私の味方は何処に……?
翌日の7月14日。
私が起床し、上瞼を上げると以前まで住んでいたボロいアパートとは違ったシミのない白くてチカチカする天井が瞳に映る。
私と母親の茂畑母娘が引っ越してくる以前の一年程の期間は、私の自室として与えられた四畳のこの部屋は埃っぽく物置き部屋となっていた。智香の祖母が病死して母親が何も言わずに出ていった以降の、彼女の祖母と母親の使用していた物の物置き部屋は、私にとって広い部屋だ。
私は上半身を起こし、欠伸をして両腕を天井へと伸ばし、深呼吸を繰り返す。
「はぁー。慣れないなぁ、やっぱ……」
昨夜の義妹の自室で彼女にされたタチの悪い悪戯がフラッシュバックして、左手のひとさし指をこめかみへと持っていき、押さえた私だった。
愛宕智香という彼女は、他人との距離感を測り違えている。
私は彼女にキスされ舌を入れられた口まわりを、左手で触れた。
彼女が昨夜見せた恍惚とした笑みに、悍ましさが身体中を這う感覚に肌寒くもないのに震えた。
私は彼女が自身に見せる表情に、嫌悪感を感じずにはいられない。
本日の授業で体育があり、三クラスの女子が合同で受けることもあり、誰かが欠席をしたら彼女と準備体操を行う確率が高まる。
体育の授業指導の教諭は、愛宕が余ることに慣れており、私に彼女のパートナーを押し付けてくるのだ。
私は、体育がある曜日は憂鬱にならざるを得ない。
身体が、鉛のように重い。
コンコンと、扉がノックされ覚醒しきっていない智香の低い声が聞こえた。
「お義姉ちゃん。おはよー、起きた?入っていい?」
「おはよ、愛宕さん。良いけど、悪戯はやんないでよ」
「うん……でもさ、パパやお義姉ちゃんのお母さんはしてるんだよ。私もお義姉ちゃんにキスくらいしたって——」
「お母さんたちは夫婦なんだからそれは良いよ。けどッ、私と愛宕さんは義姉妹で夫婦って間柄じゃないんだからおかしいでしょ!」
「……お義姉ちゃん、今日女の子の日で機嫌悪いの?」
「違うって!……そうじゃ、ない。兎に角入って、愛宕さん……」
「分かった……お義姉ちゃん、ごめんなさい。私のこと……嫌い?」
「……嫌いじゃないよ、愛宕さんのこと。ただ……愛宕さんのようなことする娘が居なかったから、どう接したらってだけで。……おはよ、お腹空いてるからさきに降りよ」
自室に入ってきた智香が、私に歩み寄ることなく、扉を開けたままに佇む。
智香が穿いていた大胆に太腿が露出した水色の薄い短パンの方に、視線がいってしまう。
「うん……そうだね」
ソファーベッドから脚を下ろし、立ち上がった私は彼女が佇む扉の方へ歩いていく。
私は、彼女と洗面所に向かい洗顔を済ませて、リビングへと降りていく。
リビングでは、母親の姿だけで、義父はすでに仕事に出た後で居なかった。
「おはよー、二人とも。ちぃちゃんダメじゃないの、智香ちゃんに声を荒げてぇ〜仲良くしなきゃね。智香ちゃん、ちぃちゃんが怖がらせるようなことしてごめんなさいねー」
母親がキッチンから挨拶をして、私が智香にした行いを咎めて謝った。
フライ返しを指揮者のように振りながらの母親だった。
私は、以前まで母親と住んでいたボロいアパートよりもこの一軒家が居心地の悪いように感じていた。