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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第4章 砂と硝煙の荒野

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砂塵の遺跡①


 出発の朝、街道を転がるオカヒジキを楽しく追いかけ回していたら、「そろそろ行くよ」とまたしても高遠くんにテンガロンハットを引っ張られてピーンと体が硬直した。

 ……「似合ってるよ」って言われて浮かれてたけど、これはもしやリード的なアレなのでは……? 


 大人しくすごすごとバックで回収されに行くと、高遠くんはあたしの頭に帽子を乗せかけて、ふと不思議そうに目を丸くしていた。


「ああ、これ? マヤちゃんが結んでくれたんだぁ。器用だよねっ、自分でやるとしめ縄みたいなっちゃうからさぁ」


 左右でゆるくふわっと三つ編みにしてもらった栗色の髪を揺らして、あたしは上機嫌に笑う。カウガールっぽくて気分が上がるね、武器は戦国時代だけどね。


「…………」

「どしたの高遠くん、真面目な顔して」

「いや……花木さんがパーティに加入してくれて本当に良かったなと思って」

「エ!? あ、そ、そうだよね、可愛い女の子がいると士気(モチベ)も爆上がりだもんね……!?」


 神妙な面持ちを横目に平静を装いつつ、やっぱり高遠くんてマヤちゃんみたいなそ落ち着きがあってお上品な奥ゆかしい女の子がタイプなんだぁと打ちひしがれる。どうしようそのビンゴ一個も該当してない、ここからのキャラ変はもはや記憶喪失のフリでもしないとあまりに不自然……!


 なんて落ち込みながら街の出口に向かうと、そこには見送りに集まってくれた街の人々がキラキラした目で待ち構えていた。さすがにしょぼい悩みを引きずる訳にもいかず、あたしは勇者の仮面を引っぱり出すとよこしまな考えに蓋をしてフンと姿勢を正した。


「悪いね用心棒さん。よろしく頼むよ」

「いえ。一応仲間の不始末ですから」

「街の大事な祭壇なんですもんね、ちゃんと取り返してみせます! ちなみに何を祈る祭壇なんです?」


 世界平和とか? それとも荒野だし天候関係とか?

 純粋な疑問に首を傾げていると、見送りの列の後方から長老風のおじいさんがスッと前に歩み出た。ヒゲに覆われた顔に苦しげな表情を浮かべ、元から細い目を更に細めて空を見る。


「……肝臓の……健康じゃよ……」

「肝……何?」

「この街は土地の呪いなのか、肝機能低下で早死にする男が多くての……なぜかは知らんが……。わしらは祭壇に祈りを捧げることで心安らかに昼から飲み……いや、粛々と生きてきたんじゃあ……あれがないと恐ろしゅうて恐ろしゅうて……」


 マイナーすぎる信仰を明かしながらぷるぷるする手で酒瓶に口をつけるおじいさんを、あたし達は高校生らしく生暖かいドン引きの目で見つめて口を引き結んだ。もうすぐ世界が終わるから飲んだくれてるわけじゃなかったらしい。

 ──申し訳ないけど、もし遺跡を崩壊させるような事態になったらその祭壇は容赦なく破壊しよう。三人心通わせ合い、無言で頷くのだった。



* * * 



 また馬を怯えさせても可哀想ということで、遺跡までの移動は新たな交通手段に頼ることとなった。その名も花木マヤちゃん(大)の肩である。


 ずしんずしんと軽快に揺れる座席の上で、空を行くような爽快感に笑うあたしの隣、高遠くんはまたもやキツく目を瞑って顔を青くしていた。


「吊り橋は大丈夫だったのにね?」

「花木さんには手すりがないから……」

「ちょっと訳分かんない悪口やめてくれる?」


 乗り物にされた上に低評価レビューを囁かれたマヤちゃんは怒り、あたし達は更に激しく揺らされた。わーお、遊園地に就職したら大人気アトラクションになれるね。


「それにしても花木さん、本当に乗せてもらっていいの? 代償もあるのに……」

「ええ、私のスキルじゃ遺跡内の戦闘ではあまり役に立てそうにないもの。その代わりトカゲ退治の方は主に二人にお願いすることになるだろうからよろしくね」

「うう……気乗りしないなぁ、発狂しちゃうかも……」

「大丈夫よ、アリアちゃんて常に軽く狂化状態みたいなものだし」

「なんの大丈夫???」


 あたしはむくれつつ、一応これ以上発狂しないで済むように事前情報を得ようと挙手をする。


「ねえマヤちゃん、あのトカゲって強いの?」

「弱いわよ。攻撃手段といえば爪ぐらいだし、頭が悪いから動きも読みやすいしね。ただ……恐ろしく数が多い上に、恐ろしく再生力が高いの。切っても切ってもまた生えてくるから」

