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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
第2章 潮騒と喧騒の港

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エピローグ


「──するとなんということでしょう、トンカツ10枚分にも満たなそうだったかわいい子ブタが、マリアに魔石を埋め込まれた途端見る見るうちに山ほど大きな凶悪イノシシに!」

「へー」


 クライマックスを迎えた渾身の情報提供~獣飼いのマリアと3匹どころじゃない大豚~の物語に、サリさんはチチチと指に舞い降りた小鳥を撫でてやりながらどうでもよさそうに相づちを打った。完。


「……あの、もうちょっと驚いたりとかないんですか? お望みの報酬だったのに……」

「いや? 興味深い話だったぜ。しかしあいつも下手を打ったな、少年とお嬢ちゃんを侮らずにそこで始末しておけば脅威には育たなかっただろうに。まあいずれ首を落とされる時に後悔するのはあいつの落ち度……とは言っても、あれは首を切ったところで死なないんだけどな」

「……随分詳しいんですね」


 険しい顔をして言う高遠くんに、サリさんは何も言わずにこりと笑って見せる。

 それから、まるで結末を知っている本を長々と音読された後のように、くああと退屈そうにあくびをこぼした。


 ──遺跡攻略という一時的な協力関係を終え、約束だった魔族の情報提供も済み、正式にサリさんはあたし達のパーティから離脱した。

 これから南に向かうそうだ、この根無し草っぷりが板に付いた自由人がギュスタさんと上手くやっていけるのか非常に心配なところではある。


 港町の運河にかかる橋の上に3人で並び、あたしがひとたび黙るとまた沈黙が流れた。


 うーん、あたしが話した魔族・マリアの情報、外見的特徴から言動、能力といったところまで結構な有力データだったと思うんだけど、サリさんの反応はイマイチだった。


 最前線に長くいたみたいだし大したネタじゃなかったなら申し訳ないな、まあもともとリアクションの薄い人ではあったけど……。


 渋い顔のあたしを覗き込み、「まあマリアのことはさておき」とサリさんは笑う。

 彼はトン、と指で自分の心臓のあたりを突くと、見透かすように目を細めて言った。


「俺はむしろ、そろそろお前らについての話の方を詳しく聞かせてもらいたいけどね。……世にも珍しい話だ、本来魔力があるはずのスペースに、()()()()()()()()が収まってる人間が二人もいるなんて」


 あたしと高遠くんは同時にバッと胸を押さえて、青ざめながらサリさんを凝視した。ま、まずい、さすがは高位魔術師、愛読書(ギフト)のことまでお見通しだったとは!?


 だけどサリさんはあたし達の慌てふためく顔を見るとそれだけで満足したようで、にこにこと上機嫌に頷くとこう続けた。


「ま、興味深くはあるが、遺跡攻略後に長話まで聞いたからな。俺も久方ぶりに疲れた、そいつは次に会った時の楽しみに取っておこう」


 くっく、と笑うサリさんに、あたしは思わずぱあっと目を輝かせて尋ねる。


「サリさん、また会えますか?」

「ああ、俺も活動拠点は北の方だからな。お前らが死んでなきゃそのうち会うこともあるだろう」

「……次会うときも、味方(こちらがわ)ですか?」


 高遠くんは張りつめた声でそんなことを尋ねた。あたしは意味が分からずぱちくりと瞬きをする。

 サリさんは首を縦にも横にも振らず、口元だけで笑った。


「さあな。()()は気まぐれなんだ──気の向くまま、好きなようにさせてもらうさ」


 そう言ってあっさり立ち去ろうとする背中に、高位魔術師さんて自由人の集まりなのかな、と首を傾げつつ、また会えるといいなあと小さく手を振る。

 だけどサリさんはふと思い出したように足を止めて、まず高遠くん、それからあたしを見ると、「ああそうだ」と指を立てた。


「お嬢ちゃんの持ってる本、攻撃手段は足りてそうだが防御が貧弱じゃないか? 遊んでもらった礼に一つ、冒険を助ける超高レベル防御魔法をかけて進ぜよう。面白い奴が死ぬとつまんないからな」


 あ、遊ばれてたんだ……。

 でもこれは願ってもないボーナスイベント! 高位魔術師さんの高レベル魔法なんて、王都でお願いしたら普通にとんでもない額を請求されそうだし。

 

「はい! ぜひよろしくお願いしますっ」

「ちょっと目ぇ閉じてなー」

「はーい」


 あたしは言われるがままにドキドキしながら目を閉じて待った。なんだかおでこがスースーする。あれ前髪どこいった、と思っている間に、()()はほんの一瞬だけ優しく触れて、すぐに離れた。


 ………………?


「これでよし。たぶんすぐに守ってやれるぜ、北大陸に入った直後ぐらいで」


 サリさんはあたしの前髪を指で整えながらやけに具体的に言うと、海から吹く風にローブをはためかせながら、朗らかに笑った。


「なかなか悪くなかったよ、お前らとの冒険ごっこも。……それじゃあ、せいぜい死なずにがんばってくれよな」


 呆然と立ち尽くすあたし達を取り残し、サリさんは一度指を鳴らすと、まるで幻だったみたいに姿を消してしまった。


 あたしはおでこにぺちりと手を当てる。

 そしてそこに触れた柔らかくて少しあったかい、知らない感触を思い出す。


「いったいどんな魔法を……?」


 最後まで謎な人、とぼんやり彼がいたはずの空間を見つめていたら、妙に静かだった高遠くんがいきなりマントを翻し超高速であたしのおでこを拭き始めた。ギャ──!?


「あ、熱い、摩擦でめっちゃ熱いっ、痛いよ高遠くん!」

「本当にごめん。もうちょっと我慢して」

「もうちょっととは??」

「表皮の第一層が研磨されるまで……」

「真顔で怖いこと言わないでよー!!」


 ぎゃあぎゃあ泣いているあたしを見て正気を取り戻してくれたのか、高遠くんはハッとした表情で口元を押さえ真に迫る声で言った。


「ごめん、まずは流水で洗い流すべきだった……!」

「仲間の頭を掴んで運河に沈めようとしながら言う台詞じゃないよ!!」


 必死に抵抗して殴り合いに発展する勢いで言い争った後、渋々高遠くんは手を引いた。何その「納得いかね~~」みたいな顔??


 高遠くんは結局その後も何でだかずっと不機嫌で、まあそんなレアな姿も見られてラッキーかなと、あたしはまんざらでもなく怒涛の一日を終えたのだった。


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