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恋する少女の異世界記録 〜スキルが強すぎてヒロインになれません〜  作者: 花苗カナ
後日談

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聖女と妹と、ときどき義弟

 

 過去問の採点を終えると、上々の出来に大きく伸びをした。

 12月も後半に入りいよいよ受験も大詰めだが、さすがに3回目ともなれば経験値カンスト感があり手応えも大きい。後は例年猛威を振るう不運に負けないよう神に祈るのみだ。


「神……いや、神なんてろくなもんじゃない」


 二人ほど会ったことがあるが、総じてダメダメな奴らだった。祈る価値もない。自力でがんばろう。


 というか、その神の片割れとは実はある意味同居状態なんだけど。

 しかしその入れ物たる妹の帰宅がやけに遅いことに、オレは壁の時計を何となしに視界に入れて気づく。もう19時を回っていた。


「18時にはおなかすいたと騒ぎ出すのに……どっかで餓死してんのか?」


 携帯を見るも特に連絡はナシ。怪訝に思いつつ、とりあえずオレも腹が減ったので勉強は切り上げてキッチンに向かうことにする。今日は両親とも帰りが遅いので、あるもので適当に調理しなければならない。

 ちょうど一階に降りると、玄関からガチャンとドアが閉まる音と靴音が耳に届く。ようやく帰って来たらしい。


 しかしいつもは二階に響くほど大声で「ただいまー!」と宣言するそいつが今日は無言だった。

 そんなに腹減ってんのか、と心配になりやや早足で向かった先で見たものは。


「……………」

「……あ、あれ? お兄ちゃん? なんで家にいるの!?」


 幽霊でも見るかのように目を丸くしてオレを見て焦る妹・雨宮アリアと、


「……どうも、お兄さん。お邪魔します」


 そんな妹と仲良く手を繋いだまま、冷ややかな目でお利口な笑みを浮かべる妹の彼氏、高遠深也君の姿だった。


「お、お兄ちゃん、今日は予備校の冬季講習に行くから遅くなるんじゃ?」

「あー、なんか講師がインフルになったとかで中止。感染するのも怖いし今日は引きこもりに変更……ってなんだよ、オレがいると何か悪いのか?」

「そ、そそそそんなことないよっ、ねっ高遠くん??」


 冬だというのにだらだらと汗をかきながら、妹はくいくいとタカトー君の制服の裾を引き、口の動きだけで「ごめんね」などと申し訳なさそうに眉を下げた。


 そんな妹にタカトー君はその王子様面を遺憾なく発揮した爽やかスマイルでにこりと微笑むと、優しく首を振った。あいかわらず目がチカチカするような顔面だ、サングラスを持って来れば良かった。


「せっかく来てもらったとこ悪いけど、今日の夕飯は有り合わせだぞ。インスタントラーメンで良ければ一緒に茹でるけど」

「いえ、お構いなく。外で二人で食べて来たので」


 放課後デート帰りだった。爆発すればいいのに。

 ……ていうかアレか、「今日うちに誰もいないの」とかいう即死呪文を唱えた妹とキャッキャウフフとおうちデートに乗り込んだら予想外の兄の在宅に絶望、みたいなシチュエーションかコレ。だからあんなゴミを見るような目で冷ややかに妹の彼氏に見下されてんのかオレ。 泣きたくなってきた。


「……コンビニで時間潰して来よーかな……」

「いえ、お気遣いなくお兄さん。急にお邪魔してすみません。そんなに長居はしないので」

「えっ、高遠くんすぐ帰っちゃうの?」


 しゅーんと肩を落とすアリアに、タカトー君はくすりと笑って、少し身をかがめて耳元に口を近づけると小声で告げる。


「そう。だからその分中身は濃く……この前より先に進めるようにしよう」


 とんでもない発言に石化していると、妹は頬を赤らめて「う、うん。がんばる」などとのたまった。なんじゃこりゃ、兄の面前で。オレは背景の草木か?


