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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第3章 鬼と刀の島

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オクトパスパーティー①


 潮風が頬を撫でて、胸まで伸ばした栗色の髪が、通り過ぎた航路をなぞるように流れていく。

 青い空のてっぺんでジリジリと照る太陽に目を細めながら、あたしは胸いっぱいに息を吸い込んだ。海の匂いがする。


 波は穏やかで揺れは心地よく、生まれて初めての航海は心躍るものだった。

 甲板の縁に身を乗り出し、真下の海を覗く。船の進行に合わせて流れる、どこまでも深い鮮やかな青。

 吸い込まれそうなそれに、泳げもしないのになんだか胸がドキドキするのは、(ここ)でいくつもの記録を刻んできた偉大な人々の記録のおかげなのかな?


 キラキラと光を反射する水面(みなも)を見つめながら思う。

 ──ああそっか、好きな人と一緒に見る海だから、きっとこんなにも輝いて見えるんだ。


「……ねえ高遠くん」


 あたしは身を起こし隣を見た。

 誰もいなかった。


「……………」


 視線をやや下方に修正する。座り込んだ高遠くんが、抱きしめたバケツに顔をほぼ突っ込んで無言でうつむいている。…………。


「……背中さすろっか?」

「いい。むしろどっか行って、出すとこ見られたら死ねる」

「友達なんだから多少のことは気にしないよ?」

「限度ってものがあるだろ!」


 急に大声を出した拍子に高遠くんは「うー……」と口元を押さえまたバケツに潜り込んだ。

 ひょこっと覗く金色の髪が子犬のようでかわいいけど、出航して30分以上、ずっとこうして苦しんでいる。

 何とかしてあげたいなーと思うけど、こればっかりはあたしの数多(あまた)のスキルをもってしても仕方がない。



 ──無事に試練を乗り越えて、北の大陸へ向けて出航した海賊船の上で。


 危険と噂される海域を恐れることなく、勇猛果敢に舵を取り進ませるキース船長は、何かしらのお手伝いを申し出たあたし達を「ガキは海でも見てはしゃいでろ」と軽く一蹴して操舵室から追い払った。

 見た目は怖いけど意外と面倒見は良い人みたい、さすがギュスタさんの舎弟(?)。

 

 そんなわけで片思いの相手と二人っきりでクルージング・デート! と浮かれずにはいられなかったんだけど、あたしも、そして高遠くん自身も知らなかった。高遠深也くんはとんでもなく船酔いする男の子だって。


 


「高遠くんにも苦手なことってあるんだねえ……」


 運動も勉強も何でも人並み以上にできるのに、意外な一面だった。学校のみんなもきっと知らない、今のところあたしだけの高遠くんだと思うと、可哀想だけどなんだかうれしくなってしまう。


 そんな風ににやにや見下ろしていたら、うるんだ目でキッと睨まれた。


「……なんでだ……アーサー王は船で近隣の国に遠征してたはずなのに……」

「スキルに反映されなかったんだねえ」


 高遠くんの愛読書は戦う王様の物語。戦闘においては最強だったけど、あたしみたいな何でもありな汎用性には乏しかった。


 ──でもこの先の旅路では、恐らく早い段階で魔族との戦いは避けられなくなる。

 ちょっと人類に出来ることは何でもできる程度では、高遠くんに目の前で友達を失う心の傷を負わせてしまいかねない。それだけは避けないと。


 正直、得物が弓だけじゃ心もとないと思い始めていた。もっと殺傷能力が高くて近接戦闘にも耐えられる武器が望ましい、とか女子高生が悩まないことランキング上位っぽいことを悶々と考えてしまう。


 できるだけ早く愛読書に記された戦闘に使えるスキルに目覚めるか、もしくは高遠くんの『聖剣』みたいな、それ自体が超強力な武器をこの先訪れるどこかで手に入れられるといいんだけど……。


 うんうん唸っていると、高遠くんが死にそうな声でつぶやく。


「その、今は説得力ないけど陸に上がったらちゃんと守るから……そんなに心配しなくても……」


 深刻な様子でそんなことを言う彼に、思わずきょとんとする。


「心配してないよ? だって高遠くんはすっごく強いもん。ずっと見てきたからあたし知ってるよ」


 高遠くんは真っ青な顔を少し赤くすると、


「雨宮さ……う」


 直後に生じた大きな揺れで再びバケツの中に消えた。

 同時に、血相変えた船長さんが慌てて甲板に出てくる。


「お前ら急いで中に入れ! 大時化(おおしけ)だ、海洋大型魔獣のお出ましだよ!」


 あたしは弓を構え、高遠くんはバケツに首を突っ込んだまま聖剣を抜いた。


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