マカロニ・ウエスタン・ショー①
サボテンステーキ
★★★☆☆
思っていたよりもクセのない味わいで驚きました。やや粘り気があり、歯ごたえのある食感と合わさってオクラに近い印象を感じます。
ただ、わずかに酸味がある以外はほぼ無味。シンプルと言えば聞こえは良いですが、これまでピザやお寿司で大満足してきた身としては淡白で少し物足りなく感じてしまいました。
お腹いっぱい食べるには味付けにもう少し工夫が欲しいところです。やはり召喚される際に制服のポケットに焼肉のたれを入れておけば……と個人的な失態が悔やまれます。
魔王に侵攻されて大変な中だとは思いますが、私が無事に世界を救ったら、この異世界の人々にももうちょっと調味料開発に力を入れて欲しいと切に願います。
「……アリアちゃん、しばらく見ないうちにそんな真剣な顔で考えごとが出来るようになって……きっとこの先の戦いや世界の行く末について思いを馳せているんだよね。森で最初に会った時『この子の頭の中3割ぐらい食べ物のことだな』とか思ってごめんね」
「いや、多分そういったジャンルの考え事じゃないし、頭の割合も上方修正が必要かな」
サボテンをもぐもぐ咀嚼しながら真剣に一人で考え込んでいたら、マヤちゃんと高遠くんに何だかとても失礼なことを言われた気がする。
あんまり味のしないサボテンステーキを飲み込んで、あたしはふうと息を吐き手を合わせた。
「ごちそうさまでした。……改めて、助けてくれてありがとねマヤちゃん! 森ぶりにまた会えてうれしいよ〜」
「私もうれしい〜」
きゃっきゃと手を取り合って再会を喜び合っていると、隣のテーブルでおじいさんの団体がなんか知らんけどお嬢ちゃんたちにかんぱーい! とテキーラ的な液体を煽って大爆笑していた。
この荒野の町の住民は、皆とっても陽気だ。まだ夜でも無いというのに、大通りに位置する酒場は既に活気に溢れてガヤガヤと賑やかだった。
奢っちゃるわいとご老人に頂いた謎の透明なショットをイエーイありがとうございますと受け取ったら高遠くんに取り上げられてしこたま怒られた。ぐぬ……。
「さて、僕たちより先にあの島を出たって聞いてたから、運が良ければ追いつけるかもとは思ってたけど。花木さんはこの町にはどれぐらい滞在を?」
「一週間ぐらいかしら。魔獣との小競り合いで困ってるって言うから、ちゃちゃっと解決してさっさと出発するつもりだったんだけど、思いの外ややこしくて……そうこうしてる内に町の用心棒として雇われちゃったってわけ。ここは北大陸とは言え魔族の主戦場からはまだまだ遠い場所だから、そう易々と王立騎士団の助力も願えない状況みたいね」
用心棒、なんて言葉が違和感なく馴染んじゃうこの町は、荒野に相応しいさながら西部劇の舞台のような所だった。
木製の簡素な建物が並ぶ無骨な街並み、花も装飾もなくどこか荒々しい雰囲気。決して綺麗でも華やかでもないけれど、古き良き開拓時代って感じで、テーマパーク感があってあたしは嫌いじゃない。
馬に逃げられちゃったあたしと高遠くんは、たまたま用心棒として町の周辺をパトロール中だった花木マヤちゃん(大)に助けられ、そのままその肩に乗せてもらってこの町に辿り着くことができたのだった。
巨大化スキルを使ったマヤちゃんの標高はなかなかに壮観。さながら大怪獣、あるいは巨大ロボットに乗っているようであたしはわーいわーいと楽しみまくっていたけれど、高遠くんはなんと高い所が苦手だったみたいで、心を無にしながらずっと目を瞑っていた。
可哀想だけど、船酔いに続いて新たな一面を知れたことはちょっとうれしかったりする。今後高所で戦うことになったらはりきって頑張ろう。
そんなわけで、再会もそこそこにひとまず積もる話をする(及びあたしのお腹の音を止める)ためにこの酒場で一休みしていたんだけど……それにしても。
「ねえマヤちゃん」
「ん? なあに?」
ちらりと高遠くんを見ると、困ったような表情で小さく首肯された。
そう、なんか全然向こうから説明してくれないのでものすごく聞きづらいけど、さすがにいつまでもこの問題を無視し続けてはいられない。
あたしは高い樽型の椅子の上で、床に着かない足を所在無くぶらぶらさせながら、意を決して切り出した。
「太一郎君は?」
シン、と一瞬で酒場の喧騒が止み、その場にいた全員が冷や汗を流した。マヤちゃんが周囲に放ったとんでもない圧の殺気によって。
「何だっけこういうの……パンとドラ焼きの箱……?」
「パンドラの箱かな……」
戦慄するあたしの横で同じく恐怖に震えながら高遠くんは律儀にどうにか呟いて、その後沈黙した。
空間を完全に支配したマヤちゃんは感情を失った表情で、おもむろにテーブルの上のフォークを手に取ると、弄ぶようにくるくると回しながら言った。
「ああ……いたわね、そんな奴も」
さ、3人ぐらい殺った目だーー!