 そうして固まっているオレの前でタカトー君は慣れた手つきで脱いだ靴を揃えると、


「後で皆さんで食べてください。お父さんとお母さんにもどうぞよろしく」


 上等そうな菓子折が入った紙袋を手渡し、上機嫌の妹に連れられ二階へと去って行った。


「……外堀を埋めるスキル??」


 妹の初めての彼氏の手腕は実に鮮やかだった。

 記憶を取り戻してから一週間も経たないうちにあれよあれよと両家の両親にさり気なく顔見せを済ませ、アリアはその持って生まれた人懐っこさと人畜無害さ、タカトー君は天性の爽やかさ誠実さでもってあっさり大人達の懐に入り込み懐柔することに成功したのだ。騎士の王も驚きの攻め落しっぷりだった。


 あのドス黒王子様が我が義弟ぎていになる日は確実に近づいている、そのことを思うと、オレは憂鬱にならずにはいられないのだった。なんか怖いし、オレより背高いし。


 不要な精神的ダメージを受けた。もう飯食って風呂入って寝よっかな、そう思った直後だった。オレの『お兄ちゃんセンサー』が反応したのは。


「……ハッ。アリア!」


 説明しよう、お兄ちゃんセンサーとは、放っておくとすぐに死ぬ妹を持って生まれたかわいそうな兄にのみ備わる第六感、すなわち妹が泣いていると瞬時に直感が働くという機能なのだ! 仕組みはよく分からん!


 オレは階段を駆け上がると、妹の自室のドアノブに手をかけて勢いよく──いや、さすがにそこでちょっと躊躇した。彼氏と二人きりのとこに乗り込んで行くのは流石にちょっとか……。


 それにあのタカトー君がアリアを泣かせるようなこと好き好んでするとも思えないし。オレは悪いと思いつつドアに耳を当てて中の様子を探ることにした。


「…………ひっく…………どうして、どうしてそんなこと言うの……?」

「お互いのためにこうするのが一番いいんだ……例え今は辛くても、後で良かったと思える日がきっと来る」

「……やだ、やだよ……お別れなんてやだ……せっかく一緒にいられるようになったのに……あたし、こんなの耐えられない……!」


 …………。

 室内から微かに聞こえる会話に愕然とする。

 これはまさか……もしかしなくても別れ話ってやつでは!?


 なんてこった、確かにタカトー君とアリアじゃエベレストと幼稚園児の作った砂山ぐらいの差があると思ってたけど、こんなに早く見限られるなんて。


 ……いや、そりゃうちの妹はアホだし食い意地張ってるし頭悪いしエンゲル係数やばい奴だけど、だからってこんな唐突に突き放して泣かせるなんてさすがに兄として見過ごせない!

 オレはドアノブを掴むとバーンと吹っ飛ぶ勢いで開け放ち、室内に殴り込み声を張り上げた。


「見損なったぞタカトー君! そいつにエサをやったからには最後まで責任持って可愛がって……やらないと……?」


 言いながらトーンダウンして、その光景をぽかんと見つめる。


「う、うう〜……」

「ハイそこ違う、二乗じゃなくて三乗。さっき確認した公式も間違ってる。やり直し」

「ま、またー!? もうやめようよ高遠くん! 休憩、休憩しよ?」

「駄目だ。この問題が解けてからって言ったでしょ。この前より先に進むって言ったのに1ページも進んでないじゃないか」

「うわーん高遠くんの鬼、阿修羅、大魔王〜! いや魔王はあたしだけど……ハッ、その手があったかさては天才だなあたし、魔王さん、魔王さんヒントくださーい!!」

「その人は冬眠中だよ」

「つーか異世界の神でカンニングしようとすんなよ……」


 我が妹ながらアホすぎて思わずツッコミ入れつつ、半目で目の前を睨む。


 妹の部屋、中央のローテーブルの上にはノートと数学の教科書。それに向き合いわんわん泣きじゃくるアリアの隣で、赤ペン片手に冷徹な王の如き無表情で腕組みをして姿勢良く正座するタカトー君。

