一〇七号室
ある寒い冬の夜、東京の小さなアパートに住むれいは、一人で夕食を終えた後、ソファで読書をしていた。そのとき、電話が鳴り響いた。珍しいことで、れいは普段、ほとんど電話を受けることがなかった。
「もしもし?」と電話を取ると、受話器の向こうからかすかな女性の声が聞こえた。「助けて、ここから出られないの。」
れいは驚いて、「誰ですか?どこにいるの?」と尋ねたが、電話はすぐに切れてしまった。奇妙な電話に不安を感じたれいは、再び本に集中しようとしたが、どうしてもその声が頭から離れなかった。
翌日、れいは大学でこのことを友人に話した。友達の一人、棚橋は都市伝説や怪談話に詳しく、「それって幽霊からの電話かもしれないね」と半ば冗談で言った。しかし、れいは笑えず、その夜も心のどこかで電話が再び鳴るのではないかと感じていた。
案の定、深夜になって再び電話が鳴り響いた。「助けて、ここから出られないの」と同じ声が聞こえた。れいは何とかその女性の助けになりたいと思い、「どこにいるの?住所を教えて」と必死に尋ねた。今度は返事があった。「東京都、新宿区…一〇七号室」その瞬間、電話が再び切れた。
れいは次の日、まさかとは思いつつも新宿区に向かった。教えられた住所は、れいが通う大学からすぐ近くにあるアパートだった。一〇七号室を探し勇気を振り絞りインターホンを押した。そこから現れたのはなんと棚橋だった。「なんでれいがここにいるの?あがっていく?」わけがわからなくなり動揺していたれいは、「いや、大丈夫!また明日ね」とすぐに帰路についた。
帰宅後、れいはさらに調べるため、過去のニュース記事を検索した。その結果、気になる記事を見つけた。数ヶ月前、れいが通う大学で女性が行方不明になったらしい。とても綺麗な女性だったらしく、誰かに殺されたのではないかという噂もあった。
「全然知らなかった…でもどうして…」れいは恐怖に震えながらも、「まさかその女性は亡くなって、幽霊になってあそこにいるってこと…?」だとしたら棚橋が危ない。
次の日の深夜、再び電話がかかってきた。れいは電話に出て冷静にこう言った。「あなたを助けるために何ができるか教えて。」今回も返事があり女性はこう言った。「ありがとう…」そしてすぐに電話が切れた。
その後、れいのもとにその電話がかかってくることはなかった。おそらく、彼女の言葉が、囚われた魂に安らぎをもたらしたのだろう。棚橋も普段通り大学に通っている。れいは安堵感を覚えつつまたいつも通りの生活に戻るのだった。