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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第3章 鬼と刀の島

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戦う理由①


「じゃあ晴春君は召喚されてからずっと一人でここまで来たんだ。こんなにちっちゃいのにすごいねえ」

「いや年は一個しか違わないしこのサイズなのも今だけなんですけど……まあ馴れ合いを嫌う孤高の獣っスからね。大変でもなかったですよ、スキルがスキルなんで移動は飛ぶなり泳ぐなり何でもできるし」

「たぬきなのに偉いねぇ」

「あはは、……アリア先輩、なんか色々忘れてないスか?」

「よく言われる~!」

「褒めてはねーです」


 激闘を制し、無事に入山権を勝ち取って。

 いざ新たな仲間と共にこの勢いのまま魔族退治へ! ……と行きたかったところなんだけど。


 スキル乱用の結果腹ペコなあたしとモフモフな晴春君、絶賛代償支払い中なデバフ勇者二人を見かねて、高遠くんは一度スオウ先生の家に戻ってゆっくり休むことを提案してくれた。

 ありがたい、あのままだったらパンダの如く竹林に駆け込んで笹の葉をむしゃむしゃするのもやぶさかではなかったので……。


 なんて思いながら、胸の前に抱えるふわっふわの毛並みを撫でる。晴春君はあたしの腕に顎を乗せて、気持ち良さそうにきゅぷ~と喉を鳴らした。ああかわいい……。


「……真白君、そろそろ自分で歩けるんじゃない? 雨宮さんだって空腹でつらいんだし」


 さっきからずっと物言いたげに難しそうな顔をしていた高遠くんが、爽やかに提言した。さすが高遠くん、小動物におけるお散歩の重要性まで考えているんだね! えらい!


 だけど腕の中の晴春君はたぬきの顔であっても分かるぐらい露骨に嫌そうな表情を作ると、高遠くんに向かってべーとちっちゃな舌を出して威嚇した。かわいい。


「はァ? 無理無理むりっスー、俺様めっちゃくたくたなんで一歩も歩けないっス。ねーアリア先輩」

「うんうん、いいんだよかわいい子は無理して歩いたりしなくて。あたしも抱っこできてうれしいし。もふもふ税だよ」


 うりうりと眉間あたりをつついてあげると、晴春君はきゃっきゃと笑った。ああいいなあ、モフモフの生き物って……カメももちろんかわいかったけど、やっぱりふわふわであったかい小動物って格別だ。


「……ねえ高遠くん、ちゃんとお世話するからうちの子にしてもいい?」

「駄目。野生に帰してきなさい」

「やっぱり色々忘れてねーですか!?」


 キシャーと申し訳程度の牙を剥く晴春君だった。



 ──晴春君は幼少期より「自分には果たすべき大きな宿命があって、いずれ世界を救う存在になる」という確信があったらしく、神さまからの呼び声に二つ返事で異世界召喚を快諾したらしい。なんていうか結構筋金入りの末期患者だった。偉いことだけどね。


 それにしても晴春君、初対面ではツンケンしていたけれど、いざ話してみるとすごーく人懐っこくて良い子だった。きっと島を守らなければならないという責任感から(かたく)なになっていたんだろう。


 まあたぬきになった直後は大慌てであたしの腕から抜け出そうとして、


「あ、だ、駄目ですよこんなこと! 彼氏さんに悪いので!」

「え? 彼氏いたことないけど……」

「あ、まだそういう感じなんスか? じゃあ別にいいのか。……なーんだ、いかにも慣れてますみたいな顔して意外と慎重なんだな」


 というよく分からない短いやり取りの後に警戒を解いて、されるがままに可愛がられてくれていた。

 仲良くなれてうれしいな、動物と心を通わすにはスキンシップが一番って言うけど本当なんだね。


「へへ。どうせ変わり者ばっかりだろうし一匹狼でも良いやと思ってたけど、アリア先輩みたいな可愛い人が召喚されてたとはうれしい驚きっス!」

「あはは。一匹たぬきじゃん」

「いや着目してもらいたいのはそこでは……。あ、あの、年上の強い女の人っていいなーって前から思ってて!」

「? そうなんだ」


 女子プロレスとか好きなのかなぁ、とうなずいてたら、ふいに腕からもふもふ感がなくなった。

 ぽかんと上を見ると、高遠くんにしっぽを掴まれた晴春君が、逆さまになってパタパタ大暴れしている。


「何しやがるテメーー!?」

「雨宮さん、ちょっとこれ借りるね。男同士で話したいことがあるから」

「え? うん……」

「フザケンナこら、俺様は物じゃねー! 地獄の業火で魂ごと燃やし尽くしてやろーかこのっ、離せ、離してーー!」


 助けてアリアせんぱーい、と叫びながら竹林の陰に連れ込まれる晴春君を、手を振って見送る。

 高遠くん、有無を言わさないすばらしい笑顔をしていたなあ……。妙に口数が少ないと思ってたけど、そんなにモフモフに触りたくてうずうずしてたんだ。独占しちゃって悪いことしたな。