 その有り様は付き合いたての彼氏彼女のおうちデートというよりは、そう……


「家庭教師とダメ生徒……」

「こ、こんなのおかしい、間違ってるっ、せっかくいちゃいちゃできると思ったのにー!」

「だから一問正解したら一いちゃいちゃって言ったでしょ、ほらシャーペン持って」

「その条件じゃ今日はノーいちゃいちゃの可能性もありよりのありじゃんー! ひ、酷い、楽しみにしてたのに、ぎゅーってしたいの一時間目から我慢してたのにっ!」

「はあ!? な、なんか物欲しそうな目してるなと思ったら教室でそんないかがわしいことを……てっきり早速お腹が空いてるんだと微笑ましく……」

「そーやって何でもあたしの腹ペコのせいにすればいいと思ったら大間違いなんだからね! いいから細かいことは気にせずいちゃいちゃしよ? ね? 高遠くん好き好きー」

「ぐ……いや、駄目。言われたでしょ、来週の再テストも赤点だったら冬休み返上だって。そもそも進級も危ういんだから、このままだと俺たち4月からは学年バラバラだよ」

「そ、それは嫌……! だがしかしこの問題が解けるとも思えませーん! 不死殺しの方が楽勝だったよー!」


 頭を抱えて床に寝転ぶ妹だった。そういうことか……。

 一転逆転タカトー君に同情せざるを得なかった。まあオレはお兄ちゃんなので、妹が苦しんでる以上どっちの肩を持つかは明白なんだけど。


「まあまあタカトー君、こいつはニンジンぶら下げるよりニンジン食わせながら走る方が良いタイプだから……それにそんなに目くじら立てなくてもダメなもんはダメなんだし、意外と先輩後輩ってのも良いもんだぜ?」

「他人事だと思って……あのですねお兄さん、こっちは諸事情でGWも夏休みも文化祭も修学旅行も全部他人として終了してるんですよ!! この上学年まで離れたらますます一緒にいる時間が無くなる、これは死活問題なんです!」

「うわー顔が良い奴のマジギレって怖い……。仕方ないアリア、プレゼンしてやれ。小首を傾げて下の名前+先輩だ、出来るな?」

「はー? ……………深也(しんや)せんぱい?」


 こてん、と首を傾ける妹を凝視して、タカトー君は一時心肺停止した。

 そしてめまいでも覚えたのか目元を手で覆いながら、何かを噛みしめるように重く呟く。


「……………雨宮さん、もう勉強頑張らなくて良いよ」

「はっ!? なんかそれはそれで嫌なんだけど! や、やっぱり頑張る、一緒に卒業したいもん。見ててね高遠くん、あたし絶対にこの問題解いてみせる! だからちゃんと解けたらいーっぱいいちゃいちゃしようねっ!」

「う、うん……」

「死亡フラグだぞ妹よー」


 まあ言うまでもないが、その日この二人がいちゃいちゃすることは無かった。がんばれ高遠くん、君の未来は前途多難だ。




 * * * * * * *




 地球上で今一番可哀想な男子高校生ことタカトー君が無念の帰宅をした後、アリアは頭の使いすぎで烏の行水でぐーすか眠り、オレも何だか疲れて、日付けが変わるには余裕があるが早々にベッドに横になっていた。幸せそうにいちゃいちゃしやがって。


 まあ無理もないか、妹の独断で何ヶ月も引き裂かれていたようなものだ、その分を取り戻すようにいちゃつきたくなるのも分からないでもない。

 だけどあの二人を見てると、思い出さないようにしていた未練が頭を掠めずにはいられない。


「……元気で、いてくれれば良いけど」


 平和になった異世界で聖女として、きっと忙しく過ごしているに違いない。オレのことなんて思い出す暇も無いほどに。

 かつて交わした約束を、たぶん覚えているのはもう自分だけなのかも知れない。そんなことを思いながら、思考はゆっくりと微睡みの中に沈んでいった。






 冬の日差しの微かな温かさに意識が浮上する。朝だ。昨日の夜なんだかんだ滞った分の勉強に取りかからなければ。


 だけど何だかベッドのぬくもりが心地よく、起き上がろうとも試みずに布団の中で緩慢にごろりと寝返りを打った。サラサラの長い髪が鼻先を掠めて、くすぐったさに目を開ける。

 …………サラサラの長い髪?


