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ホラー短編集

作者: 山岸マロニィ

 玄関を開けると、砂のようなものが散らばっている。

 それは点々と足跡を描いて廊下を進み、娘の部屋に繋がっていた。

 扉越しに声を掛ける。

「帰ったの?」

「うん、ただいま」

「おかえり」

 そう言うと掃除機を持ち出し、廊下の砂を吸っていく。玄関の砂も丁寧に掃き集める。


 次の日。

 玄関を開けると、砂のようなものが散らばっている。

 それは点々と足跡を描いた後、引き摺るような跡を残して、娘の部屋に繋がっていた。

 扉越しに声を掛ける。

「……帰ったの?」

「うん、ただいま」

「おかえり……」

 そう言うと掃除機を持ち出し、廊下の砂を吸っていく。

 今日はいつもより量が多い。

 いっぱいになった中身を出すため、キッチンの隅に行って、棚からクッキーの缶を取り出す。

 蓋を開ければ、そこには半分ほど砂が入っている。

 掃除機の中に溜まった砂を、埃を除けながら慎重に、ピンセットで缶に移す。

 真っ白なそれは、カサッと乾いた音を立てた。

 その途端、視界は(にじ)み、涙が(あふ)れる。


 ――これは、半年前、骨になったあの子の欠片(かけら)


 骨だけになった体で、毎日、帰ってくる。

 幼い骨は歩く度に摩耗して、砂粒のような欠片を落としていく。

 そして今日、とうとう大腿骨が擦り切れてなくなってしまった。

 だから、腰骨を引き摺って進んだのだろう。今までにない大きな欠片をピンセットで摘むと、激しい後悔が私を襲った。


 ――死ぬ直前、「絶対に帰って来なさい」と、私が言ったから。

 体全てが砂になり、この缶がいっぱいになるまで、素直なあの子は帰ってくるだろう。


 缶を抱き締め慟哭(どうこく)する。

「ごめんね……もう帰らなくていいと言えない母を、許して……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画より拝読いたしました。 これ、凄く共感しちゃいますね…… たとえ骨になってでも帰ってきてくれるのであれば、止めることなんてできない><
[一言] いでっち51号様の企画より参りました。 死んだ子供の名残が「砂」であることが秀逸。これが「泥」や「水」や「血」などの物質であったならば、もっと陰惨で禍々しいテイストの物語になっていたであろう…
[良い点] 拝読させていただきました。 まずなんと言ってもタイトルが秀逸ですよね。「砂」というタイトルだから当然「砂」にまつわる怪異の話かと思いきや、異化効果を働かせることで「砂」の印象を反転させる…
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