あたしの脳内で三つ子の太一郎君が親指立ててナイスな笑顔で全員昇天して逝ってしまった。
ああ田野上太一郎君、惜しい人を亡くした。良い片思い仲間だったのに。
大丈夫だよ太一郎君、君の分も勇者としてしっかり世界救済するからね……どうか安らかに……
「なむなむ……」
「いや、殺してないから」
泣きながら手を合わせてたらマヤちゃんに呆れられた。
でもおかげで恐ろしい殺伐オーラがいくらか和らぎ、マヤちゃんはため息をついてフォークの先で宙をつつく。
「端的に言うと、私たちこの大陸に着いた直後にパーティを解散したの。だからあいつが今どこで何をしてるかは知らないわ」
「解散? なんでなんで??」
腐れ縁だと言っていたし、あんなに仲良しに見えたのに。おろおろするあたしの横で、高遠君は腕を組んでふむと視線を落とした。
「きっかけはあの島で起きた事かな。花木さんは随分怒っていたようだ、って真白君は言っていたし」
「……あ、そっか、マヤちゃんたちも晴春君と戦ったんだっけ! でも確か負けちゃ」
ダーーーン、と頭のてっぺんに杭を打たれるような音がしてあたしは一時停止した。
お皿の上のサボテンにフォークを突き立てたマヤちゃんが、虚ろな目をしたままぽつぽつと呟く。
「はるはるくん……ああ、あの中二病少年ね。言動はともかく悪い子じゃなかったわ、手加減されまくったのは腹立たしいけど私が弱かったのが悪いんだし。あそこで止めてくれたのには感謝しなきゃとすら思ってるわよ、うん、別にいつか必ずシメるとか全然思ってないわ」
グサグサとサボテンを滅多刺しにしながら真顔で呟くマヤちゃんだった。
晴春君、早く追いつくっスとか言ってたけどやっぱり来ちゃだめかも!!
「……つ、つまり無茶をする花木さんを止めるために田野上君はスキルを使って強制的に戦闘を止めさせた。けどそれが花木さんとしては不服だった、ってことかな」
「太一郎君のスキル……『暗示』だっけ。まあやってることは命令、洗脳みたいなものだしね。意思を勝手に捻じ曲げられて怒るのは分からなくもないかも?」
あたしもかけられた側だから分かるけど、と思いつつ、でも太一郎君だってマヤちゃんの意に反することはしたくなかったんじゃないかなぁとしょぼくれる。
きっとギリギリまで悩んだはずだ、でもマヤちゃんが痛い思いをするのだけは耐えられなくて、苦渋の選択をしたに違いない。
「……別にスキルを使われたことに文句はないの。ああでもされなきゃ自分でも引き下がれなかったし。……ただ、ムカつくのは私に一言も相談しないでいきなり暗示をかけてきたことよ! いや正直あの時は相談されても絶対素直にうんとは言わなかったと思うんだけど、でも一声かけてくれても良くない? あれじゃあまるで私には何言っても無駄って思ってるみたいじゃない! まあ実際そうかもって自分でも思うんだけど!」
ガンガン、とサボテンを串刺しにしながらマヤちゃんが憤慨する。ああ穴だらけ、歯ごたえが失われてしまう……と思いながら、あたしは太一郎君を憐れんだ。
おそらく今の十倍ぐらいの勢いで憤りをぶつけられたに違いない。心中お察し申し上げます。
「それは目を瞑れたとしても……あいつ、『この先も同じようなことがあったら、私の意思は無視して暗示をかけるのか』って聞いたら『うん』とか言ったのよ!? まあ分かるけどもー少し言い方ってものがあるじゃない、それでもう頭に来ちゃって『ここからは一人で行く、着いて来たら絶交するから!』って捨てゼリフと共に巨大化して思わず数kmほど本気の全力疾走しちゃって…………。……えっと、まあ、その、そんな感じだから、もう私たち関係ないの」
一気に言い切ると、途端に意気消沈して、しおらしくうつむくマヤちゃんだった。それと同時に酒場に活気が戻り、あたしと高遠くんは目配せして首を横に振った。
あの太一郎君がマヤちゃんを大人しく放っておくとも思えないし、きっとそのうちひょっこり現れてくれるだろう。今どこにいるのか知らないけど、できればさっさと出てきて欲しいものだ、また酒場にブリザードを起こされても困る。