 金の絹糸のような、朝日にキラキラと輝く綺麗な髪だった。

 オレはぼんやりとしたまま、その髪のひと束を掬い、ゆっくりと視線をその先へと辿らせ──


 そして、一気に意識を覚醒させた。

 驚愕に見開いた視界の中で、()()はベッドの上、未だすやすやと健やかな寝息を立てる。


「な…………」

「んん……」


 むずがるように長い睫毛を揺らしながら瞼を開き、現れた青い宝石のような瞳が、オレを映した瞬間一層キラキラと輝く。

 言葉なんて忘れてしまったように沈黙する間抜けなオレに、彼女は──目の前に横たわるノエルは、くすくすと笑った。


「びっくりした顔、アリアちゃんにそっくりです。やっぱりご兄妹ですね」

「やめてくれ何て酷いことを、それは人類が考え得る最大級の悪口で……いや、ていうかお前、どうやって異世界からこっちの世界に来た!?」

「ふっふっふ。退職祝いを頂いたのです」

「退職?」

「はい。聖女を辞めてきました」


 いえい、といかにも慣れてなさそうなぎこちないピースをしながら、ノエルは笑った。


「辞めた? ああそういえばお前、いつもの修道服を……」


 着てないな、と思ったらそもそも服を着てなかった。

 !?!?!?


「日本の冬を舐めるな!!!」

「きゃー!?」


 異世界でも発揮したことがないくらいの俊敏さでもってオレは床に落ちていたジャージの上を羽織らせると即座に目を塞いだ。びっくりした!死ぬ程びっくりした!!


「なんで聖女がそんな格好で異世界転移してんだよ!!」

「いえ、もう元・聖女ですし……皆さんを召喚した時よりは低予算ですので私物の持ち込みも不可でしたし。ていうかあの修道服も教会の支給品なので退職時にはちゃんと返却しないと……あれ、カノン様、これ前どうやって閉めるんですか?」

「………………」


 異世界にはファスナーなんてもんは無かったんだろう、もたつくノエルに代わって、なるべく前を見ないようにしながら留め具を引き上げてやる。

 ノエルは向こうの世界で世話を焼くといつもそうしていたように、頬を染めて控え目に微笑んで言った。


「ありがとうございます」

「ちょっと待ってて、下も何か貸してやるから……」

「これカノン様のにおいがしますね」

「どこで覚えきたんだそんなあざとい台詞!」


 頭を抱えるオレを、ノエルは大きな目でじーっと見つめる。その色は少し不安げだ。


「……あの、やっぱり迷惑でした?」

「え?」

「……いえ、予想はしてたのです。確かにカノン様は私と『約束』をしてくれましたけど、あれからもう数ヶ月……忘れちゃってたり心変わりされていても不思議じゃないって」


 約束。

 忘れるわけがないし、心なんてあの最後の日から少しも変わっちゃいなかった。


「忘れてないよ。……『世界が平和になったら』」

「『会いに行くので、待っててくださいね』……よかった、覚えててくれて」


 ふわっと微笑んだノエルの顔に、思わず笑い返しかけて……オレはハッと頭を振った。


「いや、つーかお前、あの約束した時点では世界が救われないって分かってただろ! オレらに魔王を倒させて自分も死ぬつもりだったのによくもあんな出来もしない約束を!」

「あう。す、すみません、でもどうしても忘れられるのは怖くって……人生最後のワガママというか……」


 そう、アリアによる異世界救済はあくまでイレギュラー。あいつの決断がなければ異世界は勇者による魔王討伐により順当に崩壊していたはずだったのだ。


 そのことに気付いた時は随分落ち込んだものだった。オレはいつまでだって待つつもりだったけど、ノエルはそんなつもりはなかったのかなって。


「……アリアちゃんが本当にあんな選択をするとは思いませんでした。びっくりしたし悲しかったけど、でも、これであの約束が思い出で終わらないんだって思うと嬉しかった」


 だから結構頑張ったんですよ、とノエルは苦笑する。


「曲がりなりにも世界が救われたことで、今さら私の利用価値が上がったりして、あっさり辞めさせてくれるかと言うとそういうわけでもなくて……。まあちょっと強引でしたけど退職届を突き付けて、残っていたありったけの加護の力を使って転移してきちゃいました」

