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代償の向こう側~不死の男が娘と歩むその先 神の力を持つ者は彼らに何を思うのか~  作者: yaasan


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耳長種

「久方ぶりに人族の世に来たが、貴様たちは以前と何も変わらない。飽きもせずに同族同士で殺しあっているのだな」


「耳長種……」


 グレイはやっとそれだけを言った。

 本や話では読んだり、聞いたりしたことがあった。魔法という物を自在に扱う不可思議な存在。それが耳長種だった。


 魔法といわれるものが本当にあるのかは置いておくとしても、耳長種自体もこの目で見るのは初めてだった。


「耳長種か……けったいな名前をつけおって。見たままではないか。そこに何の尊敬も捻りもない」


 グレイの言葉を受けて、彼女は不満げに呟くように言う。そして、グレイを一瞥したあとでさらに言葉を続けた。


「人族の王よ……無惨で慈悲の欠片もないような酷い光景だな。それこそ女子供も関係ない。それを神の名の下で行えてしまうこと自体が、きっと貴様ら人族の罪なのだろうな」


「お前の……仕業なのか?」


 言葉の意味が分からなかったのか、彼女は小首を傾げた。


「お前が魔法と言われるもので……時を止めたのか?」


「知っているか、人族の王? 貴様たち人族が魔法と呼ぶのは神の力なのだよ」


「神の力……神……ならば、助けてくれるのか?」


 再び問いかけるグレイに彼女は小首を傾げた。それを見てグレイは言葉を続ける。


「神なのだろう。これは神の力なのだろう?」


「神の力には違いがないが……」


 彼女はそこで一瞬だけ言い淀み、再び口を開いた。


「なぜ、私が貴様たちを助ける必要がある? 私には貴様たちを助ける理由などはないと思うがな」


「酷い光景なのだろう? 神ならば慈悲の心があるのだろう? ならば、その心で助けてくれ」


「ふむ……」


 グレイの反論に彼女は少しだけ考える素振りをみせ、そして今度はゆっくりと口を開いた。


「貴様はいくつか勘違いをしている。まず、神の力といわれる物を持っているだけで、私たちは神などではない。そして、先ほども言ったように、私には貴様たち人族を助ける理由がない。それに例え神であったとしても、神は貴様たちを助けぬさ」


 言い放たれた勘違いという言葉。だが、言われた言葉の真意がグレイには分からなかった。それに神が自分たちを助けないとはどういう意味なのか。


「どうしてだ? 神は慈悲深く人族に寄り添ってくれるものなのだろう?」


 グレイにとっては率直な疑問だった。


「神が慈悲深いと一体、誰が決めたのだ。貴様たちに寄り添うものだと誰が言った? 貴様たち人族が勝手に作ったいくつもの神。その神を作る過程で、貴様たちが勝手に決めただけのものではないのか? 考えてもみろ。神が慈悲深いというには、この世は悲しみで満ち過ぎている。そうは思わないか?」


「では、お前が言う神とは何だと言うのだ?」


「神とは、どこまでも清廉な存在なのだよ。神が我々も含めて貴様たちに慈悲を与えたとするのならば、それは与えられたものではない。その慈悲は神が持つ清廉さの中で偶然に生まれ、もたらされた産物に過ぎないのだよ」


「神の本質が何なのか……そんなことはどうでもいい。この状況が酷いとお前は思ったのだろう? 悲しみで満ちていると思ったのだろう? ならば、救ってくれ。妻と娘を。この公国を! 神の力を持つというお前にはそれができるのだろう?」


 それがグレイの率直な思いだった。そんなグレイに対して、彼女は再び少しだけ考える素振りをする。


「久しぶりに人族の世に来て、気が昂ったのかもしれぬな。あまりにも無惨な光景を目にして、思わず時を止めてしまった。そして、貴様が言うように、私がこの状況を無慈悲だと思ったのは事実。だからこそ、時を止めたのだからな」


「頼む……神の力で俺たちを救ってくれ……」


 グレイはそう言って茶色の頭を垂れた。彼女が神だろうが、そうでなかろうかは関係がなかった。


 この地獄のような状況を救ってくれるのであれば、彼女が何者であろうが関係がなかった。そして、それと同様に神が何であるかも、今は関係がなかった。

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