僕っ子勇者はほどほどの冒険を所望です。
いつ、誰が言い始めたのだろうか?
僕は何をしてきたのだろうか?
「勇者様じゃー!勇者様が戻られたぞ!!」
『うっ、あれっ?』
僕は突然、目の前に繰り広げられる情景についていけてない。
確か、今日は幼馴染の唯の買い物につきあって、ショッピングモールに来ていたはず、唯がお礼にとかき氷をご馳走様してくれたのは覚えている。かき氷はキーンと冷たくて頭に響いてて。
ドスドスドス!
迫り来る地を揺らすような物音が近づいてくる。
「勇者様!後ろ!」
「きゃー!勇者様ーー!」
振り返ると、
そこにオークがいたのです。なぜオークだと分かったかというと僕、加藤颯太 高校2年は結構、異世界もののラノベ好きで、web小説を読み漁ったくちです。
そうこう言っているうちにオークの振り上げた斧の刃先は僕の頭上にあり、周りのおじいちゃんや、おじさん、おばさんの悲鳴がすごい事になっている。
走馬灯とはこういう事を言うんだね。
スローモーションというより、コマ送りな感じのオークの動きに僕は考える時間がまだあるようだ。反射的に頭部を庇おうと右手を上げると、その手に剣を持っている。
身長差を感じつつ、急所がどこかも分からないので、とりあえずオークはサウスポーだったので、オークの左脇腹から、右首筋に向けて、剣を下から突き上げ刺した。
その刃先が首筋から見えた瞬間、大量のオークの血で辺り一面が、真っ赤に染まる。
ドサッ
崩れ落ちるように横たわるオーク、
コマ送りの時間も解除されたように、
おじいさんが僕に駆け寄ってくる。
「おおっ!勇者様、ありがとうございます。しばらくお姿が見えなくなって
急に現れたので、驚きましたのじゃ」
「いえ、戻ったとか、現れたとか、よく分から、、」
僕は初めてこの場で発した自分の声に驚いた!
女の子の声に聞こえる、よく自分の録音した声は自分の頭で響いている声が違うのでがっかりしたということを聞くが、そんなレベルの話ではない。
慌てて近くにあった壁際の水の入った瓶から水を掬い顔を洗う、
そしてその姿を映してみた。
女の子である。
しかも結構可愛い。
まだ血生臭さが残る体も、よく見ると白銀の鎧らしきをその身に纏っている。
オークいきなり来襲よりも、この身の変わりぶりに腰が抜けました。
しばらく立たないでいる僕に
先程声をかけてくれたおじいさんが、また近寄ってきた。
「勇者様、オークキングの後始末は村の者でやりますので、勇者様は我が家の方でお寛ぎくだされ」
「さあ!皆の衆、後片付けを」
「へい!分かりました!」
数人の男の人が手際よく後片付けを行なっていく。
そういえば、オークキングとかおじいさん言ってたな。オークの上位種か
何はともあれ、生きているのに、不思議と実感がない。
夢なのか?とほっぺをつねってみた。夢なら覚めよ。と
「いたっ!」
発する声はまたもや女の子のものである。
少々腰砕けな感じではあるが、おじいさんに指定された家に向かい、扉を叩く。
「はい〜、これは勇者様、どうぞどうぞお入りくださいな」
中からは気のいいおばさんが出てきて、家に招き入れてくれた。
「お食事にします?あっ、先にお風呂ですね。着替えは娘のを使って下さいな。」
「アーニャ!お客様にお風呂をご案内して!あなたの着替えを、お貸ししてね。」
「はーい、わかったー、お母さん」
アーニャに連れてかれて、脱衣所で服、鎧を脱ぎ、一通り洗い流した後、
湯船に浸かる。
出るとこは出てるし、持っていたものが無い。完全に女の子である。
異世界、オークキング、勇者、などの重要な思考そっちのけで、今はなぜ女の子なのか?が僕の思考を支配するのであった。