そんなの、嫌!
「もっとそばに来てよ、お義姉ちゃん。家族になったんだよ、私たち……」
ベッドの上で両脚を伸ばし、腰から僅かに離した位置で両腕をつき、上半身を支える体勢の義妹——愛宕智香が、ベッドに上がってくるように促してきた。
「良いよ、私は別に。あの、さ……愛宕さん、その呼び方はちょっと嫌なんだけど」
私は、愛宕が呼んだ呼び方に低い声で不満を感じたと正直に返答する。
「えー、なんでそんな嫌そうなの。お義姉ちゃんって呼ばれるくらいなんも生じないじゃん……学校じゃないんだし。地味な女子に馴れ馴れしくされるのが嫌なの、茂畑さんって?」
「別にそういうんじゃ……なくて。愛宕さんって、ほんと別人みたい……学校じゃあんま他人と親しげにしてるとこ見ないのに」
「私みたいな底辺の地味なのが、お義姉ちゃんみたいなカーストの一軍に近づけるわけないでしょ。それに私たちが家族になった日に言ったでしょ、私が茂畑さんを好きだったって。パパが茂畑さんのお母さんと偶然再婚してくれたから、こんな幸せに恵まれたの!」
彼女の昂揚感に、怖気づく茂畑千尋だった。
私は、母親の茂畑美智子が再婚相手を紹介したいと告げられ、その日に再婚相手の愛宕孝彦と連れてきた娘の智香の二人と顔合わせをした。
顔合わせを済ませた日に、愛宕親娘が帰宅せずにアパートに一泊して、就寝前に彼女から私に対し好意を抱いていたことを告げられ、胸を揉まれた。
愛宕は、高校一年生だった去年はクラスメイトでクラスが一緒だったが、会話と呼べる会話は交わさなかった。
今年は違うクラスであり、彼女とはクラスメイトではない。
私は、モスグリーンのラグの上で脚を崩し座ったままで、彼女が寛ぐベッドに近づけなかった。
「私にそういう趣味はないから……」
「お義姉ちゃんの胸を揉んだのは承諾を得られたからで、無理やりじゃなかったはずなのに。警戒し過ぎでしょ、胸を揉まれたくらいで……」
「たとえ女子でも胸を揉まれることは嫌だし。喜んでるふうに見えた、愛宕さん?」
「嫌がってたっていう割に、喘いでた記憶があるけど……私には。男子の一人や二人に胸を揉ませてるふうに見えるんだけど、お義姉ちゃんって?」
「私はそんな交際なんてしてないっての!ギャルみたいな女子が全員遊んでるような偏見はやめてくんない、愛宕さんッ!」
私は声を荒げ、彼女の偏見を否定した。
「私はそこまで言ってないよ。まぁ……ごめんなさい。お義姉ちゃんの嫌がることしないから、そばに来るだけ来てよ」
私は、仕方なく彼女の命令に従い、立ち上がりベッドに歩いていき、ベッドの縁に腰掛けた。
7月13日の火曜日の放課後。
愛宕智香の自室のベッドの上で、彼女の指示に従う茂畑千尋だった。
室内は、エアコンの冷房が効いているはずなのに、身体中が火照るように熱く感じる私だった。