「え?」

「切っても切っても?」


 聖剣使いと妖刀使い的に割と重要な情報に、思わず高遠くんと仲良くずり落ちそうになり、慌てて体幹に力を込める。


「じゃ、じゃあどうやって倒すの?」

「私みたいに踏み潰すか、あとは燃やすとかかしら? 再生が困難になるまでみじん切りにしても良いんだろうけど、本当にうじゃうじゃいるから単純に手間だと思うな」

「……切断耐性持ちとか、いきなり難易度が上がったような……」

「大丈夫よ、いざとなったら私が巨大化して全部跡形も無く潰してあげるから!」

「その全部には我々も含まれているのでは!?」


 ものすごく前途多難を感じる中、悲しいことにあたしの超視力スキルは視界の先、砂煙に霞む大きな遺跡の影を捉え始めてた。


「さあ敵の本拠地は目前。がんばりましょう! えいえい!」


 勇ましいマヤちゃんの掛け声に対し、あたしと高遠くんは「おー……」と力無く答えるしかないのだった。



* * *




 砂塵の遺跡は朽ちて荒廃した、古びた石造りの遺跡だった。

 マヤちゃん曰く中には祭壇を擁する円形広場が広がっていて、その先は狭い道が無数に枝分かれした迷路のような構造になってるみたい。


「とりあえず、敵は切ったらしばらくは再生するまで動けないはずだから。手当たり次第倒しまくってどんどん先に進みましょう。私じゃ役に立てなくて申し訳ないけど……」

「大丈夫だよマヤちゃん、太一郎君を見つけ出すまではあたしが守ってあげるからねっ」


 今度は先ほどとは逆に、あたしの肩の上にちょこんと座る手のひらサイズのマヤちゃんの頭を、ちょいと指でつついて笑う。


「……あの、アリアちゃん、私やっぱり歩いて行こうかなって……」

「何言ってるのマヤちゃん、トカゲに踏み潰されちゃったら大変だよ! あたしに全て任せてしがみついててね、大丈夫だよ安全運転を心がけてるし事故ったことないから!」

「事故る前はみんなそう言うものなんじゃないかしら……」


 あまりにも不安そうなマヤちゃんの囁きを耳に、意気揚々と薄暗い遺跡に一歩足を踏み入れた瞬間にエンカウントした、そこにぼんやり突っ立っていた見張り役っぽいトカゲ魔獣と。


「ウギャーーーー!!!」

「しまった、この席運転がどうとか以前に真横に口があるから鼓膜がやられるわ!!」

「花木さん、この遺跡反響が凄くて場所とかあんまり関係ないかも?」


 仲良く両耳を思いきり押さえてるマヤちゃんと高遠くんの声もうっすらと、あたしは悲鳴を上げてぶんぶんと刀を振り、敵の胴体を真っ二つにしながら脇目も振らず暗い一本道をまっすぐ加速する。

 く、苦行、勇者ってつらすぎる、これはもしかして神さまの勇者選抜基準に爬虫類耐性とかも設定されていたのでは!?


 ──なんて裏口入学を後悔しながら、道のあちこちに点在するトカゲを無心で切り伏せつつ進むと、ふいに目の前に光が見えて、開けた場所に出た。

 どうやらここが話に聞く円形広場らしい。息を切らしながらその天井を見上げて、あたしは間抜けに目をぱちくりさせてしまった。


「……あれが噂の祭壇なのか?」

「みたいね……なんとも即物的だわ……」


 少し遅れて追い付いた高遠くんも、頭上を見上げて呆れたように息を吐いた。あたしが切り損ねた敵や再生しかけていたトカゲもバッチリ切ってきてくれたみたいで、とりあえず背後から追ってくる気配はない。


 三人で見上げる先、神さまの遺跡らしく神秘的に天井付近に浮かぶその祭壇は、薄いガラスで出来た()()の形をしていた。

 中に何やら透明な液体が入っていて、吹き抜けになった天井から注ぐ光をキラキラと反射している。


「……一応神さまの遺産なのよね、聖水的なものである可能性も……」

「いや、十中八九アルコール飲料だろうな」

「飲んじゃダメな飲み物を守るために戦うのってモチベーションの維持が難しいなぁ……」


 現金なことをぼやいていたら、背後から響いた甲高い声に一瞬で現実に引き戻される。


『し、侵入者ーー!! 親分に怒られる、さっさと捕まえろ!!』


 トカゲのしゃがれた気持ち悪い声が広場にこだまして、その直後、無数に広がる通路からうじゃうじゃと気持ち悪いトカゲが湧き出

「キエーーーー!!」

「ああっ、アリアちゃんの発狂ゲージがMAXに!」

「何だって、そのゲージは空腹以外では大きく上下しないはずだったのに!?」


 人がパニックになってる隙に失礼言いまくる二人をよそに、あたしは直感で通路の一つを選ぶと全速力で駆け込んだ。

 後ろから追ってくる分は高遠くんに任せて、通路の先にいるトカゲをわんわん泣きながら切って切りまくりひたすら進む。

 うう、き、キリがない……!


