声量でもって言葉を発すれば、暗示はあたしの耳に届きスキルは発動するだろう。

 だけどそのためには必要なアクションが多すぎる。こっちは()()()で足りるのだから、どのみち太一郎君には勝機なんてないのだった。


 そして憮然とした表情のまま、太一郎君がその口をわずかに開きかけたのを、あたしの目が捉えた頃には。


 銃口から発射された弾丸が、太一郎君の()()()()()()をすり抜けて、背後の石壁に穴を開け終えた後だった。


「…………、は?」


 太一郎君が発せたのは暗示の言葉にはあまりに字足らずの、空気が抜けるような一文字だけだった。

 それも無理はない、何しろホルスターから銃を抜き、的に銃口を向け、弾が発射されるまでの動作全てが0().()0()2()()の間に行われるなんて、普通の人間の動体視力では何が起きたか分からないと思う。


 速度と命中力を極めた『早撃ち』スキル──

 人類の人類離れっぷりにほとほと呆れつつ、あたしはトリガーを引いたままハンマーを起こすと、そのまま一気に太一郎君目掛けて駆け出した。


 一瞬呆気に取られていた太一郎君だったけど、すぐに表情を引き締めると再び口を開いた。

 うんうん、さすがは選ばれし勇者だ。だけど残念ながら遅すぎる。『怯まない』って暗示を自分にかけておくべきだったね。


「と……」


 まれ、と彼が言い終えるより大分速く、あたしは二発目を撃った。

 けど走りながらの上、指に若干の一発目の反動も残ってたので少し照準がずれてしまった。ジャケットの脇腹を掠めた弾丸が、チッと生地を焦がしてから壁にめり込む。

 リトマス紙みたいに顔を一瞬でサーッと青くして太一郎君は絶句した。その隙に遠慮せずどんどん距離を詰める。


 あたしは「この卑怯者」と言いたげな顔をしながら懸命にスキルを発動しようとする太一郎君を、その度にギリギリ当たらないように早撃ちしながら走り、ついに彼の目の前まで辿り着いた。

 そして、


()()()!!」


 ようやくの第一声がばっちり耳から脳へと響き、発動した太一郎君の暗示スキルによって、あたしは文字通りその場に急ブレーキで立ち止まった。


 太一郎君は一歩も動いてないのに息を切らしながら、化け物を見る目であたしを睨み、痛そうに頭を振った。


「し、信じらんねー……真顔で躊躇なくパンパンパンパン撃ち過ぎだろ誤射ったらどうすんだよ! ……でもそのリボルバー、6発式だろ。もう全部撃っちゃったし、残念だけど君の負けだよ。アリアちゃん」


 太一郎君は床に転がる薬莢を見下ろしながら言った。

 そう、あたしの出番は予定通りここでおしまい。ここからは主役のご登場である。


「行け! マヤちゃん!」

「……犬みたいに言わないでくれる!?」


 あたしのブレザーのポケットから顔を覗かせた彼女──手のひらサイズの花木マヤちゃんの姿に、太一郎君は思わず目を見開いた。


 あたしは覚悟を決めた表情のマヤちゃんをきゅっと掴むと、太一郎君の頭上目がけておりゃーと投げる。

 そのままスキルを解いて通常サイズに戻ったマヤちゃんは、太一郎君の頭上から落下し、見事その鼻のあたりに激突することに成功すると、なだれ込むように二人まとめて床に倒れた。


「~~~~ッ!! いってぇ!」

「太一郎、歯ぁ食いしばりなさい!」


 マヤちゃんに押し倒された格好で鼻を押さえていた太一郎君は、頭上の彼女が腕を高く振りかぶったのを見て反射的に目を閉じた。直後──


 バチン!! と激しい音を立てて、マヤちゃんは頰を叩いた。

 左手で太一郎君の、右手で自分のほっぺを同時に。


「……………いて」

「……………いっったい!!」


 お互いに仲良く赤い手の平の跡を片頬に付けながら、太一郎君は軽く、マヤちゃんは激しく痛みに悶えた。


 ……さすがマヤちゃん、他人に厳しい子だと思ってたけど自分にはそれ以上に鬼厳しいタイプのようだった。すごい音がした、めちゃくちゃ痛そう。腫れちゃうだろうなあ、あとで冷やしてあげないと……。


 マヤちゃんは真っ赤な頬を撫でつつ、呆然としている太一郎君をキッと睨んで大声で言った。


「意地はってごめん!! 島で無茶した時、止めてくれてありがとうございましたっ!」

「………あ、俺も、相談もせずにスキル使ってごめん…………」


 完全に圧倒された形で太一郎君が返すと、マヤちゃんはほっとしたように笑い、ちょっと辛そうに目を細める。


「…………今回のことだって、私、反対するかもしれないけど、でも考えがあるならちゃんと話してよ……危ないからって勝手に除け者にして、突き放すようなことしないでよ」


 マヤちゃんは太一郎君の胸に手をついてどうにか身体を支えると、ふらつきながらも一生懸命言葉を紡ぐ。


「……この世界に来て、私を見つけてくれた時……『一人にしない』って、気休めでも言ってくれたのうれしかった……だから冗談でも、私なんかいなくても平気だなんて言わないでよ……」


 最後の方はもう、完全に目を閉じて、マヤちゃんはぱたりと太一郎君の上に倒れこんですうすうと眠ってしまった。スキルの代償だ、ここまでだって随分耐えていたんだろう。


 太一郎君は眠るマヤちゃんを起こすまいと慎重にその肩を抱きながら身体を起こし、あたしと目が合うと、苦笑しながら「役得でしょ」と情けなさそうに言った。


 や、役得なんてもんじゃねぇ……

 この代償すごすぎる!! いやそうか、あたしも空腹のあまり気を失ったフリをして抱きついちゃえばいいのかな!? やばいずっと自分のこと馬鹿だと思ってたけど天才なのかも!!


 ……とか目を輝かせていたら、呆れたように太一郎君はため息を吐き、片手で背後の扉を指差した。


「事情は全員揃ってから話すよ。そこに君の高遠くんがいるから。俺はしばらく動けそうにないから呼んで来て」


 言われて、一気に緊張が走る──高遠くん。嫌いと言われてからの初対面だ。

 あたしは胸の前で拳を握ると、きゅっと目を閉じた。

 今回ばかりは偉大なる愛読書のどんなスキルも頼れない。これはあたしががんばらなくちゃいけない戦いだ。


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