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剣士、魔法使い、弓使いの晩餐


「というわけでこちらがガス、水道、電気、空調の魔法を自在に操る高位魔術師のサリさんです!」

「何て?」

「火、水、雷、風の魔法を自在に……? そんな人が何故この街に」

「いや読解力高いな少年」


 無事に取り調べルートを回避して、魔術師なサリさんを連れて高遠くんの所に戻ると。

 あたし達は自己紹介&親睦会も兼ねて、宿の一階に併設されたレストランで一緒に夜ご飯を食べることになった。


 日も沈み、星空と街灯が照らす運河沿いのテラス席はとってもロマンチック。

 ちなみに本日のディナーコースはエビのカクテルサラダ(エビ抜き)、海鮮スープ(海鮮抜き)、ペスカトーレ(魚介類未入荷)となっております。

 最高だね、絶対に海洋大型魔獣を沈めてやるという強い意志が胃から湧き上がってくる。


 だけどそんな素敵なロケーションの中、無事に目下の難題だった魔法使い問題も解決したと言うのに、高遠くんはサリさんを見た時からずっと浮かない顔をしていた。不機嫌と言うか。


 サリさんはと言えば、そんな高遠くんの顔を実に愉快そうに目を細めてニコニコと眺めている。高遠くんの国宝級顔面の美的価値は万人に通ずるからね、笑顔になるのは自然の摂理。うんうん。


 魔術師さんて頭も良さそうだし、あたしよりは気が合いそうだけどなぁ。対照的な2人の表情を交互に見比べながら、あたしはサービスのおかわりパン(n回目)をもぐもぐと頬ばった。おいしいおいしい。


「ところで雨宮さん、街中で事件があったみたいだけど大丈夫だったの? 宿でも騒ぎになってたから心配してて……」

「大丈夫だよー。事件てどんな?」

「今まで誰も騙されなかった悪徳詐欺占い師にあっさりカモにされた子供がいて、大号泣の末に突然の雷に打たれて運河に流されて闇に消えたとか……」

「そ、そうなんだー、こわーい」


  冷や汗が滝のように流れ、あたしは水をあおった。大きな尾ひれがついてるけど概ね事実!


 そのへん掘り下げられちゃうと恋占いをしたこともバレちゃって、その内容を追求されちゃったりすると非常にまずいので、あたしは向かいに座るサリさんに救いを求めてちらりと視線を送る。

 サリさんはまた愉快そうに笑って、大人っぽく片目を閉じて応じてくれた。ありがとう共犯者、とあたしはそっと口止め料(パン)を彼の皿にのせてフッと目を閉じる。


「なにが『釣りはいらねぇぜ』なんだ、俺の奢りの食事で店員が持ってきたパンだろう?」

「もー、なんで言うんですかこっそりやってるのに!」

「……仲が良いんですね、本当に」


 手際よくパスタをフォークに巻き付けながら、高遠くんはまた気のない感じで呟いた。

 うーん、やっぱり調子が悪そう、今まで物盗りのおじさんや海賊相手にだって爽やかな笑顔と礼儀正しさを崩さなかったのに。

 さっきの騒動の間に少しは眠れたみたいだけど、まだ疲れは取れてないよね。明日の遺跡攻略ではあんまりスキルを使わせなくても済むようにあたしが頑張らないと!


「あ、そういえば……港が封鎖されてるのに、サリさんはどうやって王都からこの街まで来たんですか? あたし達と同じで、来たばっかりみたいなこと言ってましたけど」


 空気を変えようと話題を振ると、サリさんは「んー」とミートボールの刺さったフォークを振りながら少し考えた。ああ、お肉おいしそう……。


「お嬢ちゃん、一口食べるかい?」

「わぁいありがとうございますミートボール大好き!」

「餌付けしないでくださいよっ」


 差し出されたフォークにあーんと口を開けて身を乗り出しかけて、高遠くんに両肩を掴まれ引き戻された。ああお肉。


「協力を頼んでおいて何ですけど、その辺りは説明しておいてもらいたいです。高位魔術師は貴重な戦力として、最前線への配備が義務付けられているはずでは? 調査のためとは聞きましたが、件の魔族が出没したのはこことは別の町でしょう。悠長に民間人の遺跡攻略に付き合うような暇は無いのでは?」