「仕方ないわね……二人とも、そのまま立ち止まらずに走って!」

「え……? マヤちゃん??」


 マヤちゃんは突然あたしの肩の上で立ち上がると、勇ましく「とお」と石の床の上に降り立った。急には止まれなくてだいぶ後ろに置き去りにしてしまう。

 後方からは容赦なくトカゲが追ってくる。だけどマヤちゃんは逃げもせず、キッと前を睨むと、


「ちょっと伏せててね!」

「うわ!?」


 言った瞬間、マヤちゃんの周囲の天井と壁が爆発するように一瞬で崩れ落ちる。

 土煙に目を塞ぎ、しばらくして目を開けると──元来た通路は、瓦礫の山で完全に封じられていた。


「……ま、マヤちゃん……?」


 そんな……まさか下敷きに……?

 いやいやネズミのように上手いこと逃げてるかも……ていうかなんでいきなり通路が崩れ


「誰がネズミよ」

「キャー出たぁーー!!」


 手を合わせて即興のお経を唱えていたら思い切りほっぺをつねられた。痛い。


「ひゃい」

「さすがに死んでないわよ、自爆なんて最後の手段なんだから……。危ないからあんまり使いたくは無かったんだけど、今のは『一瞬巨大化して周囲を破壊してから即座に縮小化して離脱』って荒技。デメリットはどうしたってあちこちぶつかって痛いことぐらいね。……アリスって部屋いっぱいになって窓までぶち抜いておいて、なんで平然としてられたのかしら?」


 目の前にいたのは幽霊──じゃなくて、普通の大きさに戻ったマヤちゃんだった。だけど身体中擦り傷だらけで、愛らしいおでこには血が滲んでいる。


「ま、マヤちゃん! ごめんね、街に戻って手当てを……」

「これぐらい平気。死ぬわけじゃないし……そんなことより、もう後ろは気にしなくて良さそうだしさっさと前に進みましょう」


 マヤちゃんは代償のせいか眠そうに目をこすりながら、額の血を軽く拭って毅然と歩き始めた。

 つ、強い……やっぱり正真正銘の選ばれし勇者、トカゲなんかであっさり発狂するあたしとはやっぱり格が違うんだな。

 さて、とマヤちゃんは歩きながら呟く。


「……だいぶ深くまで来たから少し気をつけたほうがいいわ。奥の方にいるヤツは武器を持ってるはずだから」

「武器って?」

「この遺跡に貯蔵されてた遺産よ。いきなり撃たれたら厄介だわ」


 撃つ、という言葉に、船長さんがかつて握っていた金属の塊のことを思い出し。

 パン、と乾いた音が響いた頃にはもう、あたしは刀を鞘に収め終えていた。一拍遅れて驚く。


「……び、びっくりしたぁ」

「…………は!?」

「あ、雨宮さん今……!?」


 カンカン、と、()()()()()()()()()()()が石の床に落ちて転がる。

 さて愛読書(ギフト)によれば、偉大なる人類はエアガンの弾ぐらいなら刀で一刀両断できるそうだ。頑張りすぎである。


 実弾となると話は別なんだけど、さすがは魔力で鍛えられた妖刀。弾道に吸い着くように刃が滑ったかと思うと刃こぼれ一つなく綺麗に断ち切って、残った破片の勢いまで見事に殺して落としてくれた。

 スオウ先生、もしかしたらとんでもない貴重品をあたしみたいなのに託してくれたのかもしれないな……。


 しかしあたしが許せないのは、軌道的に狙われていたのは高遠くんだったってことだ。全く度し難い大罪だ、ボコボコにしなくちゃ気が済まない!


 ということで眼前を睨むと、ぽかんとした顔で拳銃を構え、首を傾げているトカゲと目が合った。見つめ合ってドキドキするには相手が最悪すぎるね。

 ……い、いやいや怯んでどうする、驚いてる今がチャンス! 


 勇気を出して一気に切り込もうと片足を踏み出した瞬間、だけど突然にゅっと目の前に何かが飛び込んで来て、固まった。


「…………………」


 血の気が完全に引いて、心臓やら呼吸やら大事なものが全部止まる。

 だって仕方ないと思う、()()()()()()()()()()()()()()()()()()の顔が目の前に垂れ下がって、その長い舌があたしの鼻先を掠めていたんだから。


 ヤモリタイプもいるんだ、とぼんやり思いながら、震える手が柄を滑ってもう手遅れだってことを嫌と言うほど教えてくれる。


「あー……」

「雨宮さん!!」


 高遠くんの叫び声が聞こえた時には既に遅く。

 完全に石像と化した隙だらけのあたしの額に、トカゲは重たい銃口をぴったりと押し当てていた。


 さっき撃ったばかりだからまだ熱いな。

 そんなことを思っている間にガチリとハンマーが上がる音がして、宣言もなく引き金は引かれてしまって。


 そうして放たれた弾丸はあたしの額ど真ん中に正確にヒットして、身体は床に崩れ落ちるのだった。


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