卑怯
月曜日を迎え、登校した私は教室に脚を踏み入れると、瀬楽と橘の背中が視界に入る。
西野と立原の姿は教室にない。
私は二人に気付かれまいと忍び足で自身の席へと歩んだ。
「茂畑ぁー、はよぅ〜!」
「千尋ぅー、おはぁ!」
橋爪と加佐生に離れた位置から挨拶をされ、唇に立てたひとさし指を押し当て静かにと制した。
「茂畑さんっ!もう来てんじゃん、挨拶くらいしてよぅ!」
「千尋ちゃん!?あれぇ〜?来たんなら挨拶してってばぁ!親友でしょ、私らぁ!!」
「ぁあぅ……おはよ、芽依ちゃん。橘さんも……」
「千尋ちゃん、引いてるぅ?酷いなぁ、朝から引くなんてさぁ〜!なんもしてないじゃん?」
「ダネぇ〜瀬楽もウチも引かれるようなことしてなくねっ?二人なら、揃って休みってさ。放課後さぁ、三人で遊ぼ〜!ねぇ〜?」
瀬楽と橘が私の傍まで駆け寄って左右から唾を飛ばす勢いで追及され、逃げ道を阻んできた。
二人が両肩をいやらしく撫で続けながら、言葉を続ける。
「ぃっ……ゃあぁっ、あっ……あ、その……近すぎじゃない、かなぁ……?挨拶しなかったのは謝るから……えっと……おぅっ……おちぃ、つこ……う。ね?」
元凶のバカップルが肩を寄せ合いながら、私と変態二人を眺めながら首を傾げていた。
あっンのぉっ、バカップルめぇぇッッッ!
「落ち着こ?いやぁ〜ショックだよぅ、落ち着けないてばぁあっっ!!私は千尋ちゃんに挨拶されなかったんだよぉおおぉぉ〜!!大号泣案件だよぅッッッ、私がいつ千尋ちゃんに挨拶されなくなるようなコトぅしちゃったってぇ〜言うのさぁ〜ッッッ!!!私が納得出来るように説明してぇ〜うわぁぁあぁああぁぁぁ〜〜〜んんんンンッッッ!!」
瀬楽が私の胸に顔を埋め、背中に両腕を回し抱きつく体勢で、泣き出した。
彼女の涙が足許に数滴落ちたが、欠伸で出た涙だろうことは理解っている。
「瀬楽の言う通りだよぅ〜うぅゔぅぅっぐすぅっ……ウチらが茂畑さんになにをしたって言うのぉ……ううゔぅっうぇあぁ……哀しいぃよぅ……ねぇ……ぅゔぅぅっ……もぉうぅ……ばぁたざぁああぁぁん!!」
橘には肩を掴まれ、揺すられる。
この友人、二人は卑怯だぁ……
教室内にいる生徒らが私を責めるような瞳でこの光景を傍観しだした。
あぁああッッッもうぅぅ〜〜!!
西野ぉおおおぉぉおぉおぉぉおおぉぉぉ、なんでこんな日に限って休むんだよぉぉおおぉぉぉ!!!!!
私は西野に助けを求めたくて仕方なかった……
私は目の前の二人に愚痴を吐き散らしたい思いでいっぱいだった。