「……そういうの夜逃げって言わないか?」

「大丈夫ですよ。魔王無き平和な世界で、人は自分たちの力だけできっと歩いていける……私はお払い箱です。もしもまた世界に危機が訪れれば神は新たな聖女を選定するでしょうが、それもずっと先の話でしょう」


 そういうもんなのか……。いや、たぶん大丈夫じゃない気がする、あの嫌味な神官達の怒り狂ってる姿が目に浮かぶ。でもまあ、ざまあ見ろか。


「……カノン様からこの世界の話を聞くの、すごく楽しかった。ここに来るのが夢だったんです。だからあの、気持ちが変わってても大丈夫です。生きていく方法はいくらでもあるし、気ままに一人で第二の人生を……」

「変わってないよ」

「…………」

「何にも変わってない。むしろもっと好きになった。お前のことを考えない日は無かった」

「……聖女じゃない私って、結構お荷物かもですよ?」

「オレを誰の兄だと思ってんだよ。面倒見るのは慣れてる、お前なんて可愛いもんだ」


 そう言って笑うと、ノエルは瞳にいっぱい涙を溜めて不器用に笑い返す。

 流れる涙すら綺麗だと目を細め、その頬hに触れようと指を伸ばした時──


「おはよ〜お兄ちゃーん……土曜日だからって寝すぎちゃったよ……朝ごはん、目玉焼きでよければ一緒に作るけど、…………ギャッ」


 寝ぼけてんのかノックもなしに兄の部屋のドアを開けた愚妹は、オレとノエルの姿を目にするとくわっと開眼しわなわなと震えだした。

 弁解しようとするも時すでに遅し、


「…………お、お母さーーん!! 兄が朝っぱらから半裸の金髪美少女をベッドに連れ込んで泣かせてる件ーーーー!!」


 やけに具体的な絶叫を向こう三軒両隣に聞こえるかというボリュームで響かせ、妹は両頬を抑え頭を振り乱していた。

 母さんが早番で出かけててよかった。シフトを組んだであろう勤務先の店長に心の中で感謝を捧げながら、オレは妹の頭を引っぱたいて近所迷惑な叫びを止めた。




 * * * * * *



「.……というわけですので、不束者ふつつかものですがお世話になります」


 居間のコタツの前で三つ指をついて恭しく頭を下げ、ノエルは粛々と述べた。マジでどこで覚えて来るんだそんなの……。

 しかし妹から借りた『ONIKU is JUSTICE』とプリントされた焼き肉総柄のクソだせぇパーカーを着てもなお損なわれないその美少女っぷりに感服する。どこに売ってんだよこんなもん。


