嘆願
その考えはネイトの中で日に日に高まり、大きくなっていった。可能であれば一日中、カレンの傍らで看病をしてあげたいのだが、今は半年の中で一番忙しい収穫の真っ最中だった。だから、日中はひと時もカレンの傍にいてあげられないのが実情だった。
カレンは六歳。ネイト自身もまだ十歳でしかないのだが、それでも収穫の時期ともなれば、その作業の大きな助けになる。
猫の手も借りたいような収穫の時期に、体調が悪いとはいえカレンを休ませてくれるだけでもありがたいのだ。カレンも寝てさえいれば、いずれは体調も回復するだろう。
ネイトは敢えてそう考えながら、収穫作業に精を出していた。それに、休ませてもらっているカレンの分も自分が働かなければとの思いもあった。
しかし、いくらそう考えても熱が下がらない日々が重なるに従って、不安を打ち消せるどころか、懸念がネイトの中で増えていく一方だった。
やはりここまで熱が下がらない日が続くことはおかしい。今回の発熱は、これまでのものとは違うのではないだろうか。
その考えはやがてネイトの中で確信へと変わっていった。奴隷の身である自分たちが、高額な薬を手にすることはできやしない。ましてや医者に診てもらうことなどは、もっての他だった。
だけれども、このままでは……。
ネイトがそう考えた時だった。
視界にネイトたちの主人であるルイーズの姿が入ってくる。ルイーズが使用人や奴隷たちが働く農場に姿を見せることは珍しいといってよかった。
頭を下げるる奴隷や使用人たちに向けて鷹揚に言葉を返しながら、ルイーズはゆっくりとネイトがいる方向へ進んでくる。
今だ。今しかない。
ネイトは心の中で呟く。
ネイト自身はルイーズと会話を交わしたことは殆どなかった。ルイーズに何かを命じられて、その返事をしたことがある程度だ。
だけれども……。
ネイトは大きく息を吸い込むとルイーズの前に進み出た。急に現れたネイトにルイーズは一瞬だけ驚いたような顔をする。だけれども、すぐさまその顔に柔和そうないつもの笑顔を浮かべた。
「君はネイトだったね。急にどうしたんだい?」
ルイーズが白い歯を見せて口を開く。今年、四十歳になると聞いているが、その顔を見る限りでは、まだ三十代前半にしか見えない。
「あ、あの……」
「どうしたのかな? 大丈夫だ。落ち着いて言ってごらん」
急に現れて口ごもるネイトを前にしても、ルイーズは柔和な笑みを崩さない。
「ルイーズ様、妹を休ませてくれて、ありがとうございます」
ネイトは一息でそう言うと頭を下げて、さらに言葉を続けた。
「ルイーズ様にお願いがあるんです」
「何かな? 別にカレンのことは気にしなくていいんだよ。そもそもカレンはまだ幼いからね。大した作業ができるわけじゃない。そうであれば、体調がよくなるまで休んでいる方が効率的だろうからね。で、お願いとは、一体何だね?」
ルイーズは優しげな微笑を浮かべたままでネイトの言葉を促した。
「あ、あの、カレンの具合が全然よくならなくて……寝ているだけでは駄目みたいだから……それで、薬とか医者に診てもらえないかなって……」
ネイトの訴えを聞いて、僅かにルイーズの眉間に皺が寄ったような気がした。
「ネイト、お前はルイーズ様に何てお願いを!」
その怒鳴るような言葉ととともにネイトは背後から頭を押さえつけられた。
子供の力では抗えるはずもない物凄い力だった。ネイトは両膝を大地につけるだけでなく、そのまま上半身を折って額も大地につける格好になる。
「謝れ、謝るんだ、ネイト!」
半ば怒声のような言葉を発して背後から自分を押さえつけているのは叔母、シャーリーンの夫であるイアンだった。




