恥ずかしさと驚き
昼休憩に入り、昼食を摂り終えた私に隣で昼食を摂っていた瀬楽がある提案をした。
「千尋ちゃん、暑いから涼みに行かない?」
「え?あ、うん。図書室?」
「違う違う!外やって。嫌ぁ?」
「勉強できる癖にバカいってらぁ!はははっ!」
立原が口を挟み、大声で笑う。
「リサと話してないやろ、黙ってろ!で、どう?」
瀬楽が立原に一喝して、私に顔を向けて再び訊いてきた。
「わかった、行くよ」
「じゃ、先に行っといて!職員室の側の花壇になぁ!」
「……え、わかった」
私は椅子から立ち上がり、立原と口論を始める瀬楽を教室に残し、教室を出て昇降口へと歩み出す。
私が昇降口でスリッパからスニーカーに履き替え、外へと抜け、職員室の前にある花壇で瀬楽を待つ。
瀬楽は10分も掛からずに姿を現した。
「ごめん、待たせて。じゃ、そのまま立ってて」
瀬楽が花壇の側に設けられた蛇口が四つも並ぶ手洗い場に駆けていき、ホースを掴んだのと同時に勢いよく水がホースから噴射し、私の身体に掛かる。
「ちょっ、芽依ちゃ——ぶはぁ、はぁはぁ……あぶぁ、ぶぼぉ……はぁはぁ……芽依ちゃん、何すんの?」
「あははは!千尋ちゃん、涼しい?気持ちいいでしょ〜!わぁ〜千尋ちゃんのたわわに実ったお胸が激しく揺れてるよぅ〜!あははっ、あはははっ!楽しい〜ねっっ!」
瀬楽が無邪気な笑顔で楽しげに私に水を掛けてくる。
私はホースから勢いよく噴射する水から懸命に逃げるが腰から上を狙われ、水に濡れていくブラウスが透け、ブラジャーがはっきり見えだす。ブラウスが肌に張り付いていき、頭上の教室にいる生徒たちにブラジャーを見られまいと片腕で胸を保護し、もう片腕で水の勢いを拡散する。
「もう満足したから、これ以上はやめて!芽依ちゃん、もう涼しくなったからやめて!」
「そ〜おぉ?涼しくなった〜?もっと涼も〜!」
私の叫びに応えながら、水を掛け続ける彼女だった。
普段の彼女なら、節度を守る娘なのに執拗にホースで水を掛けてくる。
「芽依ちゃん、もうやめてってばぁ!涼しいっ、涼しくなったからもう十分だよっ!」
「ほれほれぇ〜!楽しもっ、もっともっと楽しも千尋ちゃん〜!」
髪もびしょびしょに濡れ、毛先から水滴が滴り落ちる。
「コラぁー!そこの二人、なに騒いでる!?さっさと片付けて、教室に戻らんか!全く、高校生になって何を馬鹿なことを。さっさと、戻れぇ〜!」
職員室の窓が開いて、禿頭の教頭が張り上げた怒声で叱ってきた。
「はぁ〜いぃ……さぁーせんしたぁ〜」
「……すみませんでした」
「何だぁ、その態度はっ!全く近頃の若いやつは……」
教頭が瀬楽のふてぶてしい謝罪に怒り心頭だった。
「何で私まで……」
「あぁ……そのごめん、色々と。私のブラウスも同じようにして良いよ……着替え、借りに行こ」
「スカートも濡れたよ……やり返す気力なんかないよ、芽依ちゃん」
「楽しくなりすぎてついやり過ぎた……千尋ちゃん、ほんとごめん」
彼女が顔の前で両手を合わせ、謝る。
「立原さんのストレスを私で発散するのはやめてね……」
「そういうんじゃ……涼もうとしたのは嘘じゃなくて」
「わかったよ。早く借りないと授業に間に合わない……行こ、早く」
スカートの裾から滴る水をアスファルトに落としながら、校舎へと入った。
保健室に到着すると、扉の側に愛宕智香が佇んでおり、私と瀬楽を見据えた。
「風邪にお気を付けてください。茂畑さん……」
「……ありがと」
「……」
私と愛宕のやり取りを無言で見守り、愛宕に浅く頭を下げた瀬楽。
多和教諭から着替えを受け取り、着替える私。
ノートパソコンのキーボードを打ちながら、軽い説教をした多和教諭だった。
放課後になり、昇降口に到着し、スリッパを下駄箱に突っ込み、スニーカーを掴んだ瞬間に横から声を掛けられた。
「茂畑さん、奢るから少し良いかしら?」
多和教諭が下駄箱に片手を突いて、佇んでいた。
ベンチに腰掛け、缶を傾け珈琲を喉に流し込む多和教諭の横顔も同性であるのに、惚れてしまいそうに思えた。
「さっきはああ言ったけど、はしゃげるときは限られてんだからはしゃげるときにはしゃいどきなよ。私も高校んとき、紗代子に同じめに遭わされて、茂畑さんが抱いてる感情になったことがあるわ。過去を振り返るときが来たら、案外その感情も素敵だったと思えるわ」
「紗代子……さんって?」
「あんたらの担任だよ。ああ見えて、高校んときの彼女はやんちゃでねぇ……あいつとは一歳差だが、まあよくつるんだダチで……茂畑さんには言えないことをした仲でもある。昔のあいつとは違うから、瀬楽さんは大丈夫だろ。安心しな、茂畑さん」
「は、はぁ……ありがとうございます」
私は多和教諭からの驚く情報を聞いて、15分ほどの会話を交わして、別れ帰宅した。