「うひゃー高遠くん、コジュート? あたし小姑デビューしちゃったのかな? お味噌汁の味の濃さに文句つけちゃったりしなくちゃいけないのかなっ!」

「ハハ、雨宮さんならどんな味でも美味しく召し上がれるよ」

「やだ〜〜やめてよ兄の前で〜〜」

「たぶんそれ褒められてねえからなアホ妹」


 コタツとだらしなく合体する妹と、その隣で甲斐甲斐しく妹のためにみかんの皮を剥いてやる義弟(仮)。


 実家の居間は謎メンバー4人が集結しカオスの様相を呈していたが、久々の再会にうれしそうなノエルの顔を見ればまあ文句も言えなかった。


「ノエルちゃんにまた会えるなんて、あたしうれしいっ! 遠路はるばるよく来たね、まあまずはみかんでも食べて」

「わあありがとうございます〜」

「てめーの剥いたみかんじゃねえだろ」

「あ痛っ」


 手近な新聞で虫のごとく頭を叩いてやると、タカトー君にものすごい剣幕で睨まれた。怖い……顔面偏差値とは攻撃力に換算されるものなのか……


「つーかタカトー君、アリアがテンパって呼んだからって土曜の朝に律儀に駆け付けなくていいんだぞ。部活はどうした」

「今日の練習は午後からなので」


 サッカー部エース兼部長、というリアが充しまくった肩書きを持つ妹の彼氏は、実に爽やかにそう述べた。


 しかし連絡を受けて慌てて家を出て来たのか、そのサラサラの髪には珍しく間抜けな寝癖がぴょこんと付いていて、さっきからアリアに面白そうにつつかれまくっている。

「やめてよ」と迷惑そうにアホ毛を押さえつけるその顔はしかしどこかうれしそうでもあり、まあ、なんというか爆発しないかな。


「でもこの世界で生きていくにしても、雨宮家のご両親にはなんて説明するの? まさか本当に今すぐカノンさんと結婚なんてするわけにもいかないだろうし……」

「大丈夫ですよ! ふふ、残りカスとは言え元聖女の加護を侮ってはいけません」

「加護?」

「人の認知をちょちょいと操作するぐらい造作もないことです!」

「洗脳だー!!」

「神の告げるところによれば『ホームステイに来た欧州出身留学生で長女の親友、なんか長男ともいい感じ』ポジションが妥当かと」

「あの神は少女コミックでも嗜んでるのか??」

「学校に通うのはさすがにすぐには難しいかもですけど、独学でこの世界の知識は勉強しますね。落ち着いたらアルバイトなるものをして生活費も稼ぎたいです。戸籍とかめんどくさそうなとこもちゃちゃっとどうにかしたいですね」

「割と堅実だ……」


 恐ろしくしっかり者な元聖女に嘆息する。まあそういうとこも好きだなって思うんだけど……。

 つーか雨宮家、元勇者と元聖女と魔王が同居することになるのか? それはまたガラパゴスな。


「いいね、あたしは大歓迎! それでそのうちノエルちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんになったら、あたしがノエルちゃんのお姉ちゃんだもんね? あたし妹って憧れてたんだ〜」

「同い年だろうが。つーかこの場合はノエルが姉だろ」

「ふふ。そうしたら高遠さんが私の弟になるんですか? なんだか面白いですね」


 さらっと爆弾発言をするノエルにタカトー君は顔を真っ赤にして狼狽え、アリアは目を瞬く。


「なっ……! ちょっと聖女さんやめてよ、いずれはそうしてみせるつもりだけどまだそんな気の早い……」

「えー? どういうこと? 意味分かんなーい」


 きゃはっ、と無邪気に笑ったお馬鹿な妹の発言にタカトー君は床に撃沈して動かなくなった。

 かわいそうに……自分の結婚に伴う姻族関係の発生なんて、脳内ゆるふわお花畑のアリアには早すぎる話題だったのだ……。

 しかしさすがは破壊の神をその身に宿すだけあって見事なフラグクラッシャーっぷりだった。我が妹ながら恐れ入る。


「つーかまだ結婚なんて決まったわけじゃ……」

「あっ……や、やっぱり嫌ですか? それでしたらお友達からでも……」

「いや、友達なんて絶対嫌だけど! ……その、オレがちゃんと就職して、まともに稼げるようになったら正式に申し込むからそれまで待ってて……」


 それって相当先だな、と自嘲したけど、ノエルは嬉しそうに顔を綻ばせて大きく頷いた。


「はい! 待ってます! 約束ですよっ」


 満面の笑みで差し出された小指に、気恥ずかしさに苦笑しながら自分の指を絡める。

 ヒューヒューとうるさい妹の祝福と羨ましそうな未来の義弟の視線を受けながら、オレはひとまず大学受かんないとな、と気合を入れるのだった。



 しかしこの日から連日、元聖女の猛アタックと、更にうるせえ妹と、妹の彼氏からの恋愛相談(という名の惚気(のろけ))に悩まされ勉強どころじゃなくなるとは、未だ幸せにひたるオレにはまあ想像もできないのだった。


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