 数分ほどで高遠くんに連れられ戻ってきた晴春君は、たぬきの姿をしていなかった。人間態に戻り真っ青な顔でガタガタと震えている。何かこの世の地獄を見てきたかのような……。


「お待たせ雨宮さん。さ、行こっか」

「う、うん……。何の話してたの?」

「いや別に。大したことじゃないよ。ね? 真白君」

「ヒッ! そ、そーです、何でもないです、この世の摂理をありがたく説き伏せていただいただけっス、調子に乗ってすみませんでした、愚行を咎めて頂いてありがとーございましたシンヤ先輩ッ」


 ギュンッと音がするほど勢いよく深々と高遠くんに向かって礼をする晴春君だった。そんな彼の天を向いてる後頭部を見下ろして、高遠くんは涼しげに微笑んで「理解が早くて嬉しいよ」と頷く。


 な、なんかよく分かんないけど距離が縮まった? のかな? それはうれしいことだけど、あのすばらしい毛並みが失われたことは残念だ。また今度味わわせてもらおう。


「晴春君、高遠くんと仲良くなったの? よかったねえ」

「あ、ハイッ、よかったです、たぬき汁にされないで!」


 ビクッと震えて珍味なことを叫ばれてしまった。

 たぬき汁……? そんな可哀想なことできないなあ、やむを得ない状況を除けば。


「そう言えば雨宮さん、刀術スキルも使えたんだね。あいにく僕は時代小説には明るくなくて……」


 愛読書クイズの解答を諦めて悔しそうに目を伏せる高遠くんに、あたしもおんなじ〜と思いつつ曖昧に微笑む。いよいよ迷宮入りしてきたなぁ。


「でもうれしいな、欲しかったんだぁ近接武器♪」

「新しいスマホケース♪みたいなノリで言う台詞じゃないっスよアリア先輩」


 るんるんと刀を振り回して浮かれつつ、もともと使い古されていたところに竹林を一刀両断しまくったせいですっかり刃こぼれしてしまった刀身を見上げて、ありゃ~と眉根を寄せる。これじゃさすがに山を占拠しているという魔獣と戦うのは心許ないね。


「ねえ晴春君、この島に刀屋さんてあったりする? 帰りにちょっと寄って行きたいんだけど」

「コンビニ感覚なんだよな……ありますよ、ていうか昨日一泊したんスよね? スオウの爺さんの工房。あの人本業は刀鍛冶なんで」

「え? そうなの?」 


 なあんだそれなら話は早い、と思った直後、「ただ」と晴春君は悩ましげに唸る。


「……島民が俺様と一緒に山に登ろうとして、返り討ちに遭ったと言ったでしょう。その時みんな、反対する爺さんに頼み込んで刀を持たせてもらってたもんだから。もう刀は打たないし誰にも預けるつもりもないって暖簾を下ろしちまって……なので快く引き受けてくれるかは、正直望み薄っスけど」


 山に行きたがるあたしと高遠くんに、最後まで頑なに首を縦に振らなかった先生を思い、なんとも言えずにうつむく。


 先生から見たらあたし達だってイズル君やトーリ君と変わらない、守るべき子供なんだろう。

 武器なんて握らせたくない気持ちは分かる、ましてそれが自分の造ったものとなれば。だけどあたしはもう──


「……だけど僕達はもう、危険だからと言われて逃げられる立場じゃない。真白君に勝ったのは紛れもない雨宮さんの実力だ。それでも足りないなら僕がいくらでも証言するよ、雨宮さんは希望を託すに十分過ぎるぐらい強い勇者だってこと」

 

 後ろ向きになりそうだった背中をぽんと押すような高遠くんの言葉に顔を上げると、彼は安心させるようににこっと微笑んでくれた。


 赤くなる頬と胸のドキドキを押さえながらどうにか「ありがと……」とはにかむと、そんなあたし達を見て晴春君は呆れ気味に「いっそハッキリさせてくんねぇかなぁ、諦め着かないのが一番タチ悪いわ」と、またよく分からないことを呟いてげんなりしていた。


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