「……ところで、用心棒って言うけどこの町にはどんな問題が? 魔獣と対立してるって噂は聞いたけど」
「ああ、うん。この近くに、砂塵に覆われた古い遺跡があるんだけど。奥に祭壇があって、ここの人にとっては聖地のような大事な場所らしいわ」
わお、さっそく遺跡! 新武器ゲットの予感にあたしはわくわくと耳を傾ける。
「ところが数ヶ月前からある魔獣の群れに占拠されてしまって、街の人達はその遺跡を奪還しようと奮起し、逆に魔獣はこの街に拠点を広げようと狙ってる。……さして強い魔獣じゃないし、人語が解せるだけで正直頭も悪いんだけど……。最近、向こうに寝返った人間が指揮を取ってるせいで、妙に姑息な襲撃をするようになったのよね。だからちょっと手こずってるの。私一人じゃ敵の根城を襲撃するには至らなくて、せいぜいさっきみたいに直接は関係のない大型魔獣から町を守るぐらいしか役に立ててないわ」
頭のリボンをいじりながら、マヤちゃんは苦々しげにうつむき、「でも」と視線を上げて声を弾ませる。
「アリアちゃんと高遠くんが来てくれたなら百人力だわ。私たちで遺跡に乗り込んでひと暴れすれば万事解決だもの! ……あ、ごめんなさい勝手に。えっと、一緒に戦ってくれる……?」
途端にもじもじと不安げに言うマヤちゃんに、あたしと高遠くんは即答した。
「もちろん」
「暴れるのには自信があります〜」
マヤちゃんは花が咲くようにぱっと顔を綻ばせ、ありがとうと微笑んだ。
──直後、酒場の入り口から悲鳴が上がりあたし達は一斉に振り返る。
バーンと左右に勢いよく開けられたウェスタンなドアの向こうから、ぞろぞろと集団で侵入して来た人影は、人ではなかった。
その風貌を目にした瞬間、あたしはカタカタと震えて声を絞り出す。
「…………ト、トカ、ゲ……?」
それは爬虫類独特の、緑色の鱗に覆われた皮膚が生理的な嫌悪感を煽る──二足歩行のトカゲだった。
大きな目に裂けた口、ちろちろと伸びた長い舌がほんとうに無理、カナヘビも無理なのにこんなビックサイズほんと無理、と思いながらあたしは涙目で防犯ブザーぐらい震えていた。
すると先頭にいたトカゲが、その横方向に大きな口をパカリと開け、シューと息を吸い込んだかと思うと。
『昼間から呑気に酒とは余裕だな人間! まあ二度と飲めなくなるかもしれん味だ、今のうちに大急ぎで味わうと……』
「しゃ、喋ったあああああああ!!!」
『うわびっくりした声デカ……ふっふっふ、怖いか小娘!』
「きもいよきもいよー!!」
『ガーン……』
そう、あたしはモフモフは愛し崇めてるけど爬虫類は大の苦手なのだ! 食べられないし! よってこの状況ものすごく地獄!!
キエーと泣き叫んで抜刀していると、マヤちゃんがすっと前に歩み出て毅然とトカゲの集団に相対し言う。
「のこのこ現れて余裕なのはそっちじゃない。見たところ例の『遺産』も与えられてない下っ端のくせに、随分舐められたもんだわ。それとも返り討ちにしてもらいに来たの?」
『ムッ、出たな巨女! しかし今日がお前の命日だ、貴様にプチプチ踏み潰された同胞の無念思い知れ! ……というわけで親分、お願いします!』
「…………親分?」
トカゲの群れがサッと左右に割れ、その開けられた道を通り、外の光を背に颯爽と最前列に人影が進み出る。
その顔にあたしは息をのみ、高遠くんは目を見開き、マヤちゃんは子供が見たらまず号泣するような般若みたいな顔をしていた。
何しろ、
「ふっふっふ、ここが年貢の納め時。観念するんだな人間ども。今日からテキーラは水になり、一日三食おやつまでサボテン三昧になることを覚悟するがいい!」
万歳三唱するトカゲ魔獣を引き連れて筆頭に立ち、芝居がかった口調のあたし的に超恐ろしい宣言と共に腕を組みこちらを見下げるその人は──どこからどう見ても、田野上太一郎くんその人なのだった。




