ホワイトデーは好きでもないのにキスをさせられた
季節外れのホワイトデー。
3月14日、ホワイトデーというイベントは憂鬱だ。今年は特に迎えたくなかった。
恋愛感情が微塵も湧かない相手からバレンタインデーにチョコレートを渡され、私は彼女に友人と同じ市販の板チョコを渡した。
常日頃から、恋愛感情を抱いてないというが、諦める気配が感じられない彼女だ。
午後の授業が終わり、放課後になるといつものメンバーが私の席に集まってきた。
「ウチさぁ、瀬楽と一緒に帰りたいんだ。ウチら、別で帰って良い?」
「ちょっ——なに勝手に決めてんの、橘!私は皆と帰り——」
「私は別に強制してるわけじゃないから、好きにしなよ二人。千尋とバカ、行こっか」
「うん。二人で帰るの、良いじゃん!頑張って、橘さん!二人でホワイトデー、楽しんでね〜!」
西野と茂畑が立原を連れて、教室を出ていく。
「ちょっ、私も一緒に行っ——」
「瀬楽、一緒に帰ろっか」
二人プラス一人を追い掛けようとする私の片腕の手首を掴み、逃走を阻んだ橘。
私は橘に手を繋がれ、廊下を歩み続ける。
首に巻いたマフラーに顔を埋めながら、思いを告げる。
「私はアンタのこと、恋人同士になりたいって思って見てないよ。千尋ちゃんが好きなの」
「知ってる。本命、あげたんだから……板チョコじゃ足んないって。キスくらい……してよ。茂畑さんとは数えらんないくらいしてんだから……私としたって変わんないでしょ?ねぇ、して」
「はぁー……キス、かぁ」
「私と彼女、どこが違うの?彼女にするみたいにキスしたり抱いてよ、瀬楽!」
「着たくもないやつ着せてくるから、嫌なの。橘でオナニーが出来ない、そもそも。好きになれない」
私は橘に彼女が住むアパートに連れてかれ、上がる。
彼女にもてなされ、狭い寝室に連れてかれ、隣り合いベッドの上で座らせられ、キスをせがまれる。
「芽依、キスしてよ。お願い、キスしてくれなきゃ芽依が茂畑さんにやったように襲う。これでももうギリギリなんだ、楽にしてよウチを」
私は彼女の頬にキスをした。
「ありがと、芽依」
私は橘に帰らせてもらえず、茂畑と楽しめることなく、ホワイトデーは彼女の言いなりになって終わっていた。