 厳しく問い詰める高遠くんに、しかしサリさんはその涼しげな表情を一切崩さないまま、


「南にはちょうど向かう途中だった。そこへ有力な情報提供者が現れて交渉を持ちかけられたから応じただけだ。遺跡なんて半日もあれば攻略出来るんだから現地調査はそれからでも遅くはないだろう。まあその町に、このお嬢ちゃん以上に獣飼いと濃密に接触した人間がいるなら話は別だけどね」


 と、もっともらしいことを言って上品にミートボールを味わっていた。エリュシカはパニックになってて声も覚えてないって言ってたし、確かに今のところ情報を握ってるのはあたしだけかも?


 高遠くんはサリさんの回答に物言いたげに眉根を寄せたけど、概ね内容に異論はないようで「……分かりました」と殊勝に頷いた。

 うーん、まあ確かにちょっと怪しいかもだけど、助けてくれたし、お肉を分けてくれる人に悪い人はいない気もするし……?


「少年。疑り深いのは悪い性分じゃないが今は仲間だろう? 別に俺に隠し事はないし、他に知りたいことがあるなら今のうちに聞いておけ。俺は大人だからな、何でも正直に答えてあげよう」

「……高位魔術師の身分を証明する物は?」

「実力が見たいのか? 燃えて溺れて吹き飛んで感電したいって言うなら別に止めはしないけどな」

「魔法の習得には数十年を要すると聞きましたけど年齢は?」

「君よりは年上だろうな」

「ご出身は」

「ここよりは北だなあ」

「ご趣味は!?」

「反応の面白い人間と会話すること」


 険悪なお見合い問答みたいなやり取りを繰り広げる二人、高遠くんの真剣さに対してサリさんは明らかに遊んで楽しんでいた。なかなか終わらなそうだなー……。


 ていうか目を引く二人が夜中に大声で喧嘩してるのでさっきから悪目立ちしてて、通りを歩く人々に二度見されまくっていてすごく居心地が悪い。


 夜に映える金髪に、キリッとしつつもちょっと甘めな正統派王子様フェイスをお持ちの高遠くんは言わずもがな。

 シュッとした輪郭に切れ長の目、弧を描くような薄い唇がミステリアスな雰囲気を醸し出すサリさんは対照的な魅力があり、間に挟まれるあたしはさながらモブのレフェリーだった。

 そろそろ止めた方がいいかな、でもまだパンの咀嚼が……(カスの審判)


 なんて考え込んでいたらサリさんはくっくと目を細めて満足したように笑い、敵意むき出しな高遠くんを余裕たっぷりに見下げるようにして、事も無げに言う。


「なあ少年、俺を信用できないのは勝手だが、そもそも自分が蒔いた種だとは思わないのか? 俺が止めに入らなきゃ今ごろこのお嬢ちゃんは闇市に安値で売られて、道楽貴族の玩具にされてたかもしれないんだぜ? 感謝してほしいぐらいだね。まさかこの子が泣いてた時に、呑気にベッドで気絶してたわけじゃないんだろ?」


 サリさんの言葉に、高遠くんはぐっと奥歯を噛んで悔しそうに俯いた。そんなに責任感じなくてもいいのにな、ついてこないでって言ったのあたしだし。


 出会った切っ掛けは「危ないところを守ってもらった」と濁して伝えたけど、その時も高遠くんはひどく自分を責めるような顔をして落ち込んでいた。


 ていうかその再就職先でもそこそこやっていけそうだな、芸ならおでこでクルミ割りとか200回以上できるし、と胸の愛読書(ギフト)に手を添えながら遠い目になる。何してんの人類??


「……ありがとう、ございました。ご協力感謝します……」

「どういたしまして」


 ものすごく嫌そうに苦々しく声を絞り出した高遠くんに、サリさんは「よくできました」と言いたげに今までで一番の笑顔を浮かべた。


 そんなこんなで皆殺しの聖剣使い・百発百中の弓使い・高位魔術師の即席パーティが無事に結成され、明日の古代遺跡攻略に向けて親睦を深めることができたのだった。

 …………できたのかなぁ?


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